秋に開催する市民講座の狙い

1.判断するのは誰?
―さらば、お任せ民主主義

9月の法制審議会(法務大臣の諮問機関)の答申を受け、法務省は戸籍法施行規則を改正する。
人の名前に使える漢字は常用漢字と人名用漢字に制限されているが、野沢法務大臣が2月、人名用漢字の大幅な追加を法制審議会に諮問し、同審議会が6月、578字の追加案を公表した。しかし、戸籍法が名前への使用要件とする「常用平易な文字」という基準を中心に選んだ追加文字に、人名に相応しく文字が多く含まれているという批判があった。
そこで、法務省が国民から意見募集を実施したところ、479文字の削除要望が出て、その是非を同審議会委員が郵便で投票し、「骸」「嘘」などの79字の削除を決めた。
法務省は国民の意見を募集しているとはいえ、国民が使う人名用漢字の追加及び削除する文字を行政や一部の専門家が決めたことは事実である。戸籍法施行規則が存在し、その改正が目的という政策形成がある程度見えることはよいとしても、そもそも人名用漢字は行政や一部の専門家が決めるべきものなのか。このあたりがもっと議論されてもいいのではないか。結局、「社会通念」の範囲を行政や一部の専門家の判断に任せてしまっている。
その背景に、子どもにとんでもない命名をする「社会通念」を判断できない親がいるという意見がある。また、判断をするという行為には誰でも精神的な負担が伴うので、考えなくてもいいように基準をつくってもらった方が楽という意見も根強い。しかし、「管理される方が楽」という人たちが増えれば、青天井の管理社会・マニュアル社会に突入していくことは自明である。どこで線を引くべきなのか。
過剰な管理社会・マニュアル社会は人々の思考は停滞させ、社会の活力は減衰する。こうした弊害は、教育現場などで度々指摘されてきたが、「管理される方が楽」という人々が大勢を占めていて改善されない。一見して善意の管理者は、「社会通念」等を楯に、今度は管理しやすい方向に更に管理を強めていく。実際に、人名用漢字の追加・削除などはたいした問題ではないと思ってしまう人か多いのではないか。
身近な社会には得体の知れない閉塞感があり、課題も山積していて、これまでの「お任せ民主主義」から決別する必要があることを多くの人が感じている。しかし、政策形成への参加が必要なことを認識していても、そのために一人ひとりが何をすればよいか、漠然と考えているだけで、なかなか実感を伴った主体的な行動ができないでいる。そのような中で今回の人名用漢字の追加及び削除の問題についても、ちょっとした違和感を覚えた人も多いと思う。そこに相変わらず続いている「お任せ民主主義」の断片を見たからではないか。
現在は歴史の過渡期と表現される。「社会通念」や「国民の生活保護」等を理由に新しい法律や施行規則が次々につくられ、自衛隊の軍隊化や憲法改正までも話題になっている。こうした一連の政策形成には、今回法務省が人名用漢字の追加・削除について国民の意見を募集したように、形の上では一応の民主的な手続が保障されているように見える。しかし、本当に「お任せ民主主義」からの脱却が進んでいるといえるのか。市民参加が保障されているように見えても、それと引き換えに市民は自己責任や義務を押し付けられ、実質的に過剰に管理されてしまう事態が懸念される。
社会の制度疲労はいたるところで傷口を広げていて、自治体の運営を市町村行政職員だけで担うことは難しくなっている。また、これまでのように政府が国土の均衡のとれた発展をコントロールすることもできないことが明らかで、確実に地方分権、住民自治が必要な時代を迎えている。「お任せ民主主義」ではない、市民も参加する新しいガバナンスが期待される。
最近は、どこの自治体においても「参加と協働」という言葉がよく使われるようになった。「参加」とは自治体の運営あるいは経営そのものへの市民参加を意味しており、「協働」は市民や行政職員などの自治体の構成者が協力して地域の課題解決に取り組むことを意味している。そのためには市民、行政、議員などのこれまでの意識が変わること、市民は地方行政に、地方行政は中央政府に対して「お任せ民主主義」に陥らないように、自ら考えて行動する必要がある。
ボーンセンター市民研究所では「参加と協働」の基本は、自治体構成者の情報の共有と対話、そして現場主義にあると考えている。「お任せ民主主義」にならないように、市民は政策に無関心であってはいけないし、身の回りの政策についてよく知り、行政や他の自治体構成者とよく対話し、自治体の政策形成に当初から参加する必要がある。ボーンセンターの重要な役割の一つは、市民が政策的な判断していくための情報や対話の機会を提供することにある。

2.市民自治を広げるための 「市民講座」の開催

今回の政策情報では、この秋にボーンセンター市民研究所が企画する「市民講座」について紹介する。全体をとおして「お任せ民主主義」から脱却し、市民自治を広げることをテーマとした企画である。
この講座は、千葉市を拠点に活動するNPO法人ちば市民活動・市民事業サポートクラブ(通称:NPOクラブ)とボーンセンターが協力して開催する。NPOにとってネットワークは、社会的にアピールしていくための大きな資産なので、市民自治を広げるといった問題意識を共有しての共催は意味がある。
実は、今年の4月から7月にかけて、毎月1回のペースで計4回、それぞれ「指定管理者制度」「市民参加制度」「構造改革特区制度」「地域自治組織制度」についての概要や考えられる課題を紹介し、こうした制度が私たちの生活や市民活動とどのように結びつくかということを一緒に考えてきた。
千葉市でこのような市民講座が可能なのかどうか計算が立たず、ちょっと実験的な小規模な企画であったが、開講してみると千葉市以外から参加した人たちも多く、参加者とのやり取りも興味深かったので、この9月から12月にかけて本格的な第2弾を行うことになった。この第2弾では、更に対話機会の創出ということに重点を置き、テーマごとに千葉市の関連担当課にも参加を要請し、千葉市の取組状況を紹介してもらうとともに、意見交換ができるように企画した。開催場所は千葉市民活動センター会議室(千葉市都市モノレール「市役所前」の中央コミュニティセンター1階)、時間は午後6時30分から2時間程度である。
ここで取り上げるテーマは、いずれも千葉市行政が取り組んでいる課題で、今後の「参加と協働」あるいは地域自治や住民自治に関係したものばかりです。行政と一部の専門家に任せてよいのか。市民・NPOが自分たちの役割と一緒に考えていく課題なのか。参加を希望される方は、ボーンセンターに申し込んでください。

3.「市民講座」の開催日と内容

@第1回:9月28日(火)
「千葉市の構造改革特区の取組について」
小泉内閣は、内閣府の中に構造改革特区本部を設けて、地方自治体からの特区申請を年2回、これまでに計5回受け付けている。この構造改革特区とは、大雑把に説明すると、特区申請する地域を対象に、自治体の運営や活性化の障害となっている国の規制を一時的に緩和しようという試みである。規制緩和による効果があり、特に問題が生じないことが認められれば、全国で同様の規制緩和が行われる場合もありうる。同じく内閣府に設置されている都市再生本部も同様だが、こうした民間や地方からの提案を幅広く受け入れるという政策が、小泉政権の大きな目玉になっている。
財界の要請を受け入れたかたちのこれら経済刺激策には、新たな乱開発やバブルの再発につながるとの批判もある。しかし、ここでは構造改革特区制度を市民ひとり一人が提案できる機会を得たというプラス面で見ていくことにしている。
もっとも、この制度は各規制を管理・監督している省庁の合意が必要なので、申請どおり規制が緩和される保障はない。省庁間で対応にばらつきがあるとともに、申請者はタフな交渉が必要で、簡単に規制が緩和されることはないが、これまでに規制緩和が承認された地域も数多くある。
こうしたことから全国には特区申請に熱心な行政があるが、千葉市だけでなく千葉県内の市町村行政の特区申請の取組はきわめて消極的と言わざるをえない状況にある。民間企業や民間組合(土地区画整理事業等)と行政との協力関係は少し見られるものの、「参加と協働」が各自治体のテーマになっているにしては、特区申請における市民・NPOと行政の協力関係はほとんど見られない。
市民が構造改革特区制度について知らないということもある。しかし、行政からの積極的な呼びかけもなく、市民の持っている現場の情報と行政が持つ政策立案業務がうまく絡み合っていない。どうしてなのか。構造改革特区の千葉市の担当は企画課なので、企画課に参加してもらい意見交換する予定でいる。

A第2回:10月12日(火)
「千葉市のパプリックコメント制度の取組について」
千葉市は11月にパブリックコメント要綱の施行を計画しており、そのためのパブリックコメントを9月1日から1ヶ月間予定している。10月にはその結果や市の対応状況なども出ていると思われることから、第2回市民講座は千葉市のパブリックコメント制度への取組について取り上げる。
パブリックコメント制度は、市民参加制度導入の入り口であり、更に「市民参加条例」「まちづくり条例」「自治基本条例」など、より踏み込んだ市民参加制度を制定している自治体もある。そうした先進地域に比べると千葉市はようやくパブリックコメント制度を要綱設置するという段階であるが、パブリックコメント制度がない自治体も多いことから、現在の日本では必ずしも遅れているとはいえない。逆に、先進自治体といわれているようなところでも、行政と一部の専門家だけでつくった市民参加制度は、市民にとって関心・馴染みが希薄で、実際にはあまり利用されないことが多い。
千葉市は、パブリックコメント制度という市民参加制度の第一歩をこれから踏み出すわけである。市民が活用しやすい、地方自治や自治体運営にプラスとなる市民参加制度のあり方について、議会だけでなく市民を含む自治体の構成者が検討していく必要があることから、担当課である市民総務課にも参加してもらい意見交換する予定でいる。

B第3回:11月9日(火)
「千葉市の指定管理者制度の取組について」
千葉市は7月1日に指定管理者制度導入に係る指針を発表した。その中に再来年の4月に指定管理者制度に移行する基本方針があり、来年の9月議会は、個別の公の施設の条例改定ラッシュになりそうだ。しかし、逆算すれば千葉市の指定管理者制度の導入まで、本格的に市民・NPOと行政が対話できる時間は1年を切っていることになる。それ以前に指定管理者制度に移行する新設施設もありそうで、千葉市行政が市民との対話をどのように進めるかが注目される。
公の施設を行政に替わって民間が管理代行できるこの指定管理者制度も、行政の財政逼迫や財界の強い要望に基づいてできた制度であるが、肥大化した行政業務のアウトソーシングとしてとらえることができることから、自治体が抱える多くの公の施設のサービスの向上が期待できるのであれば、民間営利企業や行政の出資公益法人だけでなく、NPO等の民間非営利組織が指定管理者としてこれら公の施設の管理運営を行うことは「参加と協働」という観点からも当然で、今後の市民参加・市民自治にとって重要な制度であると考えられる。
また、公の施設の管理は、営利を目的としない市民に開かれた運営が必要だが、NPOがこうした指定管理者になることで、市民事業そのものの安定も期待できることから、市民活動がより活性化した地域社会の出現ということにとっても重要である。
ただし、課題もある。NPOに公の施設を管理運営する力量を養い、業務体制がつくれるかということ。管理委託料(税金)に基づいて業務を行うわけで、厳しく責任も問われることになる。また、公の施設の多くは、行政が出資している公益法人が委託管理しているが(情報が十分に開示されていなかったり、市民よりも行政の方ばかり見ていて説明責任が曖昧になっていることなどから、一部には天下り先や利権の温床との批判もある)、これら公益法人の職員の雇用問題などもあり、公益法人のあり方も含めた検討も必要である。
資産価値が高い施設の管理運営は営利企業も指定管理者に名乗りをあげるであろう。営利企業が手を上げない、しかし市民にとって必要な施設の管理運営をどのように効率的に行っていくかも課題である。
そのためには、まず、現在の公の施設の評価や新たな活用について、市民・NPOと行政が情報を共有して率直かつ十分な意見交換していくことが望まれるが、前述したように、時間はあまりない。この「市民講座」では、千葉市の担当課である行政管理課に参加してもらい、意見交換の端緒を拓いていきたい。

C第4回:12月7日(火)
「千葉市の地域自治組織の取組について」
総理大臣の諮問機関である地方制度調査会の議論でも、地方分権の受け皿として自治体の規模を一定以上に大きくしていこうということと並行して、地域自治組織をどのようにしていくかが大きなテーマになっている。最初は、市町村合併を推進する上で、吸収合併される小規模自治体の自治をどのようにするかといった論点であったが、最近は小学校区、あるいは中学校区単位の自治をどのように考えていくかが対象となってきている。
自治組織といえば、伝統的な自治会・町内会の組織があるが、これらは自発的な活動が活発でないことがほとんどで、行政の単なる下部組織になっているとか、選挙のときにしか動かないといったような批判もあり、必ずしも地域住民に支持されているとは言えない。そんな中で、中学校区単位に市民会議のような組織ができて、市民と行政の「参加と協働」を進めようとする自治体も出てきている。
千葉市は政令指定都市であり、人口は90万人を越えており、それぞれの地域にそれぞれの課題があり、こうした大都市の地域自治をどのように考えていくかが、地域の活力を維持・増進するために、あるいは生き生きと安心して暮らせる地域をつくる上で重要になっている。
千葉市には6つの区ごとに区民懇話会を設置しているが、これらが千葉市行政が新しい地域自治組織を考えるうえでの第一歩と考えられよう。しかし、これまでに千葉市の地域自治組織の問題点や課題について市民・NPOと行政が率直な意見交換をしてきた歴史はない。将来的には、千葉市の一般職である区長を特別職にするといったことや区長公選制などや評議会のような組織をどのようにつくるか、あるいは課税権なども含めて地域自治をどのように考えるのか。全庁的取り組む、あるいは千葉市という自治体の構成員全てに関わる課題であるが、まず、入口の部分での対話を深めていくために、区民懇話会の担当である区政課に参加してもらい、地域自治組織について意見交換する予定でいる。

(副代表・栗原 裕治)

 



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