協働事業におけるNPOの事業費をどう考えるか
<契約と積算における課題 >


 2008年2月12日。千葉市の施設「きぼーる」のビジネス支援センター講習室で、ちばNPO協議会主催の学習会「協働事業におけるNPOの事業費をどう考えるか」が開催された。 小雨がぱらつく寒い一日で、学習会の事前の申込者は13名。ところが、蓋を開けると34名の参加者。行政職員の顔も多くみられ、用意した資料が不足するなど、このテーマへの関心の高さ示された。

1.協働事業の現状
 日本で最初のNPO法人が認証されたのが1999年。ボーンセンターもその年に誕生している。それから9年。多くのNPOの運営基盤が脆弱のまま、行政とNPOの協働事業は毎年増加し続けている。 協働事業は、課題解決のために2つ以上の主体が相互に資源を提供し、実施する事業を云う。行政とNPOの場合、行政が提供するのは事業費や広報媒体など。NPOは、専門性、スキルを持つ人材、労働力などを提供している。行政の事業費は、主に委託費、補助金などの名目で提供される。 2007年3月末の千葉県のNPO法人数は約1100団体だが、そのうち法人住民税を納税している団体は約3分の1の361にすぎない。多くが普通に収益事業を展開していない。
 運動・提言型のNPO法人の多くは、事業費を計上できていない。実質的にはボランティアグループの団体も法人格を取得していて、無報酬で事業実施できることが「素晴らしい」「偉い」という評価がNPO側にも行政側にも根強くあるようだ。 福祉分野は国や地方自治体の介護保険や自立支援の制度により対価が支払われることが多いのだが、環境保全やまちづくりなどの分野は、国や地方自治体の制度が未整備なこともあり、多くが非対価性活動になっている。 「年間10万円の補助金で里山の整備・保全」といった類の協働事業が多数行なわれており、実際にNPOが提供する労力が正当に積算されないまま、協働事業がNPOの体力を消耗させている場合もある。こうした状況は、NPOが責任ある活動を継続的に行なうことをむしろ困難にしており、途中で活動が消滅してしまうNPOも数多く散見されるようになった。 NPOは社会的な課題解決に取り組もうとする人が集まれば次々に誕生するが、その中から力のあるNPOがなかなか育っていかない。 今の行財政はどこも逼迫している。行政のコスト削減つながる協働事業、特に委託事業は今後も増え続けることが予想されている。
 行政がNPOに期待している事業は、@啓発、研修・講座、住民参加・ワークショップ、相談、調査などのNPOの専門性やネットワークを活かした事業、A指定管理を含む施設の管理・運営事業、B環境保全・美化清掃などの住民参加型作業に関する事業、C福祉・子育てなどの公共サービスの支援・補完のための事業などである。こうした行政の期待は、実際のNPO活動とも一致している。 また、行政活動は前例主義である。NPO労働力の非対価性を前提にして協働事業の契約や積算が成立している状況をこのまま放置すれば、そうしたことが当たり前になり(なりかけているが)、それはやがて公共サービスの質の低下につながるのである。
 イギリスでは、政府とNPOの間で「コンパクト(協定)」を締結し、その関連資料の中で行政はNPOとの協働事業の契約にあたり「NPOのフルコスト回収」に配慮しなければならないことが明記されている。フルコストとは、NPOが事業を行なう上で直接・間接の全てのコストを云う。
 前述したような問題意識は、日本でも一部の行政とNPOの間で醸成されつつあり、課題解決のための情報収集や検討が始まっている。今回の学習会では、愛知県の「NPOと行政の協働に関する実務者会議」の2007年2月の提言を参考にした。愛知県でこうした検討が行なわれた背景は、う〜ん。千葉県よりも行財政にゆとりがあるのかも…(想像です)。

2.事業コストの積算規準
 NPOの事業は、営利を目的としないので利益配当は行なわれない。理事会を構成する理事は無報酬が普通であり、活動に共感するボランティアの協力を得ることができる。NPOの事業にかかる総人件費は、行政が直接公共サービスを行なうよりも安い。しかし、ボランティアに満足して協力してもらうスキルは行政にはないものであり、ボランティアとのネットワークの維持・充実には大きな労力が必要になるのだが、こうしたNPOの専門性や労力は現実の事業費に積算されない。NPOであっても事業には、企業と同じようにコストがかかる。NPOの事業積算がどのようになっているのか、企業への行政委託事業の積算規準を基に比較してみよう。
■直接費
 (1)人件費 評価△
 業務に直接従事する人の人件費は、NPOでも積算されてるが、経験やスキルに応じた人件費を支払うことができない。企業との委託契約では、職種や経験年数等によって単価を設定して積算する。しかし、NPOの積算は責任者クラスで企業の5分の1、スタッフクラスで2分の1程度。全てのクラスの人件費が、地域の最低賃金を基準に算定されることも多い。
 (2)材料費 評価○
 業務に直接必要な物品の費用であり、普通はNPOにおいても物価資料等に基づき積算される。
 (3)外注費・借り上げ費 評価○
 外注費は、普通はNPOも合い見積りで積算する。会場費等については、行政が施設を提供することで負担することもある。
 (4)講師謝金 評価○
 普通はNPOも積算されるが、行政側に単価が高くならないであろうという期待がある。
 (5)旅費交通費 評価○
 技術者・研究者などの交通費、宿泊費であり、NPOも移動距離や移動手段に応じて積算される。
 (6)打ち合わせ協議費 評価×
 打ち合わせに要する費用であり、企業は往復時間を含む人件費及び交通費を計上する。協働事業では対話・打ち合わせは不可欠だが、そのコストはNPO事業に積算されない。
 (7)時間外手当 評価×
 時間外及び深夜割増手当であり、企業は割増係数で算定・計上するが、NPOは計上されない。時間外手当を支払えるNPOはほとんどなく、これは労働法規上の問題と重なる。

■間接費
 (1)業務管理費(一般管理費) 評価△
 業務に付随する事務職員の人件費、水道光熱費、従業員給与手当、退職金、法定福利費、福利厚生費、事務用品費、通信交通費、広告宣伝費、研修費、交際費、寄付金、地代家賃、減価償却費、租税公課、保険料、雑費などを云う。企業は、これに利益を加えて人件費の120%(財団等の公益法人は100%)をほぼ上限とした規準で算定する。NPOは事業費の10%程度しか算定されておらず、十分に管理費を確保できていない。
 (2)付加利益 評価×
 付加利益は、法人税、地方税、配当金、内部留保金、支払保証料、支払利息、その他営業外費用などを云う。NPOに配当金はないが、団体の維持・発展のためには内部留保金は必要。
 (3)技術経費 評価×
 企業は作業内容に応じて事業費の20〜40%、特に高度なものは60%の技術経費(技術研究費、専門技術料)が認められる。NPOも協働事業において専門スキル、独自のネットワークを求められるが、技術経費は積算されない。

3.フルコスト回収に配慮したの契約を
 前述で示したように各経費の状況を○△×評価した。○は協働事業の契約で配慮されている経費、△は多少配慮されている経費、×はほとんど配慮されない経費である。愛知県の「NPOと行政の協働に関する実務者会議」の提言には、指定管理業務の3種類の積算の事例が示されている。それによると、行政が直営で運営した場合のコストを100とした場合、同じ事業をNPOに委託する場合の行政が積算するコストは48、NPOがフルコスト回収に配慮して積算するコストは68となっている。千葉県内の協働事業も似たようなものであろう。NPOが行なえば、フルコスト回収でも行政直営の3割以上のコストダウンである。公益の増進のために、△及び×の経費について協働事業の当事者同士が再検討する時期にきている。

 

(副代表 栗原裕治)


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