18 新しい米国の地雷政策 「オタワ条約への挑戦」
百瀬和元 ジャーナリスト
JCBL会報29号(2004年4月)より
米国政府の新しい通信政策が2月末に発表された。その骨子は対人、対車両のすべての地雷を対象に @一定時間が経過したら自爆して危険がなくなる工夫などを施した、いわゆる「スマート」地雷に切り換える。 A内部に一定量の金属を内臓させて金属探知機で探知できるようにするーーーというものだ。こうした地雷の改造を地球規模で徹底させて、世界各地で起きている地雷の惨禍を防ごうと唱え、「軍事能力をそぐことになる対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)には加わらない」とも明言している。対人、対車両の区別なく地雷を包括的にとらえて規制するアプローチも含め、オタワ条約に対して正面から挑戦する内容だといってもよい。
米国の新しい地雷政策の概要(米国務省発表文書などから)
1)
地雷の自己破壊、自己不活性化技術の開発を進めて、2010年以降は「持続性のある地雷」(自己破壊、自己不活性化装置のない地雷)はいっさい使わない。
現在、米国は「持続性のある対人地雷」を韓国の防衛目的のためにのみ保有しており、2010年までは朝鮮半島でこの地雷を使用する。この期間中、朝鮮以外での「持続性のある対車両地雷」の使用は、大統領の許可を得て使う。また、韓国の防衛に必要ではない「持続性のある地雷」の破壊を2年以内に始める。
注:新政策では、いったん埋めたら半永久的に機能する従来型の地雷を「持続性のある地雷」(persistent landmines)と呼んでいる。これまでのように、従来型が「dumb landmine」、自己破壊装置つきが「smart landmines」というような表現をとっていない。
米国政府の説明では、「持続性のある地雷」は朝鮮半島で対人、対車両の両方を利用しているが、ほかの地域では対車両地雷しか使っていないという。
2)すべての地雷について、探知できるようにする。特定通常兵器条約の議定書では、対人地雷には探知できるように8グラム以上の鉄、これ相当の金属を内臓させることが規定されている。米国はこの規定を対車両にも広げて、すべての地雷が探知できるようにする。
注)特定通常兵器条約=CCW条約の議定書II第4条で、探知不可能な対人地雷の使用は禁止されている。その技術的基準として、8グラム以上の鉄または金属の内臓が義務づけられているが、対車両地雷は対象外となっている。
3)「持続性のある地雷」の売却や輸出などを地球規模で禁止するように働きかける。すでに米国が国内法によって禁止している対人地雷の輸出(移転)は現状のまま禁止される。
注:CCW議定書IIでは、航空機やロケットなどで遠隔散布される対人地雷には自己破壊、自己不活性化の装置が義務づけられている。こうした規定に反する地雷の移転も禁止されている。しかし、遠隔散布ではない対人地雷については、自己破壊装置などが義務づけられず、探知のための8グラムだけだった。
4)現在の地雷に代わる代替物の開発に努力する。自己破壊、自己不活性化技術の強化や「オン・オフ操作」によって地雷を機能させたり機能させなかったりできるような「管理システム」などの導入をめざす。
5)人道的な地雷対策費を2003年度に比較して50%増やし、年間7000万ドルにするように議会に要請する。
新地雷政策をどう読むか
米国の新政策の基本的な考えは「地雷は軍事的に正当かつ有効な兵器である。地雷が深刻な人道問題を引き起こしているのは、その無差別な使用方法にある」という点にある。90年代初めごろに国際社会で地雷の問題が浮上してから、地雷の使用を正当化してきた国々の論理がそのまま変わることなく貫かれている。
また地雷の問題は「いったん埋められたら半永久的に危険な状態で残る、その「持続性」という特性にある」という認識に立っている。そこで自己破壊、自己不活性化などの工夫を施した「スマート地雷」に切り換えることで解決しようと考えている。この発想もまた、従来の米国がとってきた発想といえる。
新しい点として注目すべきなのは「地雷という兵器は対人、対車両を問わず双方が人道的な問題を引き起こしている。オタワ条約が対象としている対人地雷だけが問題なのではない。双方を包括的にとらえた対策が必要である」という立場だろう。
この認識は、地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)が活動を始めた90年代初めごろから地雷の問題を考える人たちの間に幅広く存在していた。だが、地雷が軍事上担っている役割から見て、対車両の禁止まで唱えるのは非現実的という判断から、論議はもっぱら対人地雷に絞って進められてきた。その流れの中でオタワ条約が生まれたが、米国の新政策はその「積み残し部分」を指摘する形で、この条約に挑む皮肉な展開で登場してきた。
97年にオタワ条約がまとまったとき。当時の米国・クリントン政権は「対人地雷は朝鮮半島の防衛に必要であり、その全面禁止を義務づけるオタワ条約に加わるわけにはいかない」と判断した。かわりに、「2006年までに対人地雷に代わる代替物を考案して条約に加わることをめざす」と約束した。しかし、代替物の開発は難しく結局、今回の新政策発表に至ったのだろう。
一見すれば、「力の政策」をかたくなに進めるブッシュ政権らしい政策とも見える。しかし、実際は自己破壊、自己不活性化などの方策を講じて解決策を見つけだそうというクリントン政権時代からの模索の延長戦上にあるといえそうだ。政権の性格の問題というよりも、むしろ米国軍部としての判断が一貫しているというべきかも知れない。
新政策発表にあたって、米国政府は @さまざまな状態下で6万7千個の地雷を試験したが、埋設から4時間〜15日後に自己破壊するその確実性は、国連の人道的地雷除去の基準である99.6%の確実性よりも高い Aさらに90日間で完全に消耗する電池による自己不活性化機能が加わるーーーと「スマート地雷」への信頼性が十分であることを強調している。
今年11月末からナイロビで開くオタワ条約の見直し会議を中心に、地雷禁止運動の間でも「対車両地雷の問題」への関心が高まっている。新政策はこの動きを先取りした形にもなっている。「対車両地雷に触れていないオタワ条約よりも進んだ地雷問題へのアプローチ」という主張もすでに現われており、オタワ条約や禁止運動は新しい試練にさらされることになった。
(百瀬氏の追記、 2004年4月7日付け)
JCBL会報に米国の地雷政策について原稿を出させていただきましたが、「一部わかりにくい」とご指摘をいただきました。
たしかに原稿もわかりにくかったと思っていましたが、米国の地雷配備の実態もよく分からないですね。米国の広報資料、過日のセミナーでの説明文、記者会見の記録ななどを読んでみると、
● 2010年までは「持続性のある対人地雷」いわゆる「馬鹿な対人地雷」(dumb mine)を「韓国防衛の目的」として保有する。
米軍の貯蔵する「持続性のある対人地雷」は現在、韓国防衛用のものだけで、2010年までは韓国防衛のためには使う
(現在埋めてあるものもあるのでしょう。韓国軍の地雷か米軍の地雷か、その識別がどの程度あるのか、これもはっきりしません。ともかく、地球上のどこにあっても「韓国防衛用」ならいいのでしょう)。
● 2年以内に不必要なものの破壊を始める。
● 地雷対策費の増額
が骨子だと思います。
考えを変えていえば、
1)朝鮮半島では2010年までは対人、対車両ともに「持続性のある地雷」を使い続ける。
2)それ以外の地域では「持続性のある対人地雷」は使わない。また「持続性のある対車両」は特別の場合にのみ使う。
3)2010年以降は持続性のある地雷はすべてやめて、利口な地雷にかえる。
ということのようですが、さて、そこまではっきりいっていないのはどういうことか。説明の仕方がまずいという理由だけではないような気がするのですが、どうなのでしょう。
以上