◇北海道訪問記〔その1〕 市民参加制度の先駆的自治体を訪ねる
〜 ニセコ町・石狩市 〜
 2003.06



今年6月16日から20日までの5日間、ボーンセンター市民研究所の3名(栗原、鈴木、川本)で北海道をレンタカーでまわった。市民参加制度の先駆的な自治体(ニセコ町、石狩市、旭川市)、NPOセンター(札幌、旭川)の他、ブナ原生林(島牧)、自然再生型河川改修現場(恵庭)、博物館(小樽・旭川・余市)、旭岳山麓、積丹などを訪ねた。道すがら、盛んに行われている道路、ダム、トンネルなどの公共工事も目にした。

今号より3回シリーズで北海道訪問記を掲載する。今回は市民参加制度について担当者より直接お話しを伺った3つの自治体の内、石狩市、ニセコ町についてその概要を報告する。


□石狩市〜「石狩市市民の声を活かす条例」 →制度化による市民参加づくり

石狩市企画財政部(事業評価・市民参加担当)の佐々木参事と藤田主査にお話を伺った。

Q.条例制定までの経緯は?
A.99年に現在の田岡克介市長が誕生し、条例制定への取組みが始まった。同年11月には、庁内に20代〜40代の市職員7名による「市民参加制度研究班」を立ち上げた。研究班のアドバイザー役は佐藤克廣・北海学園大学法学部教授で、班会合は計17回開催し、2000年4月には研究班による条例試案をまとめ、庁内、市民へ同時に試案内容を公表した。
この試案を受けて、2000年7月「市民参加制度検討委員会」を設置した。会長の佐藤教授と13名の委員〜一般公募4名・市職員3名・団体3名(JC、町内会、教育関係)を含む〜で構成され、委員会は公開で10回開催された。傍聴者は各回2名程度だった。そして2001年3月、委員会による提言書が市長に提出された。

市はこの提言書を受けて、同年7月条例素案を作成し、パブリックコメントを募集した。5人の市民から21のコメントが寄せられ、内4つを取り入れて条例案とし、2001年9月議会で原案通り可決した。条例の施行は02年4月である。

Q.条例の性質は?
A.理念的なものよりも、行政手続を定めるものとした。佐藤教授は市民参加の方向性として@NPO活動、A行政活動に市民が参加とし、条例化により法の持つルールを活かす(=行政をしばる)こと、市民の自発性を喚起することを目指した。

Q.市民参加制度検討委員会での議論の様子は?
A.市民参加のイメージを共有するのに相当時間を費やした。NPO及びNGOの参加規定や、市民の参加の範囲が狭いという指摘もあった。

Q.議会の反応は?
A.条例は、市民の意見を募り市長の判断で議会への提案内容に盛り込むことを定めたものであり、議会はそうした市民意見を盛り込んだ提案に対し、しっかり吟味することが求められる。またパブリックコメントを議会や行政の免罪符にしないことは条例でも規定している。なお、最近では議会側からパブリックコメントの中身を良い意味で確認する傾向も出てきている。

Q.パブリックコメントの現状は?
A.今まで、9テーマについて23人からあわせて69のコメントが提出された。コメントを促すためには、関心のある人をひきつなげること、リピーターを増やすことが大切だと感じる。今までコメントを提出した人にアンケートをしたり、パブリックコメントの案内を出したりしている。

Q.都市マスの市民参加の進め方は?
A.ワークショップ方式で対話を取り入れ、各地域計画についても意見を求めた。

Q.情報公開請求件数は?
A.情報公開請求は年間10件程度だ。

Q.市民との共同の施設づくりは?
A.ある公園施設づくりで4回のワークショップを実施した。参加者は1回あたり20人程で、設計コンサルタントがワークショップを運営した。

Q.施行後1年経過して、市民参加制度の課題は?
A.トップの意向で、市民参加について役人が形をつくれば、アンコ(市民意識)はあとからついてくるという考えで条例を制定した。 しかし、市民側の意識の高まりはまだ十分ではない。市民から盛り上がりがなければ、そのうち、職員が息切れしてしまう可能性もある。職員は、条例という制度があるからやっており、市民自身が参加してよかったという思いをもつことができれば、それが職員の励みになると思う。

 

□ニセコ町〜「ニセコ町まちづくり基本条例」→市民参加の現状を制度化

ニセコ町職員の加藤紀孝氏にお話を伺った。

Q.市民参加に対する町の基本姿勢は?
A.顔をつきあわせて話し合うことを基本にし、「まちづくりトーク」、「町民検討会議」(重要な課題についてのタウンミーティング)、「まちづくり町民講座」など対話の場を行政が提供している。
例えば町民講座は、皆で行政の現状や課題を共有し、まちづくりを話し合おうと課長や係長が講師となって月1回テーマ毎に開催している。1回あたりの参加者は3人から100人規模までまちまちだ。

Q.町民講座では、町の職員は本音を言えないのではないか?
A.以前は、行政の情報が正確に伝わらないが故の町政に対する「批判」があったが、町民会議の開催により、職員も様々な課題に悩みながらきちんと仕事をしていることが理解され、そうした悩みなどの本音を職員も自由に話すようにしている。そのことで何の不都合も生じていない。

Q.公共施設づくりについてはどうか?
A.「道の駅ニセコビュープラザ」や「ニセコ駅前温泉綺麗乃湯」、図書情報センターなどについて白紙状態とも言える計画段階から運用・管理に至るまで、公開の中で町民同士の自由闊達な議論が行われる「町民検討会議」を通じて町民がかかわってきた。

Q.予算作成時の住民参加は?
A.予算説明書「もっと知りたいことしの仕事」を町内会を通じて全戸に配布し、配布にあたっては地区毎に懇談会を開催して内容を説明している。補助金の見直しは2年がかりで行った。

Q.審議会との関係は?
A.町民講座で端緒となる情報を提供・意見交換し、その後に審議会で審議している。

Q.町内会を通じて住民意見を聞くのか?
A.住民意見は町が直接住民から聞くことにしており、町内会経由はない。

Q.議会からの反発は?
A.「議会の役割を否定するのか」という声はあるが、それに対しては、市民は議会に白紙委任している訳ではないこと、議会の役割を補うのが市民の声であること、また議会は市民の声を100%把握している訳ではないことなどを指摘している。

Q.どこでも縦割り行政の弊害が指摘されているが、役所内の横のネットワークは?
A.町長が関係部に直接指示することが中心となっている。内部には「有志の会」などがある。

Q.情報公開・情報共有の具体的な手法は?
A.すべての文書の決済の段階で、同時に公開・検討・請求の区別を判断し、書類のすべてに明記している。また文書管理システムを導入しており、同じ書類を多く保存することがないよう文書が一つしかないこと、保存場所が誰でもわかるようにしている。

Q.市町村合併についてはどう考えているのか?
A.倶知安町などとの合併協議会を設置している。住民参加制度は当然合併後も継続するという前提だ。合併協議会は合併を前提としたものではなく、白紙状態で検討する場として位置づけている。

Q.今後の課題は?
A.課題としては次の点がある。
@ 町民への情報発信の活発化
A 役所内の縦割りの弊害で意思疎通が不十分
B 議会改革、例えば、議会の委員会で傍聴者も意見表明する機会を持つことなど
C 合併問題
D 小さなコミュニティからの参加が限られていること。

 


【感想】

ニセコ町は市民参加の現状を制度化し、石狩市は制度化により市民参加を目指したといえる。実態には相当差があるものの、行政主導であることには変わりはないのではないか。両自治体とも市民活動はそう活発ではないように見受けられた。反面、千葉では制度化については遅れているが多くのNPOが活動しつつある。個々の課題での市民、NPOによる「参加と協働の実態づくり」への働きかけと「制度化」を並行的に取り組むことが基本と思われる。

合併問題では倶知安町の人口はニセコ町の3倍であり、この「力関係」からすれば上から合併が強要されればニセコ町の住民参加制度も消失しかねない。合併問題を検討する場合、まちの将来像を明確にする必要がある。その点で自治体の憲法とも言うべき「自治基本条例」や「まちづくり基本条例」の論議から本来入るべきだと思う。地域内分権も議論されるべきだろう。千葉市では四街道との合併問題を抱えているにもかかわらずそうした議論すらない。

 

(事務局長・川本 幸立)

 

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