154 鶴見俊輔「”大づかみ”できなくなった日本人 なぜ米国、米国と言い続けるのか?」(抄)  『週刊朝日』緊急増刊「朝日ジャーナル創刊50年 怒りの復活」2009年04月30日 09/04/21搭載)

正しい三流国めざす
(前略)…… いま知識人の指導力が問われているけど、少なくとも私がやってきたことは、べ平連にしろ九条の会にしろ継続している。言論がカを持たなくなったのは、腰の据わった知識人が少なくなったからなのでしょう。
 赤木智弘という人が「丸山眞男をひっぱたきたい」と言いましたが、丸山をひっぱたくのは簡単なんです。大学の法学部や人文学部を薄めたような勉強をしてもしようがない。異なった勉強をして実学を修めれば、いくらでも殴れる。学歴などは無関係なんです。
 映画評論家の佐藤忠男は中学受験に落ちて予科練に行った。予科練でメカに強くなり、戦後、私のところに映画批評を寄せてきたときの肩書は「新潟県新潟市、電気器具修理工21歳」。わたしはその批評をそのまま雑誌に出し、彼は上京して映画雑誌の編集長になり、結婚した細君のおやじさんから英語を学び、世界映画史を書いた。彼はセルフメードなんだ。彼を見ていると、樹木の成長という感じがするんだね。
 反対に保守的な立場ですが、上坂冬子も大学を出ていない。女学校を出てトヨタの工場に入って、大ストライキに遭遇して、その指導者たちのぐらつきとストライキの行方を日記に書いた。これが『職場の群像』という本になって著述、評論の道へと進んだんです。彼らはまさに丸山眞男をひっぱたいたのだと思う。
 日本がいま考えなければならないのは、どのような三流国になったらいいのかということです。明治のころ、内村鑑三は地上の理想をデンマークに求めた。つまり明治の人間は、すでに日本はどのような三流国になったらいいだろうということを考えていた。北欧三国もベネルクス三国も、自ら一流を謳わないが、とてもいい国です。日本はどうしてアメリカ、アメリカと言い続けるのだろう。
 いま若年層の貧困が問題になっているけど、必要なのはミニマムデモクラシーです。緊急立法を作って食と住の確保をすべきだ。オハマならそれくらいやるでしょう。「美しい国」なんて言った、あの安倍晋三元首相や金持ちに生まれ育った麻生太郎首相なら、ミニマム・デモクラシーぐらい言えるはずなんだが、その思いつきの出てくる場所が彼らの頭にはない。         

 (『週刊朝日』緊急増刊「朝日ジャーナル創刊50年 怒りの復活」2009年04月30日 31ページより)

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