第23回 ボーンセンター露天風呂「ぐるぐるめぐりの創造的まち育て」

◇ 講演要旨 ◇

今回の露天風呂はボーンセンターで出版した『ぐるぐるめぐりの創造的まち育て』(ハーバート・ジラルデッド、塚田幸三訳、ボーンセンターブックレット)の木下流解説であります。
構成は3部、次のような内容です。
T.持続可能な都市とは?
U.世界の事例のぐるぐるめぐり
V.千葉のぐるぐるめぐりの創造的まち育てはいかに?(討議)

T.持続可能な都市とは?
本の原題は「Creating Sustainable Cities」。「sustain」とは今更言うでもなく下へ保つ「を支える」であり、「(生命を)維持する、人を養う、…を続ける」というような意味があります。1987年のブラントラント・レポートで Sustainable Developmentが提起され、これは「持続可能な開発」と訳されていますが、正確には「未来における必要性を満たす能力を脅かさないで、現在の必要性を満たす開発」であります。
さて訳本の出版にあたって前代表の延藤安弘氏は「ぐるぐる巡りの創造的まち育て」と名づけました。まち育てとは何かというと、プロジェクトによる開発ではなく、時間をかけて都市再生や自然再生に叡智を働かす市民主導型の永続的取り組みのことです。この方が持続可能の理に適っているわけで、モノの循環とヒトの循環、知恵や情報の循環など様々な循環をぐるぐる巡りと称したのかと思います。
さてこの本の基調となっている原則には二つあります。一つは1992年に開かれてリオデジャネイロの環境サミットで提起されたローカルアジェンダ21、もう一つは1996年にイスタンブールで開催されたハビタットUです。わが国ではローカルアジェンダ21に基づいて都市計画をどのように導いていくかそういった行動計画が論議されたことはありません。その§28には1996年までに地方公共団体が住民と協議して具体的に地域レベルでの行動計画への合意がうたわれていますが、都市計画にそのための変更が加えられたことはない。またハビタットUでは安心して住み続けられる権利とともに「都市ガバナンス」がうたわれています。これは「住民参加型まちづくり」、「持続可能なまちづくり」を強調し、それが「グローバルパートナーシップ」(中央政府と地域コミュニティ、公的セクターと民間セクター)を組んで、「男性も女性も、少年も少女も全てが自分たちの都市の形成と発展の一助となることに、そして都市が市民に提供する生活の質に、個人的責任を感じる状態を目指さねばならない」という目標の実現に取り組むことです。
この本ではそのために、自分たちの都市が消費する食料やエネルギーを供給するためにどのぐらいの土地を必要としているかを示すエコロジカルフットプリントをまず認識することの重要性を指摘しています。そして最後の方に次の12の質問を投げかけます。この質問が私は具体的でわかりやすく、千葉県にあてはめて考えたらどうだろうか、というのが第V部の討議で皆さんにおはかりしたい点であります。

1.年次環境報告書をまとめているだろうか
2.調達を決定する際、ライフサイクル分析をしているだろうか
3.住民の環境教育を支援しているだろうか
4.雇用の場がだれにも開かれているだろうか
5.総合的な廃棄物削減およびリサイクル政策を実施しているだろうか
6.交通の統合化政策と徒歩移動促進政策があるだろうか
7.持続可能なエネルギーシステム開発計画があるだろうか
8.環境ビジネスを奨励しているだろうか
9.環境建築とニュー・アーバンビレッジを支援しているだろうか
10.都市農業と直売マーケットを奨励しているだろうか
11.野生動物保護区を設けているだろうか
12.処女林の木材利用を避けているだろうか
U.世界の事例のぐるぐるめぐり
ここでは英国の都市再生、オランダの干拓と工場跡地における自然再生、ドイツの大規模産業施設跡地の自然再生、スイスの持続可能性の都市計画(近自然、バウビオロギー他)、米国のビレッジホームズと世界のエコビレッジ運動と世界の事例を巡るという点と事例が飛びすぎるので頭がぐるぐる巡るかも知れないという意味で「ぐるぐる巡り」とした訳で、話が雑駁になるかも知れませんがお許しください。
この本は英国で出されたものですし、著者は英国向けに書いています。ちょうどこの本が書かれた頃、英国ではリチャード・ロジャース卿特別委員会による「都市のルネッサンス」という都市政策の提言をまとめていました。まさしく、ローカルアジェンダ21の実現への都市計画の課題に答える内容となっています。 グリーンフィールドへの開発圧力が英国では強いですが、都市の使われていない土地(ブラウンフィールド) を活用し、都市の生活の質向上を目指す方向性が出されています。コンパクトシティやアーバンヴィレッジの考え方が取り込まれている内容です。『ぐるぐる巡り・・・』の本の最後の方にもリチャード・ロジャース(1998)の著書『小さな惑星のための都市』(Cities for a Small Planet)からの引用があります。持続可能な都市に重要な要素は:公正、美しさ、想像的、エコロジカル、コンタクト、コンパクト、多様性、であるという説です。
英国ではスコットランドのグラスゴーにおける都市再生が興味深い。なぜならここでは都市再生に「建築」、「デザイン」とともに「教育」を重要なテーマとしているからです。コミュニティの改善に子どもたちの参画、学校の参画を推進する援助のためのセンター「ライトハウス」をマッキントッシュ設計の元新聞社ビルを改修して設置しました。まさに都市再生の灯台として子どもや市民の主体的な取り組みを導いているわけです。
オランダの新しい干拓の考え方は自然の力を読んで、時間をかけて自然を再生し、開発と自然再生、人々のレクリェーション空間を国全体の生態系のネットワーク形成ガイドに沿って調整していこうというもの。
またオランダやドイツおよびスイスの工場跡地の再生には土壌汚染の問題があっても、周囲への影響を遮断し、その中で時間をかけて浄化し、自然を再生していき、公園、レクリェーション、文化情報発信基地として市民に開放するというもの。どれも時間をかけたゆるやかなプログラムという点で、まさにプロジェクトによる開発ではなく、長期的なまち育てと感じました。
スイスのバウビオロギーの考え方は以前、露天風呂でもウルス・マウレル氏が紹介しましたが、住宅づくりではコーポラティブハウス、コレクティブハウジング等に展開し、NPO、企業を巻き込み環境に負荷を与えない住環境づくりに広がっています。
エコビレッジ運動はヒッピー文化というように言う人もいますが、今や世界のネットワークへ広がり、パーマカルチャー、コハウジング、代替技術等の様々な理論、方法論をとりまぜて、それぞれの地で試行錯誤によって、時間をかけて次々と様相を変えていき、まさにこれもぐるぐる巡りのまち育ての一つの方向となっているのではないでしょうか。ローカルアジェンダ21とハビタットUを真摯に受け止め熱心に取り組んでいる姿に私は見えて、こういった動きも千葉で展開することもNPOの役割かと思う次第です。

V.千葉のぐるぐるめぐりの創造的まち育ては
いかに?
肝いりの都市再生に12の質問を投げかけると?
都市と農漁村の関係は?千葉という風土を生かしたぐるぐるめぐりの創造的まち育ての方向は?と事前に問題を設定しました。皆さんからの質問には、デービスのビレッジ・ホームズを訪問した二宮さん達の感想からビレッジホームズでは環境への貢献の評価から不動産価値が上がったというお話。泉グリーンビレッジでは、農村の共同体的絆の強さ、それを日本独自のエコビレッジ的なものへ内発的発展ができないか;団地再生に子どもを巻き込んだ展開;「食べられる景観」と街路樹に実のなる木を植えるのもよいが、狸が出てきて交通事故に会う。狸にやさしい実のなる街路樹デザインガイドなるものが必要;まちやま(町山)をつくってエコビレッジ、など、いろいろ興味深いアイデアが出されました。千葉は本当になんでもそろっている日本の縮図のようなところ。ここで本格的に、自然再生、都市再生、団地再生、コミュニティ再生に取り組んでいくこと、そしてなによりもそのためにNPO、市民活動団体がぐるぐる巡る関係づくりが大事かと実感した次第。
ご静聴ありがとうございました。

(運営委員・木下 勇)


 

 

 

 

 

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