152 対談・鶴見俊輔/上坂冬子「爽やかだった大東亜戦争――戦前の日本は取るに足らない国家なのか――」(抄) Voice 2008年09月) 09/04/11搭載)

 この対談では、「大東亜戦争」、空襲体験、敗戦体験、天皇制、現天皇夫妻への評価、吉田茂への評価、核兵器被爆の問題などが語られているが、以下には、ベ平連について言及された部分のみを再録する。

 上坂 (前略)……鶴見さんは靖国神社について、どうお考えですか。
 
鶴見 私は参拝に行っていました。たくさんの人が、たとえ戦争がまずいと思っていても、死ななければならなかった。それに鞭打つような真似はできない。ただ頭を下げます。丸谷才一は「鶴見は戦争中に死んだ人間に生ぬるい」というけれど、けっして吉田満の作品の悪口なんかいえないんだ。
 
上坂 吉田満は戦艦大和の生き残りの作家ですね。私はノンフィクション作家の鑑だと思います。近くを通ったとき、靖国神社に串参りしていらした?
 
鶴見 当然です。それが死んだ人間に対する敬意ですよ。
 
上坂 東條英機さんたちも含めて?
 鶴見 東條も含めてですが、ただ、東條の戦争責任はあったと思う。負けるとわかっていて引き込むんだからよくないよ、そりゃ。
 
上坂 東條さん一人で日本を戦争に引き込んだという状況だったとは思えません。
 
鶴見 私は高い位置に上った人は、つねに辞めることができると思っている。単純なことじゃないですか。
 
上坂 辞任すればよかった、ってこと?
 
鶴見 そう。そもそもアメリカと戦争をやって勝てるわけがないんだし、そこで躊躇すべきだった。たとえば西園寺が生き残っていたら、別のチョイスがあったかもしれない。
 
上坂 なるほど躊躇
しなかった責任ねえ。でも鶴見さんご自身はベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)の活動に、じつに躊躇なく飛び込まれましたねえ(笑)。考えてみればアメリカがベトナムを攻めたからって日本人があれほど反対することもないでしょうに。普通の革新系の人たちはそんなに躍起にはならなかったのに、なぜのめり込まれたんですか。
 
鶴見 ベ平連は高畠通敏が言い出した話に私が乗って、その後、小田実に声を掛けた。小田に白羽の矢を立てたのは私だけど、まぐれ当たりしたね。のめり込んだというけど、それはアメリカが私をつくったから。私は日本で小学校を出ただけで、成績もビリから六番目。アメリカの大学しか行ってない。アメリカがおかしくなって、本当のアメリカはこっち、偽物はあっちだと感じたんですよ。つまり私にとっては、アメリカ魂あるがゆえのペ平連だった。私は一種のアメリカ人なんです。
 
上坂 それを自覚されてのことならよくわかる。
 
鶴見 戦時体制下で信念のフラフラする親父が憎かったのと同じことですよ。ところが毎日のように各地にべ平連グループができていたころ、とんでもないことが起きたんだ。
 
上坂 何が起こったの?
 
鶴見 CIAが目を付けた。CIAはアメリカ好きの日本の教授をたくさん知ってる。彼らからいろいろな情報を集めたらしい。最後はアメリカの学者が集約したようで、CIAが拠り所にしたその論文を、べ平 連の事務局長だった吉川勇一が入手して私にくれたんだけど、じつに面白いことが書いてあった。べ平連がいま、どんどん伸びているのは小田の力じゃない。後ろにもう一人、黒幕がいる。その人物は初代満鉄総裁の孫である。戦争が終わったあと、満鉄に隠し金があった。それを基金にしてベ平連を支えている、と。妙に辻褄が合う(笑)
 
上坂 鶴見さんが満鉄の隠し金をパックにした黒幕だって! この顔のどこに黒幕としてのスゴ味がある?(笑)
 
鶴見 さらにこう続くんだ。この黒幕は右翼と関わりがある。右翼の大立者は頭山満である。頭山と組んでいた杉山茂丸という人物がいる。黒幕は杉山の息子の伝記を書いている。鶴見俊輔の『夢野久作』という本である(笑)
 
上坂 よくできた筋書きです(笑)
 
鶴見 アメリカは無茶苦茶なんだよ。イラク戦争で大量破壊兵器があるといってしまったり、当時から何も変わってないね。……(後略)

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