第8号  2004年7月1日

 

KPFKという地元ラジオ局

 ロサンゼルスへ来てから3か月が経ちました。

 ダウンタウン・レイバーセンターを拠点に、全米で100万人を超える組合員をかかえる大組合から、コミュニティーを基礎とする100名規模の労働者センターまで、いろいろなタイプの組織を訪ねています。最近になってようやく、それらの組織で活動する一人ひとりの顔が見えるようになってきました。少し余裕が出てきたのかもしれません。ビデオを持ち出して撮影する機会も増えてきました。帰国後は撮りためたテープを編集して、私がロサンゼルスで出会った一人ひとりの「顔」をみなさんにぜひ観てもらいたいと思っています。

 ダウンタウン・レイバーセンターを訪ねる人が、受付で最初に顔を合わすスタッフがいます。センターのマネージメントを担当するメキシコ系アメリカ人のホセ・トーレス(28歳)です。ロサンゼルス到着初日、銀行口座の開設から日常品の買い出しまで彼に助けられました。彼がいなければセンターの運営は成り立たないと言っても過言ではないのですが、ホセはこの6月末でセンターを辞めて、学業に専念することになりました。彼の専門は鍼灸です。UCLAで中国文学を専攻した彼は卒業後、中国の北京で英語の教師をしながら1年間滞在し、そこで鍼灸と出会いました。帰国後、ロサンゼルスの鍼灸学校で学び、今年7月以降はインターンとして専念するそうです。

 中国文学を専攻していた彼がどうしてレイバーセンターのスタッフになったのか、と疑問に思われる方がいるでしょう。私も疑問に思って聞いたところ、UCLAで副専攻として労働を選択したときに、現在センターで一緒に働くスタッフが講師だったそうです。レイバーセンターのスタッフは大学の授業に労働運動の「現場」を持ち込んで、魅力ある授業を行っています。私は実際、大学1年生の授業を観て実感しました。

 ホセはここロサンゼルスのダウンタウンで生まれ育ちました。センター周辺のおいしいお店や取材先への行き方など、彼に尋ねればたいていはわかります。また彼は今どきの若者らしく、インターネットやビデオなどのメディアに関心が強く、映像制作をしている私は、彼から聞くコミュニティのメディア情報に刺激を受けています。

 先日もホセの紹介で「エコパーク・フィルムセンター」を訪ねました。「エコパーク」は人種を問わす労働者が暮らすエリアです。そこに2年前、コミュニティーに暮らす人々を対象にセンターができました。私たちが訪ねることをホセがあらかじめ電話で連絡してくれたので、到着するとすぐにディレクターのパウロさんが出迎えてくれました。センターの中はお世辞にもきれいでゆったりしているとは言えませんが、長方形の部屋の前方にスクリーン、中央には20席ほどが並べられ、後方に編集室、部屋の周りにはチラシやビデオテープなどがびっしりと置かれています。センターの主な活動は自主上映会と、10代、高齢者、そして成人向けのビデオ制作のためのトレーニング・コースの運営です。トレーニング・コースは成人コースが5ドルで、それ以外は無料です。

 この日は夜8時からの上映会で、それまでにはまだ時間が早かったので地元の人はだれも来ていなかったのですが、センターにいると「わさわさ」とした人々の雰囲気を感じました。20席しかない部屋の狭さは、初めて訪ねた人もすぐにうち解ける人との距離を保っています。実際、この日の上映会後、私は参加者の数人とおしゃべりをして、楽しい時間を過ごしました。

 この日の自主上映会は、「KPFK」という地元ラジオ局の愛好家たちがフィルムを観て、平和や政治などについて語り合うという趣旨で始まったようです。実は私もこの「KPFK」の大ファンで、毎朝欠かさず聴いています。このラジオ局のことを語り出したら切りがないのですが、ちょっとだけ紹介します。

 その歴史は1949年のバークレーでのスタートにまでさかのぼり、その後ロサンゼルスやニューヨーク、ヒューストン、ワシントンに拡がりました。ラジオ局の名前はそれぞれ違いますが、総称して「Pacifica Radio」と呼ばれています。創設者は、第2次世界大戦時にジャーナリストとして活動していましたが、歪曲した戦争報道記事を書くことを強制され、それを拒否したために解雇になりました。その後、平和を求める市民のためのラジオ局を開局し、当時から賛同者の会費で運営しています。かつて白人至上主義団体「KKK」から2度も襲撃を受けるなど、命がけの報道を続けています。

 90年代、「Pacifica Radio」のニューヨークのラジオ局「WBAI」からカリスマ的なジャーナリストが生まれました。ラジオ番組「デモクラシー・ナウ」のパーソナリティーをつとめ、自ら最前線で取材をするエイミー・グッドマンという女性です。私が初めて彼女のことを知ったのは、「9.11」の直後の平和集会でスピーカーとして発言していた彼女を見たときです。彼女がステージに立つと集会に集まったニューヨーカーから圧倒的な支持を受けていたのを、今でも忘れることができません。そして、この4月、ロサンゼルスに彼女が講演に来るというので会場となった教会に足を運んでさらに驚きました。会場を埋めた2千人ほどの参加者が彼女の登壇に総立ちで迎えたのです。どうしてそんなに人気があるの? と疑問に思った方はぜひ、日本でも視聴できるインターネット・テレビ「デモクラシー・ナウ」(Democracynow.com)を見てください。

 ちょっとの紹介のつもりが、熱く、長くなってしまいました。ここまで読んでくださった方に感謝します。

青野恵美子

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 ここからは高須です。今回は連れ合いの青野に書いてもらいました。

 ロサンゼルスはここ1ヶ月くらい、毎日、朝が曇り、昼前くらいから青空が出てきて夕方まで青空、日が落ちると少しひんやりしてくる天気が続いています。雨が降らず毎日同じ天気というのも、日本のことを思い出すと不思議な感じです。湿度が低く気温も15度から25度くらいです。

[レイバーセンターの予算カット]
 レイバーセンターの予算カットについてはまだ結論が出ないまま推移しています。残念ながら4名のスタッフ(上記のホセを含む2名がダウンタウンレイバーセンター)が、6月末でセンターを離れ、それぞれの道を歩むことになりました。ダウンタウンレイバーセンターのラリー・フランクさんとビクター・ナローさんは、学生向けの「サーマーインターンシッププログラム」が8月まであるので、とりあえず、8月まで雇用がつながりましたが、その先は見えません。ケントたちは、財団の助成金を申請するなど対策に追われています。

[サマー・インターンシップ・プログラムとは]
 ところで「サマー・インターンシップ・プログラム」は学生向けのユニークなコースです。これは、学生たちが労働組合や労働関係のNGOで週15時間、6週間働き、毎週月曜日は1日、レイバーセンターで講義を聞いたり、1週間の取り組みを報告したり、議論したりする体験学習プログラム(こちらでは「サービス・ラーニング」と言います)です。


  レイバーセンターのサマーインターンシッププログラムでのワークショップ

 14名の参加者がいて、女性が10名です。アメリカでは労働運動の中で女性のほうが、元気がいいようです。3万人の学生の中で14名というのはわずかな数字かもしれませんが、まじめに労働組合のことを知りたいという学生がいるということは、日本と比べてすごいことです。今週月曜日がコースの1日目で、1日で傍聴しました。問題意識が鋭くて驚いています。毎週フォローしていこうと思っています。

[ホテルレストラン労組の協約改定交渉]
 HERE(ホテルレストラン労組)Local11のロサンゼルス市内の17ホテルとの労働協約改定交渉が4月から続いています(9ホテルはCouncilに加盟していて集団交渉、他の8ホテルは個別協約だが、Councilの締結した協約をそのまま受け入れる)。4月15日で協約期限が切れ、5月末まで暫定延長されましたが、それも切れ、現在無協約状態になっています。


  レイバーセンターのスタッフと学生たち HEREの抗議行動にて

 最大の争点は、協約期間で、組合は2年、経営は5年を主張しています。組合の2年というのは、北米各都市のホテルとの労働協約期限を2006年とし(すでに主要都市は勝ち取っている。今年交渉しているのはサンフランシスコ、ワシントンDCなど)、2006年の協約改定交渉を北米全体でキャンペーンを張って経営を追い込もうというものです。ホテル資本も地元資本から全国化、多国籍化しているため、ローカルユニオンレベルでの対応では、経営に押さえ込まれてしまうからです。当然、経営側はそのねらいをわかっているので強く反発しています。

 来週からホテル前での情宣ピケなどが始まります。経営側は従業員に脱退届を配布して、スト破りの代替要員の確保の準備を始めているそうです。どこか一つでもホテルでストライキが始まったら、すべての組織化されているホテルで、組合員をロックアウトする取り決めを経営側はしているそうです。ストライキに突入するのはもう少し先かも知れませんが、十分に突入可能性があります。ロサンゼルスをご旅行される方はご注意を!!!組合に支援を!

 昨年秋から冬は、公営バスのストやスーパーマーケットの長期ストライキがありました。組合が必ずしも勝っているとは言い切れない状況ですが、闘いは続いています。

[華氏9/11を見てきました]
 今日、ハリウッドで、マイケル・ムーアの「華氏9/11」を見てきました。平日の午前中のせいか、混んでいるのはとの予想に反し、がらがらでした。週末は長蛇の列だったようですが。メディアの扱いがすごくて、ディズニーの配給拒否以来何度も取り上げられていました。若い人が少なく40代、50代が多くて驚きました。

 内容は期待通りで、一見の価値があります。手法はいつものマイケル・ムーアのスタイルですが、ブッシュ一族がいかにオサマビンラディン一族やサウジアラビアとつきあいがあるか、ブッシュ政権の関係者がかかわる軍関係の企業が9/11以後いかに儲けたか、事前に知っていたとしか思えない9/11当日のブッシュの動きなどきちっと事実を追っています。4月の日本人人質事件までフォローされていて、よくカンヌ映画祭に間に合ったなと思いました。これを見てブッシュに投票する人がいたら、やはり確信犯ですね。最後は、ブッシュが「Shame on you!」と言って終わるのがなかなかです。

 7月4日が独立記念日でこちらは三連休になります。
来週は均等アクション21の女性たち5名がこちらにきて、UCLAで開催される夏期女性組合員研修会に参加されます。

 ではまた

高須裕彦

From: Hirohiko Takasu <h_takasu@jca.apc.org>
Date: Thu, 01 Jul 2004 23:20:34 -0700