2.2.1 サイドイベント NSAワークショップ
NSAを巡る議論〜ナイロビサミットを契機に
目加田説子 JCBL運営委員
Text by Mekata Motoko
NSAと地雷の使用
ナイロビ会議では、本会議に並行して数多くの関連イベントが開かれた。その中でも私が特に注目していたのが、非国家主体(Non-State Actors=NSA)を巡るワークショップである。NSAと言われても、普段は聞きなれない言葉なのでぴんと来ないという方も少なくないだろう。そこで、NSA とは何か、地雷とNSAを巡る状況はどう変化しているのかについて、ナイロビ会議時における議論を交えながら報告してみたい。
そもそも、NSAとはどんな組織なのだろうか。NSAは一般的に「国家の管轄外で政治的目的を達成するために武装闘争している主体」と理解されている。具体的には、スリランカの「タミル・エーラム解放の虎(LTTE)」のように分離独立を求める武装集団や、ネパールの「ネパール共産党毛沢東主義派(通称マオイスト)」のように政治体制の変革を求める武装組織が含まれ、それらの総称としてNSAという言葉が用いられている。現在、世界で活発な活動を続けるNSAは約200で、その内60のNSAが21カ国で地雷を使用していると言われている。
地雷廃絶という目的のためには、こうしたNSAへの対応策が欠かせない。NSAが地雷を生産し使用し続けている以上、地雷廃絶の達成は不可能だからだ。紛争が激しい地域では、政府軍の地雷のみならずNSAが敷設する地雷によって多数の民間人が被害に遭っている。その結果、被害者の支援や開発への道のりは閉ざされたまま放置され続けている。国内のNSAが地雷を使っていることを理由に、対人地雷禁止条約(以下、オタワ条約)への参加を拒み続ける政府も多く、結果として条約の普遍化も進まない要因にもなっている。
オタワ条約とNSAを巡る議論は、1997年にオスロで行われた条約交渉にさかのぼる。条約にNSAに関する条項を含めるべきか否かで議論が紛糾したが、最終的にオタワ条約にはNSAに関する条項は一切盛り込まれなかった。多くの政府がNSAを巡る議論に必ずしも積極的ではなかったことに加え、地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)内にもこの問題を推し進めることに対する慎重論が根強かった。
だがその後、ICBL内でも次第にNSA問題をめぐる議論が深まっていった。1999年にモザンビークのマプトで開催された第一回締約国会議の時、ICBLは地雷除去や被害者支援などに加えて、NSAに関するワーキンググループを正式に発足させた。それ以来、NSAワーキンググループは締約国会議のたびにワークショップを開催している。NSAを抱える国へミッションを派遣し、政府とNSAの双方に地雷禁止を説得する活動(JCBLニュースレター03年27号の拙稿を参照)にも乗り出している。
和平プロセスに地雷問題を位置付ける
このように、NSAをめぐる対策が徐々にではあるが進んできた状況のもとで、ナイロビ会議が開催された。NSA問題の目玉は、ナイロビ会議が正式に始まる直前の11月26日に開かれた「NSA、和平プロセス、人間の安全保障と地雷禁止キャンペーン」と題したワークショップだった。出席した60人近いNGOや研究機関関係者の多くが現場でNSAと交渉した経験を持つだけに、切実な現実や経験を語り合う場となった。
議論の中身は多岐にわたったが、私の目から見て重要に思えたのは、第一に、世界各地で起きているNSAが関わる紛争への国際的関心の低さである。
自国内で紛争を抱える政府は、国際社会からの介入を歓迎しないことが多い。本来的に腰の重い紛争地の政府を動かし、地雷対策も含めてNSAと対話の道を開いていくためには、国際社会からの説得、圧力が必要だ。しかしながら現実には、国際社会が関心を示す紛争はごく限られたもので、多くの紛争はほとんど無視されているのが現実だ。
この点を的確に指摘したのが、ケニアの「アフリカ平和フォーラム」のオデラ博士だった。スーダンの和平交渉に関わった経験からオデラ博士は、「国際世論の紛争そのものに対する無知、無理解が先ず問題だ」と強調した。なぜか――それは、「NSAと交渉する際、政府は常に慎重さを求めるが、その慎重な姿勢こそが緊急な対応が求められる地雷や小型武器の解決策実施の妨げとなっている」からに他ならない。この議論を聞きながら、国際社会が紛争解決への関心を強め、和平、地雷問題への対応を進めていくことの重要性を改めて痛感させられた。
会場で耳目を集めた第二の問題点は、NSAを非合法化する動きが広まっていることだ。ジュネーブを拠点に和平交渉を進めている「人道的対話センター」のペトラセック博士は、「9.11以降米国が推し進めている「対テロ戦争」の結果、NSAはテロリストであり、拠って非合法化するべきだとの見方が強まってきている。その結果、NSAを対話に関わらせることが益々困難になってきている」と指摘した。この点については、ザンビアのNGOも、多くの場合に政府は「NSAとの対話イコールNSAの合法化と単純化して考えるため、NSAを攻撃することを優先させている」と、NSAとの交渉そのものを拒む政府の対応を批判した。
第三に、地雷問題をより広い「和平プロセス」の中で位置付けるべきだとの主張が広がっていることが印象深かった。例えば、英国の「ランドマイン・アクション」とノルウェーのFafo研究所は、地雷対策活動の五つの柱である@地雷回避教育、A人道的除去、B備蓄地雷の破壊、C被害者支援、Dアドボカシー(政策提言)のそれぞれが、どのように「和平プロセス」に貢献するのかについて、ボスニア・ヘルツェゴビナ、スーダン、スリランカを対象に調査した。その結果、「地雷対策活動は、包括的和平合意の実現以前から実施可能かつ効果的である。地雷対策活動はまた、戦争から平和への移行過程そのものを促す効果も秘めている」と結論付けている。ノルウェーの「国際平和研究所」が行った調査でも、スリランカ、スーダン、アフガニスタンにおいて地雷除去や被害者支援を推進していったことにより、政府とNSA双方の信頼醸成が進んだことが明らかになっている。
ここで挙げたいずれの点も、国際情勢に大きく左右される問題で、単体のNGOが関わることの限界もある。しかし、すでに具体的成果を生み出している例もあるので、最後にそのNGO――ICBLの関係者によって2000年3月に設立された「ジュネーブ・コール」――の活動を紹介しておきたい。
ジュネーブ・コール
NSAは、主権国家の政府ではないため、オタワ条約に加盟することはできない。このため、ジュネーブ・コールは独自に「対人地雷の全面禁止及び地雷除去・地雷回避教育等に関する合意文書」を作成し、NSAがこの文書に署名することによって地雷対策の実施を確約するよう説得活動を続けている。この合意文書への署名は、ジュネーブ州の州政府が後見人のような立場で確認することになっている。これまで、スーダンのNSAである人民解放運動やフィリピンのモロ解放戦線、イラク国内の二つのクルド人勢力等、26のNSAが合意文書に署名している。アンゴラやビルマ、コロンビア、インド、ネパール、西サハラなどにおいて、現在も交渉が継続中である。また、上記の合意文書に署名した複数のNSAは、今回のサミットに際し「ナイロビ宣言」を発表し、改めて地雷の全面禁止に取組む決意を表明した。
NSAとの交渉は息の長い試みである。国際情勢に左右される厳しい取り組みでもある。だがそれでも、NSAをも巻き込んだ地雷対策を実施していかない限り、地雷問題の根本的解決には近づいて行けない。ナイロビでそのことを深く胸に刻んで帰ってきた。