千葉市民活動センター運営委託についての振り返り報告

0.なぜ今回のレポートが千葉市民活動センターなのか

千葉市が設置した千葉市民活動センターは、2005年7月1日からNPOに運営が委託された。委託料総額は2006年3月31日までの9ヶ月間で800万円。NPOの事業としては高額のようだが、委託される業務内容や仕事量を考えるとまったく安い委託料である。
  千葉市民活動センターは、市民活動のサポート施設である。まず、作業室、会議室、パソコン、ロッカーなどの施設・設備を通年の午前9時から午後9時までの12時間、市民及び市民団体が利用できるように窓口で管理する業務がある。市民活動に関する情報を収集・整理し、通信やホームページ等によって情報発信する業務がある。市民活動に関する相談に応ずる業務がある。イベント等をとおして市民活動を紹介するとともに市民活動の普及啓発を行う業務がある。また、市民活動の自立・自律を支援するために必要な講座等を開催する業務がある。更に、市民活動の基盤を整備するために、市民活動を取り巻く環境を調査研究し、政策等を提案していく業務がある。こうした業務を推進していくには、市民活動に精通した知識やネットワークを必要し、今の千葉市職員ではできない仕事となっている。
  800万円という委託料を考えると、この中には人件費以外の事業費や交通費も含まれるので、確保できる人件費は7割程度として560万円ほどと思われる。この事業を土曜日曜祝日返上で毎日12時間(週84時間)2人の人間で行うとすると、これだけ労働をして一人当たり280万円(9ヶ月換算で月額31万円)ということになる。実際には、週84時間労働などは考えられないので、多くの人間が分担して仕事をし、周囲がサポートしながら千葉市民活動センターを運営していくことになる。
  これまでに全国に公設の市民活動支援センターがつくられており、NPO等の民間に運営を委託する施設も多い。千葉市よりもはるかに小さな規模の自治体で予算規模が5000万円を超えるところもあり、おそらく千葉市は全国で最低の予算規模である。知る限りでは最低水準の委託料でも1200万円以上はある。それ以下のところは、行政職員が多くの業務を担い、業務の一部だけを委託している。
 なぜ、委託料の話からはじめたかというと、公設施設の管理ということでは、指定管理者制度が話題になっているからである。千葉市民活動センターは、条例で設置された公の施設ではなく、要綱で設置された千葉市市民総務課所管の行政の一部であるが、もしこの施設が公の施設として指定管理者を募集しようとするなら、こうした運営予算はとうてい考えられない。市民活動支援センターとして、まともな運営ができないからである。千葉市は直営で運営していた市民活動センター、「予算が確保できない」という説明で低予算の委託管理に踏み切った。
  確かに、これまでの行政直営の千葉市民活動センターが生み出している価値は十分でなかった。朝9時から夜9時までの開業時間や土曜日曜祝日も毎日開館していることや、運営の民間委託は表面的にはかっこいい。しかし、必要なサービスにかかる費用は発注者である行政によって十分に積算されていないし、協働・パートナーシップという言葉が行政によって都合よく使われ、市民を格好だけの安価な下請けとして見ているといわれても仕方がない状況を生み出している。千葉市では、市民参加のお題目はあるが、市民参加についての確かな行政としての方針が定まっていない状況が続いている。
 千葉市民活動センターの事業は、ボーンセンターの事業と重なる部分が多い。中間支援NPOであるボーンセンターは、これまでに市民参加のまちづくりの推進を掲げて、市民活動に関する情報の受発信、相談、普及啓発、講座・シンポジウム、調査研究、政策提案などの事業を行ってきた。したがって、千葉市民活動センターの事業に関心を持ち、設立準備会や運営協議会に委員を派遣し、各地の市民活動支援センターの情報を伝え、他の委員と一緒に千葉市民活動センターの運営に関する提案を行ってきた。所管の千葉市市民総務課と本当の協働・パートナーシップが可能ならば(そのための研究もしていたので)、低予算でもある程度の事業の推進が可能と判断して委託管理者の募集にも名乗りをあげた。結果、ボーンセンターは採択されなかった。
 その結果はともかくとして、「千葉市民活動センターの委託管理の経緯についてはよくわからない」「もっと説明して欲しい」というサポーター会員の意見も多いことから、既に半年経過しているが、ボーンセンターの活動の一端を知ってもらうために、千葉市民活動センターの設立から振り返ってみる。
 以下、参考にしたのは、2005年6月30日に非公式に開催された千葉市民活動センター運営協議会の
記録である。非公式というのは、事務局である千葉市市民総務課は協議会の会長・副会長の開催要請にも関わらず「必要を認めない」という理由で参加せず、委員5名とオブザーバー1名が参加したものである。

1.開催の経緯 

千葉市が要綱設置した千葉市民活動センター運営協議会(以下、運営協議会という)は、2年余りの任期を2005年6月末日で完了した。そこで、最後の運営協議会を開催し、これまでの過程を振り返るとともに、新たに設置される運営委員会に引き継いでもらうための課題等について整理した。
  前述したように、これが非公式の開催となったのは、運営協議会の会長・副会長の開催要請を、設置主体で事務局である千葉市(市民総務課)が「忙しい委員の方々に集まっていただく理由がない」という理由で拒否する回答をしたためである。
  異例のことではあるが、千葉市の見解とは異なり、この集まりは、副会長名で運営協議会委員に参加を呼びかけ実現し、進行役を牧野昌子副会長がつとめた。
(1)開催日時   2005年6月30日 18:30〜20:15
(2)開催場所    千葉市民活動センター会議室
(3)参加者    会長(栗原裕治/ボーンセンター副代表)、副会長(牧野昌子/NPOクラブ代表理事)、他委員3名(委員8名中、5名が出席)、オブザーバー:1名
(4)開催の目的  @運営協議会を振り返り、意見交換、A運営協議会の課題について検討、B市民活動センター委託管理者の公募選考の課題について検討する 

2.千葉市民活動センターのこれまで(確認事項)  

@千葉市民活動センターは、2002年秋に中央コミュニティセンター1階に開設された市民活動サポート施設である。
A開設前に3回、千葉市市民総務課が事務局となり、市民が参加して開設準備会が開催された。それまでに市民団体と市民総務課が市民活動支援施設について話し合ったことはなく、開設準備会に参加した市民は、千葉市の英断を歓迎したが、唐突との印象も抱いていた。それは、この開設準備会が開かれる以前に既に開設日や事業予算が決まっていたことや、この施設が条例で設置された公の施設ではなく、要綱で設置された千葉市の直営施設であったことなどに起因していた。
B3回の開設準備会では十分に議論をつくす時間がなく、決まったことは、「千葉市民活動センター」というネーミング、登録団体へ無償貸与できる作業室や会議室等の備品とそれらのレイアウト等について話し合えた程度であった。そこで、この施設の運営の詳細については、準備会の後継組織として運営協議会を千葉市が要綱設置し、そこで継続審議することになった。
 Cその運営協議会の任期は約2年で、開設準備会の会長1名及び副会長2名(栗原@ボーンセンターを含む)が運営協議会に移り、公募市民5名との計8名で委員会が構成され、市民総務課が事務局を担当した。委員は交通費も支給されない全て無償のボランティアであった。
 D千葉市民活動センターを所管する市民総務課の2002年度開設当時の管理職は、2005年のこの時点までに全て交代している。課長は2004年度初頭に、2005年度初頭に、係長は2003年度初頭に交代した。市民部長も市民局長もこの間に交代している。一方、2003年度の運営協議会の会長、副会長(栗原@ボーンセンター)も2004年度初頭から交代し、栗原@ボーンセンターが会長に就任した。また、この運営協議会は2005年3月末で任期満了であったが、千葉市の要請により2005年6月末まで任期が延長された。
E2003年度の運営協議会は、我孫子市や松戸市の同様の施設の視察を行い、センターの目的について「千葉市民の市民活動をはじめるきっかけを支援すること」「千葉市の市民活動団体の自立を支援すること」を確認し、そのために必要なサービス等について意見を交換した。そして、サービスの向上を図るために、将来は条例設置の施設として指定管理者制度に移行することも視野に入れながら、市内の中間支援に経験のあるNPOに業務委託することを提案した。また、2004年度の運営協議会では、委員の意見や他都市の事例を参考に、会長名で栗原@ボーンセンターが業務委託仕様書の私案を提出し、これを審議し、これをたたき台とすることにした。
 F予定されていた2005年4月からの市民活動センターの業務委託は、2005年7月開始に延期された。4月から実施ができない理由について、市民総務課は、「3月議会で2005年度予算が確定しないと公募ができない」という説明をしたが、このスケジュールはそもそも市民総務課が運営協議会に提案したものである。ところが、2月下旬にはそれまでの説明から一転して、4月から委託業務に移行するための事業者公募スケジュールが、事務局の市民総務課から提案された。
 Gこの事業者公募スケジュールは、公募期間が短すぎたことから、運営協議会で否定的な意見が多く出され、委託業務開始の時期をずらすことについて市民総務課も同意し、7月の委託開始を前提にした新たな公募スケジュールを3月下旬に市民総務課か再提示した。この間の市民総務課の対応に対して、運営協議会委員から「市民総務課は本気で千葉市民活動センターのサービス向上に取り組む気持ちがあるのか」という言う意見が出されたが、市民総務課は対応の遅れについて「直接の担当係が、2月半ばに開催した千葉市民活動センターまつりの作業に忙殺されて時間がなかった」と説明し、個人の責任にすり替えてしまった。
 H市民総務課が再提案した新たな公募スケジュールは、3月25日に施行決定、次いで、中間支援を定款で明記し、千葉市内に事務所のある25のNPO法人に対して3月28日に見積通知を発送し、4月11日に市民総務課による説明会を開催、見積書・企画提案書等の提出期限を5月10日とし、提出書類に基づいての市民総務課の応募団体ヒアリングが5月17日、そして、5月20日に選考委員会の開催、5月27日に決定通知の送付というものであった。運営協議会では、この再提案スケジュールを了承し、各委員からは「選考委員は第三者を含めて公正に行ったほうがよい」「今回の公募については見積通知を発送する25団体以外の市民活動団体や市民にも、ホームページ等を通じてできるだけ周知につとめたほうがよい」「審査結果についての説明責任を果たしてほしい」等の意見が出された。
 I5月10日までに4団体から応募があり、市民総務課は選考委員会の前日の5月19日に運営協議会に開催を要請し、参考資料として4団体の企画書の一部(センター事業運営の考え方、事業計画及び年間スケジュール)を提出し、選考に際しての参考意見を求めている。この運営協議会では、「職員研修企画に盛り込まれている団体がよい」「会報発行を企画している団体がよい」「市民や市民活動団体の相談に応じる力を持った団体がよい」「積極的にサービスを向上する企画を提案している団体がよい」などの意見が出された。
 Jその後現在に至るまで、市民総務課は、今回の選考過程と選考結果についてまったく説明していない。市民や市民活動団体に対する説明も必要だが、参考意見を求めた運営協議会委員に対しての説明も一切ない。今回の運営協議会開催も説明の機会と思われたが、「開催の必要なし」と拒んだ。

3.運営協議会の振り返りについての意見交換  

@千葉市民活動センターは、市民・NPOと行政が協力して千葉市の市民活動の拠点に育てる必要がある施設なのだから、管理・運営等の議論を1年程度もっと深めてから開設してもよかった。開設後の運営協議会の設置は遅すぎる。
 A2002年秋の開設の前に開設準備会が3回開かれたが、市民と行政が管理・運営について話し合う前に市が予算や開設場所だけを決めていて、他の事柄は準備不足だった。しかも、これは暫定的な措置でなく、現在もその予算等がその後も固定化された基準になっていて、運営協議会の提案も、そのことが障害になっていた。運営協議会のサービス向上の提案に対して、予算が取れないという市民総務課の説明を何度も聞いてきた。千葉市には市民活動・市民参加を推進する確固たる方針がない。
 B千葉市が進める市民参加は、基本的に千葉市がコントロールする操り型の市民参加にすぎない。市民参加は、情報の共有、説明責任、十分な対話機会が保障されなければならないが、その保障がなく、ほとんど行政の都合やアリバイづくりが優先されている。
 C昨年夏から運営協議会の詳細な議事録がつくられていない。市民総務課から協議会委員には、市民総務課の判断による要点の列記しか示されていない。千葉市が要綱設置した運営協議会の詳細な議事録がないのはおかしい。前課長の時には運営協議会の詳細な前回議事録が配布されていたし、委員に郵送された。記録として保存する前に委員が間違いをチェックすることもできたが、最近はそれができていなかった。
 D市民活動センター運営協議会の設置要綱には、「審議する」という強い役割が明文化されている。運営協議会で審議され、委員が述べられた意見については、千葉市として誠実に対応することが原則で、
 対応できない場合は、対応できない理由を文書にして運営協議会に再審議を要請するのが当然であるが、そうしたルールが確立されていなかった。運営委員会委員も事務局を信頼して、そうした問題について強く指摘してこなかったことの責任がある。(余談だが、2005年度にこの運営協議会は解散し新たな運営協議会が設置された。その設置要綱は「審議する」から「検討する」に変更されている。)
 Eこれまで、会長名で運営協議会が招集されてきた。今回、会長・副会長名の文書で、振り返りのための最後の運営協議会の開催を要請したが、市民総務課は「必要なし」とした。他都市の行政職員に確認したが、このような要請を行政が拒否するのは、極めて異常な事態だという。今回の集まりは、設置者のいない非公式な会合になったが、これを記録し、参加していない委員や市民総務課に提出したほうがよい。これを次の運営協議会に反映させるかしないかは、市民総務課や次の委員の判断ということになる。
 F7月1日からの千葉市民活動センターの業務委託開始に向けて準備が進んでいるが、市民総務課は、今回の選考結果や選考理由についてまったく市民や市民活動団体に説明していない。選定した事業者との最終的な契約が整っていないこと等を説明できない理由にしている。今回の事業者選考プロセスの中で、市民総務課は選考委員会の前日に運営協議会の開催を要請し、委員に意見を求めているが、その委員にも説明はされていない。千葉市の市民参加は、ここまでまったく説明責任を果たしていない。(結局、選定事業者との契約後も説明はなかったのである。)
 G事業者選考結果と選考プロセスの透明化はきわめて重要であろう。今回の事業者の委託契約期間は来年3月末までであり、次の公募選考が必要になる。また、運営協議会では、指定管理者制度に向けての意見を出しており、千葉市の市民参加の方針が明確になっていけば、いつの日か千葉市民活動センターが条例設置の公の施設となり、指定管理者制度の対象になる可能性がある。こうした事業者選考は指定管理者制度だけでなく、千葉市の他の施設の業務委託においても参考事例となりうる。運営協議会で出た「選考委員に外部の市民や専門家等の有知識者を加え、公開審査を行う」という提案は採用されず、設置された選考委員会の委員は、市民局長、市民部長、市民総務課長、同統括主幹、同課長補佐の5名であり、しかも、選考委員会の議事録は示されなかった。市民総務課は点数評価をしたというが、選考評価表も事前に公表されておらず、実際に公正に真摯に選考が行われたのか、あとからどうにでもなる対応をしている。
 H運営協議会の意見は選考結果とその後の対応に十分に反映されていない。市民総務課は千葉市民活動センターの管理運営に対して、現状維持に近い提案を採用した。とすれば、何のための2年余りの運営協議会だったのか、何のために応募者に企画アイデアを提出させたのか、何のために選考委員会開催の前日の5月19日に運営協議会を開いて選考についての意見を聞いたのか、選考結果や選考プロセスの説明がなければ、今のところ千葉市がアリバイづくりのために市民の貴重な時間をもてあそぶ結果になっている。
 I2003年度の運営協議会の初年度は、市民局長が我孫子市や松戸市の市民活動支援センターの視察に
  委員とともに参加し、意見交換をしたが、現在の市民局長や市民部長とはそのような対話が一度もなく、市民総務課は、そうした対話機会をつくろうとしてこなかった。今回の選考委員会の5委員のうち、市民局長、市民部長、そして今年度着任した市民総務課統括主幹と同課長補佐は運営協議会との対話機会が一度もなく、運営協議会とはかけ離れた、きわめて形式的な選考委員会だった。
 J今回の選考結果及び選考プロセスはともかく、千葉市民活動センターを運営する事業者が大変であることは間違いない。市民活動団体としては、今後も千葉市にしっかりと提案していくことが必要だが、
  一方で、委託事業者を孤立させないように配慮していくべきである。
 K今回、運営協議会委員は、市民総務課から選考委員会の前日に選考に関しての意見を求められた。しかし、運営協議会委員のうち2名が所属する団体が今回の委託事業に応募していたことから、発言しにくい事態も見られ、配慮が足りなかった。意見を求められた運営委員の所属する団体が応募しており(ボーンセンターの他に最終的に選定された1団体)、今回の選考過程の公正さに疑念を生じさせる可能性もあった。

4.今後の千葉市民活動センターの課題  

これからの千葉市の市民参加の推進は、千葉市民活動センターの運営だけでなく、全ての政策形成の段 階において、千葉市のコントロールのもとでの操り的な市民参加でなく、対等な協働・パートナーシップ をもとにした市民参加であることを、市民総務課と運営協議会が共通の認識として持つ必要がある。
 運営協議会と市民総務課は、説明責任を果たすことと、情報の共有を運営協議会の基本にする必要がある。さもないと、運営協議会はすぐに形骸化する。運営協議会は詳細な議事をとって、議事録として公表
する必要がある。
 運営協議会は、市民局長、市民部長を含む市民活動に関係する千葉市職員との対話を重視し、市民総務課はそのような対話機会を十分につくるべきである。(今回のように、運営協議会の会長と副会長の提案を十分な説明をせずに拒否するようなことが二度とあってはならない。)運営協議会の目的を明確にし、その権能と役割についての考え方を運営協議会委員と市民総務課が共有する必要がある。
 千葉市民活動センターの事業予算は、全国の公設の市民活動支援施設と比較してもて極端に低水準である。無駄は省くべきだが、市民が納得できる必要な事業の予算は獲得すべきであり、現在のほぼ固定化された事業予算は、運営協議会で根本的な見直しについて審議ずる必要がある。
 千葉市民活動センターをレベルアップしていくには、委託事業者の努力が必要だが、市民及び登録市民活動団体の協力が必要だが、とりわけ身近な運営協議会が積極的に運営に協力していく必要がある。


                                   

(副代表 栗原裕治 )

 



BACK