通貨取引税(CTT)と発展のための資金

  2回世界社会フォーラムにおけるATTAC・フランスのセミナーの報告[i]

ブルノー・ジュダン[ii] (ATTAC フランス)

2002年2月23日

 もくじ:
  1日目
  2日目
  3日目
  結論
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3日間のセミナー

このセミナーは2002年2月1、3、4日に、それぞれ半日ずつ開催され、ラテンアメリカの聴衆にヨーロッパと北アメリカにおける通貨取引税(CTT)、いわゆる「トービン税」についての議論の現状を伝える機会となった。またヨーロッパと北アメリカの活動家たちがラテンアメリカに人たちの直面している問題や関心事について理解を深めることができ、それによって共通のプロジェクトの明確化において前進することができた。

 


1日目:最近の研究と論争

  1日目は、CTTの主要な原理と、最近の数年間に当初のジェームズ・トービンの提案を現在のグローバル金融という環境に適合させるために行われてきた議論についての学習にあてられた。始めに米国の経済・政策研究センター(CEPR、米国におけるATTACの協力団体の1つ)のマーク・ウェイスブロート(Mark Weisbrot)[1]が概略的な研究発表を行い、討論の中では以下の問題が提起された。

 

1.投機のレベルに応じた可変的な税率を考える必要性。例えば南米南部共同市場(ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ)は、かつての欧州通貨システムのような地域通貨圏を形成できるだろう - それは可変的な税率の適用によって、投機から自己を防衛するだろう。為替市場では、この4カ国の通貨レートは主要通貨(ドル、ユーロ、円)に対して日々変動している。そこで、例えば基準レートあるいは標準レートを定義するために、過去3カ月間の為替市場におけるこれらの諸国の通貨の平均為替レートを計算することができる。各通貨の日々の為替レートが、この基準レートから±5%(ないし10%、もしくはそれ以上)の範囲内で変動している限りは、低い税率(例えば0.1%)を適応する。もしこれらの通貨のうちの1つで為替レートが±5%の範囲を超えて変動した時は、極端に高い税率を適応することによって、為替取引の封鎖と為替レートの許容範囲内への復帰をはかる。ドイツの経済学者P. B. Spahnによって定式化されたこの提案[2] は、CTTを導入して通貨を投機から防衛することを決定した国家間グループ(ヨーロッパ共同体あるいはアジア諸国など)によって実施されることも可能である。

 

2.この提案がもし実施されていたなら、アルゼンチンが現在経験しているような財政危機は回避されただろう。この危機は、自由貿易、海外投資家への市場開放、自由化そしてIMFが現地の政府との合意の下で強制している構造調整政策といったような多くの構造的要因に依るものだ。しかしながら、危機の大きな要因の1つは、アルゼンチン・ペソが1991年以来アメリカ・ドルに固定されてきたことにある。これによってアルゼンチンにおけるビジネス活動は存立不可能な状態に置かれ、その結果現在の危機に到った。もし可変税率のCTTによって投機から防衛された通貨ゾーンが存在していたなら、ドル化という破局的な誤りは回避できただろう。そうすればペソの為替レートは、長期的にはドル・円・ユーロの変動に従い、短期的な変動は縮小されていただろう。

 

 この議論は、これらの案について討論する機会を提供した。アルゼンチンの出席者の多くは懐疑的であったが、その理由は理解できる。彼ら/彼女らにとっては、CTTが提起されれるのが遅すぎたのである。経済的・社会的破局はすでに起きてしまった。この切迫した状況は、危機から回復するための提案を必要としている。これはあらゆる国際的な提案が直面する困難の 1 つである。各国ごとに経済的・社会的状態が異なり、変化の速度も異なっている。しかし、アルゼンチン経済が現在の荒廃から抜け出して再建されなければならない時が来るだろう。もし歴史が悲劇的に繰り返されるのを防ごうとするのなら、国家の金融回路を掌握し、通貨主権を回復しなければならない。

 


2日目:実際の導入の方法をめぐって

  2日目は、一連の提唱国グループが実際にCTTを導入する可能性についての議論にあてられた。どの機関が税を徴収し、歳入を再配分するのか?

英国のWar on Want[3]のスティーブ・チベット(Steve Tibett)と、フィンランドのNGLS Heikki Pätomakki がこの問題についての意見を発表した。

 

 スティーブ・チベット(stibett@waronwant.org)CTTの管理に責任を負う国際機関によって採用されるべき目的と原理を提示した。この基準によって、既存の特定の国際機関がCTTを管理する機関として適切かどうかを判断することが可能となる。目的に関して言うと、この機関は徴税の実施と紛争解決を可能にする国際条約の枠組の中で、各国で税を徴収し、それを国際的に集中し、再配分できる必要があるだろう。透明性と民主主義と説明責任 - これらはこの機関の活動のための、そして歳入が他の目的に転用されないことを保証するための三大原則である。War on Wantによる研究の結論として、この基準に照らすと既存の国際金融機関でこの基準を満たすものはない。したがって、下記の3つの基本的な部分から成る新しい機関を作り出す必要がある。1)  評議会:国家の代表あら成り、徴税に関する基本的な法令を定め、この税の国内的・国際的な使途についての計画の策定に責任を負う。2)選挙で選ばれた専門家による機関:これらの基本的な法令の実施に責任を負い、税収の使途についてNGO・労働組合・地域住民団体・国家そして国際機関によって提出されたプロジェクトを検討する。3)監査に責任を負う機関:国家や一般市民に対する説明責任を果たす。この機関は国連と連携するが、従属はしないだろう。

 

  Heikki Patömakki (user@nigd.u-net.com)は、EUまたは他の国家グループがCTTを実施する(まず地域ベースで導入し、徐々に全世界的に拡大する)ために採用できる包括的な法律案を提案した。この法律案によると、歳入の一部は徴税を行なった諸国に留保される(金持ち国も含めて)。歳入の約80%は途上国に渡される。税の管理に責任を負う機関は、国家の代表者によって構成される評議会(欧州評議会がモデル)と、民主的議会(欧州議会をモデルとするが、より強い権限を持つ)によって構成される。実際、評議会はこの機関の税収額に基づいて予算を作成し、資金の使途を提案する。民主的議会がこれを修正および採択する権限を持つ。この議会は国会議員、NGO、労働組合によって構成される。Heikki Patömakkiは、この両方の機関について、国の大きさに比例して議決権を割り当てることを提案している。たとえば、ブラジルのような大きい国は3票、アルゼンチンのような中規模の国は2票、パラグアイは1票というようにである。全ての国がこの機関に加盟できる(民主的な国であるかどうかは問わない)。規則によって、「南」の諸国が絶対多数を有するように保証する。「市民社会」の代表については、一定の基準(架空団体や宗派を除外するために基準を設けることは必要である)を満たす団体の中から抽選で選ぶ(これがもっとも恣意的でない方法だろう)。国連との間には、国連が改革を受け入れて、大国の影響力 - とくにこの税を拒否する米国のような国のそれ - が不当に大きくならないようにする限りにおいて、協力関係が確立されるだろう。

 これらの提案をめぐって、民主的なルールに関する多くの議論が行われた - 発展途上国の代表権、NGOからの選出の方法、金持ち国が歳入の一部を留保する可能性、資金を提供されるプログラムの定義等についてである。これらの問題について、一致した結論には到らなかった。合意に到るかどうかはわからないが、議論は継続されなければならないだろう。本当に重要なのは、どのようなタイプの機関が歳入の民主的な配分を保証できるかについて、集団的な思考を開始することだ。

 


3日目:どのように活用できるか

 3日目は、歳入の使途についての議論にあてられた。当然にも、前日に議論されたいくつかの点が再び取り上げられた。議論の導入として、ATTACフランスの科学委員会のメンバーであるブルノー・ジュダン(Bruno Jetin[4]が研究発表を行った。彼の発表の目的は、この税が発展のための資金としてどのように貢献できるかを示すことにあった。

 

前提:4つの原則

 

 始めに、いくつかの原則を確立しておく必要がある。

 

1) CTTやその他の世界規模での課税(二酸化炭素排出税、環境税など)は、先進国がGNP0.7%を政府開発援助に割り当てるという義務を相殺するものであってはならない。政府開発援助は発展のための資金提供の主要な財源でなければならない。なぜなら、それは金融取引量の変動に依存しない、安定した資金供給を保証する唯一の手段だからである(この点でCTTとは異なる)。

 

2) CTTとその他の世界規模での課税は、国内によける法人所得税・金融/証券税・個人所得税の減税という新自由主義原理主義者たちの執拗な願望を満たすものであってはならない。世界規模の課税によって国家の減税を埋め合わせることが目的なのではない。今や国家の財政収入は、先進国ではGNP26%、中進国ではGNP19%、最貧国ではGNPの9%にすぎない。アルゼンチン政府が国内大企業や多国籍企業に対して、あるいは資産をマイアミに投資する国内の中産階級に対して課税できない(そのための政治的意志がない)ことこそがアルゼンチンの財政破綻の主要な要因である。

 

3) 発展途上国の債務は、ごく単純に、全面的に帳消しされなければならない。そうすることで、途上国は現在先進国に送金している年3000億ドルを支払う必要がなくなる[5]

 

4) 収入の格差とジェンダーの不平等を縮小するため、社会的支出は最貧層の利益となるものでなければならない。ネパールでは、男性の41%は読み書きができるが、女性ではそれは14%でしかない。一方、就学したことがない女児・女性の割合は、上位20%の最富裕層では54%であるのに対し、下位20%の最貧層では85%を占める。

 

結論) これらの条件が満たされなければ、CTTととその他の世界規模での課税による収入は、発展への資金供給源を増加させることはないし、社会的不平等とジェンダーの不平等を縮小させることもないだろう。

 

 上記の前提の上で、発展のための資金の可能な供給源と発展のための費用を算出し、その中でCTTが果たす役割を検討してみよう。

 

(1) 発展のための資金の可能な供給源

 

a) もし22の金持ち国がGNP0.7%を政府開発援助に充てるのならば、これは現在の水準である540億ドルから1560億ドルへ増加するであろう。すなわち、およそ1000億ドルが利用可能になろう。

 

b) 私の計算によると、2001年に1日の為替取引額は1兆2000億ドルであり、これに対して0.1%のCTTを課税すると、年間に1660億ドルが得られる。ここでは、課税前の取引コストが取引金額0.1%、「コスト弾力性」が0.5であると想定している(つまり0.1%の課税によって取引コストは2倍になり、その結果、取引量が50%減少する)。政府間取引に対する控除を考慮し、また、不正な課税回避の割合を50%と想定している。こうして意図的に控えめな仮定を用いている。したがって、平均収入を1000億ドルとして計算を進めても差し支えないだろう。

 

c) 国連が「開発のための金融」に関する政府間協議(モントレー・サミット)に向けて発表した発行した専門的報告書によると、二酸化炭素排出税による税収は1200億ドルになる。四捨五入して1000億ドルと見積もっておこう。

 

 これを合わせると、およそ3000億ドルが発展のための資金として利用できる。これを2000年9月に国連で各国政府首脳によって採択された「ミレニアム発展目標」(MDGs)の費用と比較してみよう。

 

(2) 発展のための費用

 

 利用可能な資金は、国際的な共益的プログラムと、国内発展プログラムのための資金として利用できる。

 

a) 国際的なプログラム

  これらは、国連が1999年以来、「グローバル公共財」と呼ぶようになった基本的な、人間的必要を満たすために必要な財に関連している。この新しい定義は、WTOの「サービス貿易一般協定」(GATS)とうまく整合しており、世界銀行によって取り上げられている。つまり、一定の「グローバル公共財」は多国籍企業が、(もちろん)最貧層にではなく、支払い能力のある人々に供給することができる。これらの基本的な、人間的必要を満たすために必要な財は、環境や自然資源、澄んだ空気、水、世界遺産の保護、流行病の予防と根絶、平和、人道上の危機が起こった際の国際的な連帯、そして(より一般的に言うと)国境を越えて世界のすべての人々に(肯定的または否定的な)影響を及ぼす全ての現象に関わっている。したがって、資本に対する規制は - それが国際的な影響を伴う金融危機を防止するという意味において - こうした基本的な財の一部を成すと主張することができる。国連によると、政府開発援助の約15%、すなわち50億ドルが現在「グローバル公共財」に充てられている。健康と環境のためだけでも、少なくとも200億ドルの支出が必要だが、それは政府開発援助によっては調達できない。緊急の人道上の援助が、毎年100億ドル必要だが、実際に現在支出されているのは50億ドルである。

 したがって、これらの国際的なプログラムために必要な資金の合計は300億ドルとなる。

 

b) 国内的プログラム

 人間にとって最低限必要なものを充足するための費用を考える上で、UNDP(国連開発計画)とユニセフによる調査報告 - 基礎的な社会サービスをすべての人々が利用できるようにし、極貧層(1日の収入が1ドル未満である10億人の人々)を半減するための費用に関する調査 - を参照することができる。これらの2つの目標は2015年までに達成されるべき「ミレニアム発展目標」を構成しており、毎年800億ドルの資金が必要とされる。世界銀行の最近の研究によると、極貧層を半減するには毎年350億ドルかかる。貧困削減に伴って、当該の人々の基本的社会サービスへのアクセスが徐々に拡大することを想定して、世界銀行は2015年までにこれらの発展目標を達成するためにはさらに毎年540億ドルが必要であるとしている。

 この仮定を除いて、基礎的な社会サービスをすべての人々が利用できるようにするための費用として世界銀行が見積もった金額も約800億ドルになる。国内的プログラムへの資金として必要な金額としてはこの金額を用いることにしよう。

 

 合計すると、国際的および国内的プログラムへの資金として必要な金額は 200100800 1100億ドルとなる。一方、可能な歳入は3000億ドルである。

 


結論

 

 これらの数字からどのような結論が導かれるだろうか。

 先進国の政府開発援助をGNP0.7%に増やせば、それだけで「ミレニアム発展目標」の資金は充分に確保できる。それができない場合でも、為替取引税か二酸化炭素排出税を充てれば十分である。ここでは、極貧層を半減させ、基礎的な社会サービスをすべての人々が利用できるようにするという目標について述べているということを思い出していただきたい。

 つまり、もし3つの資金源のうち2つが確保されるなら(もちろん3つが全て確保されればもっと確実だが)、「ミレニアム発展目標」を大幅に超過達成することが可能である。極貧とそれほど極端ではない貧困(5ドルの日収があったとしても、非常に貧しいことには変わりはない)が完全に解消され、最低限ではなく充分な社会サービス(例えば、「ミレニアム発展目標」が対象としている読み書きができない成年のための基礎的な識字教育だけでなく、もっと本格的な教育)を提供できるようになるだろう。

 

 明らかに、発展は単なる資金の問題ではない。それは結局、人権や社会権の尊重という問題であり、国内における大衆運動によってのみ実現可能である。しかし、資金もやはり重要である。児童労働をなくすには、それに依存せざるをえないような家族に最低限の収入を保障しなければならない。親の健康と労働能力とが急速に減退している場合はなおさらである。次には学校を建設したり既存の学校の設備を整えることが必要であり、教員に賃金を支払わなければならない。

 

(3) CTTの役割

 

 では、通貨取引税(CTT)の歳入は何のために利用できるだろうか。

 

1) 政府開発援助が0.7%という目標に到達しない場合、CTTの歳入を「ミレニアム発展目標」の最貧層に関わる目標のために使うことができる。これは、当該の人々がその目標の決定と実施に対して発言権を有することが前提となる。

 

2) 政府開発援助が0.7%まで増加した場合、CTTの歳入は追加的なものとなり、社会や環境に関する追加的な支出に充てることができるだろう。では、その配分はどのように決定するのか。CTTの徴収と分配に責任を有する新たな国際機関のみがそれを決定できる。それはスティーブ・チベットが提案した基準に適合するだけでなく、その運営においても資金の分配においても、民主主義を最大限に重視しなければならない。各国への歳入の分配は、人口の規模に比例し、さらにUNDPの「人間開発指標」のような基準も加味し、この指標の改善を条件とするべきだろう(それによって、ジェンダーの不平等についても、より有効に対応できる)。要するに、「人間開発指標」が低い国ほど歳入の分配が大きくなるようにするという考え方である。また、環境や社会的問題の面での前進を考慮に入れた基準を設けることも必要だろう。不平等が縮小された国が、より多くの分配を受けるようにするのである。資金を受け取っていながら進歩がなかった国は、分配を減らされる。また、Heikki Patömakkiの提案について、評議会と民主的議会で「南」の諸国の代表が絶対多数の議決権を持つべきであるという点については全体的な一致が見られたようだが、政府の性格に関わりなく全ての国がこの機関に加盟できるという提案については意見が分かれる。民主主義の実現は、歳入が最終的に社会的目的やエコロジーに関する目的のために使われることを保障する唯一の道である。したがって、各国において、この資金の具体的な使途を、「参加型予算」[6]モデルに沿って、住民投票によって決定することも可能である。優先順位の決定にあたって、政党や選出された代表も一定の役割を果たすことができる。例えば、「第2回世界社会フォーラム」の開催中に、武器売買の禁止によって生み出される財源の配分について、6つの可能な選択肢から選ぶ模擬投票が行われた[7]。同じ方法をCTTの歳入についても採用できる。他の国では、別の方法を採用することもできる - その国の人々の好みや伝統に応じて適当な方法を見つければよい。各国に配分された資金は、国内の地域あるいは都市のレベルに配分され、そのレベルにおいて住民投票が行われるかも知れない。全国レベルの住民投票と地方レベルの住民投票のあらゆる組み合わせが考えられる。住民投票を実施する主体は国家でもよいし、CTTの徴収と再配分に責任を負う国際機関の代表機関でもよい。このモデルはポルトアレグレ市とリオ・グランデ・ド・スル州において実施されている「参加型予算」のアプローチを基にしたものであり、民主主義に決定的な役割を与えている。この観点から、私は、CTTの徴収と再配分に責任を有する国際機関は、国連の世界人権宣言とILO(国際労働機関)が定めた基本的労働条件を尊重する政府の代表によってのみ構成されるべきだと考える。これらの諸権利が本当に尊重されているかどうかは、国際人権連盟(ILHR)、アムネスティー・インターナショナル、国境なき記者団(RSF)などの団体や、国連人権委員会の報告に基づいて評価できる。それ例外の方法では、CTTの資金が有効に活用されるために不可欠の民主的ルールを為政者がどの程度尊重しているかを判断するのはむずかしい。最後の手段として、ある国の国際機関への参加/不参加は、その国の労働組合代表や独立的なNGOの意見に基づいて決めることもできる。上記の条件が満たされない場合、この資金が当該の人々に届くことを保証するために必要な最低限の民主主義が尊重されていない国に割り当てられる資金は、予備基金として積み立てられる。この資金は、最低限の民主主義が尊重されたときにただちに分配される。

 

 この構想は、財源の再配分において民主主義を問題の中心に位置づけようというものであり、もっとも空想的なアプローチかもしれない。しかしこれは議論の中で提起された問題を考慮に入れた唯一の構想である。実際には優先事項と概念は北と南では異なる(例えばエコロジーに関して)。国際機関からの資金を受けた社会政策の内容は、多くの場合、当該の人々に相談することなく決定され、「上から」押し付けられる。アルゼンチンの北部から来た参加者は、世界銀行がアフリカの若者向けに立案した教育プログラムをアルゼンチンの彼女の地域に押し付けたことを話した。ブラジル人の発言者は、地方政治においてはポピュリズムが重要な問題であることを指摘した。資金の適切な配分と利用は幻想だと言うのである。最後に、ポルトアレグレ市の公共事業計画の携わっている人が、世界銀行が融資を行う際に押し付けるコンディショナリティー(条件)のおかげで遭遇した困難について強調した。CTTによって得られる資金の場合でも、基準が厳しすぎて、現地で決定された優先事項と一致しないようになる危険はないのか。

 

 これらの問題の全てに対する決定的な答はない。起こりうるあらゆる問題に対する解決策をあらかじめ予想することはできない。ましてや私たちはまだ想像したこともない問題を扱っているのである。しかし、ものごとの状態を変えようとする時はいつでもそうではないのか。CTT、あるいは他の何かの提案が必ず成功すると保証することは可能なことだろうか。開発援助に関する過去の失敗の経験は、少なくとも何をすべきでないのかを教えているという点で有益である。しかも、CTTが日の目を見るのは、新自由主義に対する政治的勝利と、それに伴う民主主義の拡大の後のことだろう。だからこそ、地域における優先順位の決定や、エコロジー、教育、健康などに関わる政策の内容は、現在よりもはるかに好ましい条件の下で再考され解決されるだろう。

 

 以上述べてきたように、CTTと発展のための資金に関するセミナーは、最終的な結論には到達しなかった。しかし、今後豊かな討論が継続されることを可能にしたという価値はあった。

[翻訳:小堀聡/喜多幡佳秀]

 

原題:"Currency Transaction Taxation and Financing Development" - Report on the seminar organised by ATTAC France at the Second World Social Forum at Porto Alegre

著者:Bruno Jetin, ATTAC France.

http://attac.org/fra/cons/doc/doc14en.htm



[1] Mark Weisbrotの多数のレポートが下記からアクセスできる

http://www.cepr.net/columns/weisbrot/

CEPRのウェブはhttp://www.cepr.net/index.html

[2]  Paul Bernd Spahn "Stabilizing Exchange Rates with a Tobin-cum-Circuit-Breaker Tax"

日本語訳:「為替変動時加算税付きトービン税による為替レートの安定化」、ATTAC-Japanのウェブに掲載

[3] 「貧困に対する戦争」、英国でトービン税導入のためのキャンペーンを行っている。http://www.waronwant.org/

[4] 本稿の筆者である。文末注を参照

[5] CADTM(「第三世界の債務帳消しのための委員会」)の第2回世界社会フォーラムへの提言を参照されたい。http://www.forumsocialmundial.org.br/eng/tpropostas_toussant_eng.asp(英語)

[6] 世界社会フォーラムが開催されているポルト・アレグレ市で1990年代の初めから実施されている予算作成のプロセス。

[7] 以下の選択肢が提示された:飢餓の克服、戦争被害者の救済、尊厳ある方法でのAIDS患者の看護、非識字の克服、最悪形態の児童労働の廃止、兵器産業の業種転換。他の選択肢を示すことも可能だろう。優先順位を決めるために、それぞれの選択肢に以下の基準に従って点数が配分された:第1の選択=3点、第2の選択=2点、第3の選択=1点。



[i] これは個人的な報告であり、ディスカッションの後にグループで執筆されたものではない。よってここで表明される見解は筆者個人のものであり、必ずしもATTACや言及された方々のものではない。読者は彼らに直接に質問することができる(本文中にアドレスを示している)。本稿の誤りや脱漏の責任は筆者のみに帰せられる。

[ii] 北パリ大学の経済学者、トービン税についての論考が下記のwebに掲載されている(英語)http://attac.org/fra/list/doc/jetinen.htm

http://www.attac.org/fra/list/doc/jetin2.htm