「ちば環境再生計画」の評価

1.「ちば環境再生計画」とは?

千葉県環境生活課が提案した「ちば環境再生計画」は、市民、行政、企業が協働し[環境づくり日本一の千葉県]を目指すという目的を掲げ、[環境再生基金]を設置して一般を含めて300億円の資金を集め、[環境再生推進委員会]を設置して5年間にわたって環境再生事業の実施内容等を決定するという点で、千葉県としては画期的な試みといえる。

「ちば環境再生政策」が目的としている「人と自然の共生」「環境学習・都市と農漁村との交流」「環境ビジネスの創造」の3つは、千葉県にとって重要な課題であるが、実際の事業は「森づくり」「里山づくり」などの自然再生事業、「不法投棄の撤去」「土壌汚染の浄化」などの負の遺産の解消事業、「省エネルギー・新エネルギー」「廃棄物の発生抑制」などの温暖化防止・廃棄物の削減事業であり、ほとんどの資金は負の遺産の解消事業に投入される。市民が提案する自然環境事業等への助成も検討されているが、全体の資金からすれば1%程度であり、行政の負の遺産の解消を優先する意思が強く働いている計画と言える。

しかし、こうしたセクター間の協働を掲げた事業において重要なのは、行政等の特定セクターの裁量の余地をなくし、政策形成の過程からどこまで協働が出来るかという点であるが、残念ながら千葉県の対応は形式的と言わざるをえない。負の遺産の解消といっても、その数値目標はなんら明らかになっていない。

また、千葉県の不法投棄や土壌汚染などの負の遺産は、東京都や神奈川県等の他からもたらされたものもかなりあるといわれているが、他県との費用負担がどのようになっているのか、負の遺産をつくりだした企業等の責任についても曖昧なままであり、事業を行うことが目的の計画になってしまっている。

現代社会の閉塞的状況は、右肩上がりの経済社会の時代に通用していた政策形成における行政機構の独占が機能しなくなったことに大きく起因しており、堂本知事が提唱する千葉主権、市民主権とは、こうした政策形成における行政機構の独占を改める構造改革の重要性を指摘しているものと私たちは理解しているが、こうした視点も軽視されているように思われる。

こうした状況が改善されずに、形式的に市民、行政、企業の協働を掲げてこの計画を推進されることになれば、負の遺産に対する責任が曖昧なままに、新たな利権構造が創出されることが懸念され、現在指摘されているような不透明で無駄な公共事業が環境再生の名をかりて行われる可能性もある。

 

2.意見書の提出と千葉県の対応

千葉県は環境事業に取り組む市民団体に対して、「ちば環境再生計画」の説明会と助成対象となる事業を中心に意見募集を行っているが、市民団体と行政の話し合いは核心部分が不明瞭なままであり、ボーンセンターは今年2月に千葉県に5箇条の意見書を提出し、その後の千葉県の対応において、非公式にいくつかの回答を得たように思う。

 

@「ちば環境再生基金」の設置場所

千葉県は既に「千葉環境再生基金」を(財)千葉県環境財団に設置することを決めているが、なぜ千葉県直轄事業としないのかの納得できる説明がない。これまでの千葉県の説明は、直轄事業ではいちいち議会の承認が必要で迅速・柔軟な対応が難しくなる。あるいは県の事業では、市町村が出資できないというものである。

(財)千葉県環境財団は面倒な手続きを行わなくて済む千葉県の一部と言う認識が行政当局にあるのかもしれないが、財団法人という独立した法人が行政の一部と言う認識は問題を孕んでいる。現在行われている説明会は千葉県環境生活部が環境生活課が出席して行われており、(財)千葉県環境財団の職員の姿は見られないし、事業が具体的に動き出す段階で、千葉県が担当者を出向させる計画のようだ。完全に(財)千葉県環境財団は議会のチェックが及ばない千葉県の「あやつり」の状況である。

市町村が出資できるように、千葉県の外に設置すると言う説明も、「ちば環境再生基金」の資金投入先が千葉県全域を対象にしていることから、果たして各市町村がそれぞれの自治圏の外に及ぶ事業に出資できるかどうか疑問である。千葉県の直轄事業にすれば、市民の寄付金は税金控除の対象となるので、こうした視点も重視すべきと思う。

市民、行政、企業の協働を推進するために、千葉県の外部に設置するというならば、その根拠を千葉県は明確すべきと思う。その上で、県の「あやつり」の懸念を排除するために、組織の率先したアカウンタビリティが不可欠です。環境再生基金の運用に関する事業報告や事業計画は当然として、組織全体の役員や管理職に関する情報や収入・支出に関する情報の開示も重要になる。

これに関する千葉県の説明は十分でなく、まず(財)千葉県環境財団ありきの計画と市民に誤解されてもしかたないと思われる。最近の千葉県の説明資料には3分の2ページ程度の(財)千葉県環境財団の説明があるが、名称、所在地、設立年月日、設立目的、主な業務、基本財産が示されている程度のものである。

 

A環境再生推進委員会の設置基準の明確化

「ちば環境再生計画」では、学識経験者、県民・NPO、地元経済界、県・市町村で構成する「ちば環境再生推進委員会」を設置して、環境再生事業の実施内容等を決定するとしている。

しかし、既に千葉県環境生活部環境生活課で一部の募金活動が始まっているのにもかかわらず、推進委員会や基金運営の仕組みが見えていない。その時々の特定の裁量を制限するためには、委員の定数、任期、選定基準、役割、報酬、再任・解任、委員会の権限、委員会の開催条件、事務局の設置と役割等を明文化し、開示しておく必要がある。なかでも事務局の設置をどのように考えるかは、市民、行政、企業の協働を推進する上で重要であり、事務局は推進委員会の直轄として事務局員に行政だけでなく市民等を加えることが情報開示を促進する上で必要と思われる。

最近の説明会では、千葉県から「ちば環境再生基金運営規程(案)」が示されるようになった。これは、いわば法人の定款にあたるようなものだが、詳細なものではない。詳細を
決めれば必ずしも良いと言うものではないが、少なくとも特定の裁量を排除して協働を推進するビジョンが見えてくるような規程にすべきである。

 

B事業評価システムの確立

実施した環境再生事業の評価は重要であり、「ちば環境再生推進委員会」は事業決定者なので、それ以外の中立な第三者的がオープンに的確な評価ができるようなシステムを確立する必要があると思われる。
必ずしも評価機関を設置しなくてもよいと思われるが、この意見についての、千葉県の説明は今のところない。

 

C大口資金提供者の公表

県民総ぐるみの募金活動により300億円の環境基金を集めるとあり、既に県等に設置されている環境関係の基金のほかに、個人、団体、企業等からの資金提供が期待されている。こうした資金提供者の情報については、個人のプライバシーに配慮する必要があるが、大口の資金提供者については、資金提供者の意向が不当に事業決定に反映されないように、提供者名と金額を公表する必要があります。

また、資金提供者の意向も大切にしなければ,十分に寄付金を集めることもできないので、基金提供者の立場に立って、自分の寄付金がどのように使われることになるのか、総合的な寄付金集めのほかに環境再生事業の種類別の寄付金集めの検討も必要と思われる。

この意見に対して、千葉県は「法人及び団体が10万円以上の寄付をした場合、原則として名称及び寄付額を公表する。」としている。一方、5万円以上の個人寄付者の公表は、寄付者の任意としている。

D環境政策研究を公募助成の対象に

「戦略プロジェクト」「公募助成」「タイアップ助成」の決定は「ちば環境再生推進委員会」が行うことになっているが、特に負の遺産の解消を中心とした戦略プロジェクトの決定には、推進委員の経験・知識のほかに、推進委員にも県民にも十分な情報を提供する必要がある。なお、「タイアップ助成」は他の助成財団が助成する事業について、その助金金の同額までをちぱ環境再生基金からも助成するものである。

これまでの政策形成は行政機構が独占的に行い、議員や市民はほとんど部分的に注文をつけるにとどまっていたことから、「ちば環境再生推進委員会」への政策的な情報提供も行政による一元的な情報提供が大勢を占める可能性がある。市民、行政、企業の協働事業を形式的なものにしないためには、多元的な政策情報の中から戦略プロジェクトを選択するプロセスが重要であり、今後はNPO等による民間の政策研究や政策提案が重要になる。

そこで、公募助成の対象に具体的な現場での活動助成だけでなく、政策研究も対象にすべきです。(日本は欧米に比べて政策研究に対する民間への助成が極端に少なく、<環境づくり日本一の千葉県>を目指すために必要な措置です。)

この意見に対して、千葉県は政策研究を助成対象から明確に外す決定をしたようです。しかし、「ちば環境再生基金」以外にも、千葉県のNPO活動推進室でも平成14年度は助成制度を検討しており、政策研究助成の実現を引き続き提案していきたい。

 

栗原 裕治

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