45. 坪井善明『ヴェトナム 「豊かさ」への夜明け』』(
岩波新書 1994)(2002/12/06新規搭載)
(これは近刊ではないが、現在、増刷、宣伝されているので収録した)
……私は、戦後ベビーブームのまっただ中の一九四八(昭和二三)年生まれで、大学に入ったときはヴェトナム戦争がたけなわの頃であった。いわゆるヴェトナム戦争世代の一員である。
一九六八年の秋のよく晴れた日。ヴェトナム反戦のべ平連=i「ベトナムに平和を! 市民連合」の略)のデモに参加し、日比谷通りで横二〇人並びの隊列をつくり、つないだ手を大きく広げて通り全部を使って歩くフランス式デモをしているときに、ふと、「ヴェトナム人は朝食に何を食べているのか」という疑問がうかび、自問自答した。
自分には、その答えがどこからも出てこなかった。
そして「ヴェトナム戦争反対」と唱えて行動しているのに、自分はヴェトナムの社会、歴史、言葉、人びとをまったく知らないということに気づいて、激しい差恥心に襲われた。デモから帰って、ヴェトナムに関する論文や書物を一生懸命あつめて、読みあさった。しかし、戦争の経緯や簡単な歴史を書いたものやルポルタージュなどはあっても、ヴェトナム人がどのように生活し、何を考えて生きているのかを説明してくれるものは皆無だった。ヴェトナムの社会や歴史についての本格的な専門書がきわめて少ないことにも、衝撃を受けた。
このときの体験が一つの契機になって、ヴェトナム政治史の勉強を一九七二年から始めた。ヴェトナム戦争世代の一員の責任として、ヴェトナムについて研究し、その正確な情報を日本人にしっかり伝えることを、自分の課題にしようと秘かに決心した。…… 〈本書「はじめに」より)