有機農業と放射能汚染


◇共存できない原発
 農薬、化学肥料に頼らずに安全な食べ物を得るには、常に病害虫、雑草との闘いで、38年経った今も、まだ悩まされ続けています。そう簡単ではないからです。
 3月11日の原発事故は今まで大事に積み重ねてきた田・畑の「土」の環境を一瞬にして汚染されてしまいました。(汚染度は低かったことは幸いでしたが。)自然循環をいかにうまくとりいれながら永続的に安全な生産物をとりつづけていけるのかを模索する有機農業にとって、処理の方法がみつけられない放射性物質を次々に生む原発とは共存していくことはもともと難しいのではないでしょうか。
 有機農家にとって最も恐れていたことが現実になってしまいました。農薬を使わないというだけで大変な上に、すでに拡散してしまった放射能とこれから永く向き合っていかなければならないと思うと、どこに怒りをぶつけていいのやら・・・。

◇見えない不安
 普段気づかずにあびている自然界からの放射線や、病院での放射線、そして今回の原発事故による放射線。それが、私たちの身体にどう影響するのか「実は良くわかっていない」ということが徐々にわかってきて不安は高まるばかりです。 又、放射性物質は、農薬と同じように「土」や「作物」に吸収されていても、見分けられない、どこにどれだけ汚染されているのか正確にはわからない、意外なところが汚染されていたり、まさかというものから検出されたりと、不安は高まり、特に幼い子を持つ親たちにとっては真剣にならざるを得ないと思います。

◇とにかく実態を知ることから
 ある地域、ある作物で高濃度の放射性物質が検出されると、全体が汚染されているだろうという「風評被害」に私たち生産者は苦しめられています。風や雨、地理的条件などにより、放射能の汚染は複雑で実態を把握するのはなかなか難しいようです。風評被害を防ぐにも、実態調査はかかせないと思います。我が家も5月に野菜を3品目、9月にコメを検査してもらいました。これからも検査はして、放射能の姿を消費者の皆さんに明らかにしていきたいと思っています。

◇不検出に思う
 放射能は見えないだけに不安も高まりますが、一方、数値を出し、実態を知ると今度は生産者、消費者双方にとまどいが生じます。消費者にしてみれば、数値が出れば即、危険だろうと判断してしまいます。そこで生産者にしてみれば、出来るだけ数値が出ないことを望みたくなります。
 よく見られることが、「不検出でした」はとても安心する表現です。多くの消費者は「不検出」=「ゼロ」と思っているようです。 我が家のコメを詳しく測ってくれる「たんぽぽ舎」にお願いしたところ、玄米でセシウム134が4ベクレル、137が11ベクレル、白米にすると134が0、137が7ベクレルでました。そこで「不検出」と発表した自治体に問い合わせてみると検出限界値があって、それぞれ20ベクレル以下、合計40ベクレル以下を「不検出」としているということで、どれだけあるかはわからないらしい。正直に数値を出す方が今はとても不利になってしまいます。
 しかし、「安全」だと思って今まで食べてくれていた消費者の皆さんに正確な数値を知らせることはやはり大切なことではないだろうかと思っています。特に子どもたちには、どんなに少ない放射能でも、安全という基準がハッキリしていないだけに詳しい数値は知らせてあげるべきだと思っています。
 「国の暫定基準値が500ベクレル」は早急に見直さなければならないのではないでしょうか。「500ベクレル以下でも不検出」と言っても法的には違反にはならないのですから。

◇有機農法の課題
 放射能のセシウム一つとっても半減期が30年と、とてつもなく永いものにこれからはつきあっていかなければなりません。海にも大量に放出した放射能、これから水俣病でも起きた食物連鎖によりプランクトンから大型の魚にまで入り込み、人間を含めた自然界の大きな循環の中で、なかなか消えることなく廻り続けてきます。
 化学肥料に頼らず有機物を利用する我が家の農業にとって、放射能の循環は深刻な問題になってきます。有機物による放射能の濃縮が始まるからです。そこで、農地や有機資材の定期的な検査がどうしても必要になってきます。

◇消費者とともに
 我が家の野菜を利用してくれている方の中で、放射能取扱の資格持っている方がいるので、いろいろ相談し、私たちの小さなグループ「菜っ葉の会」でも測定器を持とうと公にも信頼性のある測定器を探してもらいました。内部被曝が心配になる直接口にする野菜、コメなどは測れないので、これらは今までどおり「たんぽぽ舎」にお願いし、農地はもちろん堆肥、有機資材が測れる測定器を購入しました。定期的に測定したいと思っています。
 又、消費者の皆さんの家の中、周囲の放射能も気になりますので、希望する家庭との調査も始めました。「放射能の数値を知ることができてとても良かった」と喜ばれています。これからも消費者と共に少しでも安心できる食・環境をつくっていけたらと思っています。もう原発はこりごりです。静かに眠っていただくよう力をあわせていきたいと思っています。 今、日本は放射能一色になっていますが、どうか農薬の恐さもくれぐれも忘れないで欲しいと思います。

以上

(熱田忠男 さん(サポーター会員、農業))


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