9.2 対人地雷による苦しみを終わらせるための
2005年〜2009年 ナイロビ行動計画(改訂版) (JCBL訳)
2004年11月5日: ナイロビ・サミット議長が提出
2004年12月3日: ナイロビ・サミット総会が承認
前文: (訳:林 明仁)
1.条約の十分で効果的な実施と普及への完全なコミットメントのために、締約国はすべての関係するパートナーと連携して、
(@)今日までの成果を確固としたものとし、
(A)条約下での協力の有効性を維持、強化し、
(B)条約の普遍化、貯蔵対人地雷の破壊、埋設地雷除去及び被害者支援を行なう上での問題への対処に努力を惜しまない。
今後5年間、締約国は下記の戦略に基づいた行動計画を実施する。本計画の実施により、あらゆる人間、あらゆる瞬間に生み出される対人地雷による被害を終わらせるため、締約国は大きな進展を達成することを目的とする。
T.条約の普遍化 (訳:林 明仁)
2.「すべての関連する場において条約の普遍化を進めるために精力的に活動する」と条約で記されているように、締約国は過去5年間、条約の普遍化への努力を活動の中心に据えてきた。この短期間に、世界の70%以上の国家が条約に参加したことは対人地雷に頼らない国の安全保障の実現、効果的な地雷対策への支援と協調のグローバルな枠組みの確立、さらにこのような取り組みに参加することの重要性を示している。しかし、今日までの軍縮と人道主義の拡大が今後も継続すること、また対人地雷のない世界が究極的に実現するか否かは世界的な条約の支持と対人地雷の完全な廃絶の実施の達成にかかっている。
したがって、2005年から2009年の期間、条約の普遍化は締約国が協調して取り組む重要な目標となる。
この目的のために、
すべての締約国は以下のことを行なう。
行動1 未加入の国に対し早期に加入するよう呼びかける。
行動2 未批准国に対し早期に批准するよう継続的に働きかける。
行動3 普遍化の問題に対する非締約国の挑戦に対して、効果的な取り組みを優先する。特に、対人地雷を使用、製造、大規模に所有する国、もしくは人道的、軍事的、政治的、その他の理由により特別の配慮を必要とする国への取り組みを優先する。
行動4 条約への参加のレベルが低い地域での条約の普遍化を特に重要視する。特に、中
東、アジア、CIS(ソ連解体後の国家連合)諸国における普遍化の努力を強化する。また、これらの地域内の締約国はこのような努力において重要な役割を果たす。
行動5 条約への支持を拡大するためにあらゆる機会を活用する。例えば、2国間の会談や
軍事的対話、平和プロセス、国会、メディアを利用し、条約への支持を保留している非締約国に働きかける。
行動6 関係するあらゆる多国間の枠組みにおいて条約への支持を拡大する。それらは、国連安全保障理事会、国連総会、地域機関、軍縮機関などである。
行動7 武装非国家主体による対人地雷の使用、保有、製造、移転を終わらせるための適切な処置をとることにより、条約の規範の世界的な遵守を促進する。
行動8 国連及び国連事務総長、その他の国際機関、地域機関、ICRC(赤十字国際委員会)、ICBL(地雷禁止国際キャンペーン)、その他の非政府機関、国会と市民などの関係するあらゆるパートナーとの連携と関与を進め、また支援することで普遍化の努力を進める。
U.貯蔵対人地雷の破壊 (訳:林 明仁)
3.条約第4条は、すべての締約国に対して条約が当該国に効力を持った後4年以内のできるだけ早期に保有対人地雷を破壊するよう義務付けている。これまでに3,700万個の地雷が破壊され、期限までにすべての破壊プログラムが完了しており、このことはこれまでの条約の遵守の実績を意味あるものとしている。締約国は、2005年から2009年の間に条約の人道上、軍縮上の目標を達成するために、上記のような進展を維持することを決意し、締約国の管轄下にある貯蔵対人地雷を迅速かつ期限内に破壊することを確実なものとする。
この目的のために、
破壊プログラムを実行する17の締約国は以下のことを行なう。
行動9 貯蔵している対人地雷の種類、個数、可能であればロット番号を確認し、条約第7
条によりこの情報を報告する。
行動10 条約第4条の義務を実行するために、適切なナショナル、ローカルレベルのプログラム実施能力を確立する。
行動11 可能であれば4年の期限より前に破壊プログラムを完了するために努力する。
行動12 締約国と関連機関に対し、破壊プログラムにおける問題点、進捗状況、支援の必
要性を適切な時に知らせる。また、貯蔵地雷の破壊義務を履行するために資金、技術、その他の支援が必要な場合には、破壊プログラムへの自らの取り組みの状況を明確にする。
締約国は、可能な場合には、以下のことを行なう。
行動13 条約6条5項下での義務に基づき、貯蔵地雷破壊のために外部支援を明示的に必要
としている締約国に対し迅速に支援を行なう。その場合、当該国が必要とする支援の優先順位に基づいて支援を行なう。
行動14 PFM地雷の破壊に伴う困難さに対処するために、技術的な解決方法の開発と調査
支援する。
(JCBL註:PFM 1 型地雷は通称バタフライ型地雷。中の液体火薬が硝酸を含み、焼却すると有毒ガスを発生し、破壊に当たり環境問題を伴う。締約国ではベラルーシュ、署名国だが未批准国のウクライナが数百万個のPFM 1 を貯蔵しており、この問題に苦慮している。)
すべての締約国は以下のことを行なう。
行動15 貯蔵地雷破壊の期限後に新たな地雷が発見された場合には、条約第7条の義務
により、このような情報を共用するための第7条報告以外の非公式な方法で報告する。また、これらの地雷を緊急に破壊する。
行動16 貯蔵地雷破壊のための技術的、物質的、資金的支援の要請に応えるため、また関
連する地域、技術機関の連携を促すため、地域、サブ地域を含めた効果的な支援体制を確立する。
III. 埋設地雷除去 (訳:加藤美千代)
4.対人地雷禁止条約第5条では、締約国は自国の管轄又は管理の下にある地雷敷設地域におけるすべての対人地雷を、条約が自国で効力を生じた後できる限り速やかに、遅くとも十年以内に、破壊しなくてはならないと定めている。2004年は、最初の地雷破壊完了期限である2009年までの中間地点にあたる。今後5年間の最大の挑戦は、定められている10年期限に間に合うように地雷の破壊を完了できるかどうかである。これを達成するためには地雷埋設国自身、ならびに彼らを支援する立場にいる国ぐにはより一層の努力を重ねなければならない。破壊プロセスのスピードや方法については、地雷の影響を受けている個人やコミュニティーの安全や福祉を考慮した人間の安全保障の視点を常に念頭におくことが重要である。
そのために、締約国は以下のことを約束する。
行動17:第5条(1)に定められている、2005年から2009年までの埋設地雷除去完了期限を最も迅速に効果的でかつ確実に達成するために、一層努力していく。
自国の管轄又は管理下に地雷埋設地域がある49の締約国は、最大限、以下のことを実行する。
行動18:自国の管轄又は管理下の対人地雷埋設地域を、条約5条(2)に定められている内容に従って至急全て明らかにし、第7条の規定に従いその情報を報告する。
行動19:直ちに地雷対策における国家計画を立て実施する。その際に、地雷の影響を受けている土地のコミュニティーや地元の関係者を参加させ、地雷除去の必要性が中程度または高い場所を優先し、地雷が埋設されているコミュニティーにおいて適切に実施地を決定し、優先順位を定めて除去計画を立てるようにする。
行動20:住民に対する地雷の危険を大幅に減らすことにより、新たな地雷被害者をゼロにするという最終目標の達成につながるよう、地雷の被害に遭う人数の減少を目指す。そのために、住民への影響が高い地雷埋設地域で優先的に地雷除去を進め、地雷回避教育を実施し、条約5条(2)に従って、地雷がまだ除去されていない土地に住民が近づかないようにマーキングを施し監視をして保護をするよう、できる限りの努力をしていく。
行動21:地雷回避教育を、地雷被害の危険性がある全てのコミュニティーに行き渡させる。地雷事故を未然に防ぎ生命を救い、相互理解と和解を進め、地雷対策計画を改善し、既存の教育システムや開発プログラムの中に地雷回避教育を統合する。その際に、年齢やジェンダー、社会的経済的視点、政治的ならびに地理的要因を考慮し、IMAS(国際地雷対策標準)や自国の地雷対策標準に沿うことを確約する。
行動22:自国の(地雷対策活動における)問題点、計画、進展や支援の優先順位を、締約国ならびに国連、地域の関連団体、ICRC, NGO、GICHD(人道的地雷除去ジュネーブ国際センター)など各種関連団体に発表する。その際、第5条に明記された義務を果たすためにどの程度貢献したかを明記する。
以下を行う立場にある締約国は、以下の事項を行う。
行動23:第6条(3)ならびに第6条(4)に明記されている義務を果たす。すなわち、地雷除去および地雷回避教育を実施するために明らかに外的支援が必要だと述べた締約国に対して、地雷埋設国が定める支援の優先順位に従い、継続的で持続的に資源を提供する。
全ての締約国は以下を実行する。
行動24:上記された事項をより効率的に実施する。そのために、地雷対策活動に関わる団体や個人をコーディネートし、コーディネートに際しては地雷除去要員や地雷の影響を受けているコミュニティーといった地域レベルの参加を保証する。第5条に定められた義務を果たすために、IMSMA(地雷対策情報管理システム)などの自国の情報収集システムをも活用し、IMAS(国際地雷対策標準)を参照して自国の地雷対策標準を作成するよう最大限の努力をする。
行動25:地雷の影響下にある締約国が、設備や資源、科学的・技術的情報交換に積極的
参加できるよう努力を続ける。第6条2項を実施し、技術を開発する国と技術を使用する国とのギャップを埋める。
行動26:地雷除去技術や行程に関する情報をシェアし、発展させかつ応用する。特に地雷除去機材や地雷探知犬など生物を利用した地雷除去については、新しい技術開発を進めつつも、技術の適切な供給を考え、既存の技術を最大限に活かす。
行動27:地雷除去期限の延長を求めることはよしとしないことを締約国は肝に命じる。オタワ条約の第5条の3〜6パラグラフにその旨が明記されている。
行動28:地雷除去の目標を達成するため積極的に活動しモニターを続ける。また、必要とされている支援を明らかにし第7条に定められている報告義務を果たす。地雷埋設国は、締約国会議や常設委員会会合ならびに各地域会議で、自国が抱える問題や計画、地雷対策の進展状況や支援の優先順位などを報告する。
IV.地雷被害者支援 (訳:加藤美千代)
5.締約国は、地雷被害者のケア、リハビリテーションと社会復帰を支援することが条約第6条(3)で定められている。世界に何千、何万人もいる地雷の被害者とその家族やコミュニティにとって、この条項は非常に重要である。地雷の事故という悲劇にあった自国の被害者をまず支援することが締約国の重要な責任であり、締約国のうち地雷の被害者が多く居住している23カ国において特にあてはまる。地雷の影響を受けている締約国には支援活動を行う大きな責任があるわけだが、その一方で(外からの)支援と期待をもっている。全ての締約国が地雷被害者を支援する義務があること、そして国際団体、地域団体、ICRC、NGOやその他関連団体が果たしうる重要な役割を認識したうえで、地雷被害者のケア、リハビリテーションと社会復帰への努力を一層重ねていくために、締約国は2005年から2009年の間に以下の活動を展開することを約束する。
締約国のうち、地雷被害者が数多く居住している23カ国は、以下の活動をするために最大の努力をする。
行動29:地雷被害者の救急治療や継続的な治療に対応できるように医療サービスを拡充する。そのために、地雷埋設地域で地雷やその他の致命的な怪我に対し救急措置を施すことのできる医療従事者の数を増やし、必要に応じて適切な治療を施すことができる熟練の医師や看護士を配備する。そして、医療設備を改善して、かつ設備や補充品、薬が基本的な標準を満たすようにようにする。
行動30:国の身体的リハビリテーション能力を上げる。地雷被害者が、社会復帰や回復の前提条件として必要な身体的リハビリテーション・サービスを効果的に提供する。そのために、リハビリ計画を包括的に立て目標達成を目指すほか、医療サービスへのアクセスの改善を図り、地雷被害者やその他の障害者にとって大きな助けになるリハビリテーション専門家を訓練して数を増やす。そして関係者全てを効率的にコーディネートして、ケアの質を改善し、かつより多くの被害者がケアを受けられるようにする。そして義肢・義足の製作・配布に携わる専門機関がプログラム実行のためのガイドラインを作成するように継続して呼びかけていく。
行動31:地雷被害者への心理的ケアや社会的支援を行う能力を高める。成し遂げうる最高の治療について意見交換をし、身体的リハビリテーションと同様に支援活動を展開し、地雷犠牲者だけでなくその家族やコミュニティーといった関係者全員をエンパワーし励ましていく。
行動32:地雷被害者の経済・社会復帰を積極的に支援する。そのために教育支援や職業訓練を行い、地雷の影響を受けているコミュニティーで持続的に経済活動を行えるように雇用機会を創出する。これらの活動をより大きい視点での経済開発と結びつけ、経済的に自立できる地雷被害者の数を増やしていく。
行動33:地雷被害者の基本的人権やニーズを網羅した法律や政策の枠組みを作る。全ての障害者のリハビリや経済・社会復帰を保障する法律の整備や政策を、迅速に成立させる。
行動34:国による、地雷被害者のデータ収集能力を高める。データ収集により地雷被害者が直面している問題を理解し、より効果的な対処法を学ぶことができる。既存の国立保健情報収集システムと地雷被害者データ収集を早い段階で結びつける。また、支援プログラム実施者が収集した情報へのアクセスできるよう保証することにより、与えられた資源を有効に利用する。
行動35:地雷被害者へのどのような支援活動においても、ジェンダーや年齢への配慮を忘れない。様々な差別の対象となりうる地雷の被害者に対しても配慮をする。
その立場にある締約国は以下を実行すると約束する
行動36:第6条(3)に明記された義務を果たすため、明らかに外的支援が必要だと述べた締約国に対して迅速な支援をする。支援を必要としている締約国が示す優先順位に応じて、当事国の地雷被害者のケア、リハビリテーション、社会復帰を支援し、継続的で持続的に資源を提供することを約束する。
条約の枠組みの一部である中間作業プログラム、地域もしくは国内会議で共に活動する全ての締約国は、以下のことを実行する
行動37:地雷被害者支援の更なる進展を促し、成果や経過をモニターする。2005年から2009年に果たすべき目標に近づくために、締約国は、問題点や将来計画、進展ならびに支援の優先順位を発表する場所を設け、該当する締約国は既存のデータ収集システムにのっとった報告をし、どのようにニーズに対応したかを報告する。
行動38:条約の遵守の過程で地雷被害者が効果的に関わるようにする。特に締約国や各関連機関は地雷の被害者を代表団に参加させる。
行動39:関連する全ての審議に効率的に参加する。保健医療、リハビリテーション、社会サービスの専門家やそれに関連した業務に携わる役人による貢献が期待される。特に地雷被害者らが多く居住する締約国の政府や関連団体は、地雷被害者を代表団に説教的に参加させる。