第7号  2004年6月22日

 

東京労働安全センターの飯田さんがロサンゼルスへ

みなさん

お元気ですか? 

 こちらは変わらず元気です。6月も下旬を迎え、ロサンゼルス滞在も早いもので、3ヶ月がたとうとしています。こちらは、毎日、午前中は、日本の梅雨の時期のように、どんより曇っています(雨はまったく降りません)。ところが、午後になると晴れ上がり、青い空になります。気温はそれほど高くなくて、17度から25度くらい、湿度が低いので気持ちのいい毎日が続いています。

[反戦運動の報告]


  ロサンゼルスの反戦デモ

 6月5日に全米規模で、ANSWERなどの主催する反戦集会がありました。ロサンゼルスでも5千人規模の集会とデモがあり、参加してきました。ダウンタウンの南側の路上で短い出発集会をやり、ブロードウエイというロサンゼルスのメインストリートを北上、ダウンタウンの北側の官庁街の路上で、解散集会を長時間やりました。

 ケント・ウォンさんの息子のライアン君(高校生)も友達と一緒に参加。参加者の人種・民族・年齢・文化の多様さに驚きました。世界のすべての人たちが集まっているようです。韓国系の人たちが太鼓をたたき、それにあわせて、すぐ側でラテン系の人たちが、プラスチックのバケツを叩いて踊っているのですから。プラカード、旗、横断幕も色とりどりでした。イラク、アフガニスタン、イスラエル・パレスチナの占領と戦争を終わらせようというのがメインテーマでした。ただ、労働組合からの参加者は少なかったようで、目立っていたのは、教員組合でした。

 元気の良い反戦運動がある一方、6月6日にレーガン元大統領が死ぬとテレビは連日レーガン賛美の追悼番組ばかりです。いまだに連邦や州政府事務所の旗は半旗です。

 みなさんから、アメリカ人たちはイラク戦争についてどう考えているのか、という質問をよく受けますが、私の接する運動をやっている人たちは、ブッシュに反対で、戦争にも反対の人ばかりです。他方、全米で、戦争への賛否が半々、ブッシュとケリーも半々というのが世論調査の結果です。アメリカ社会は分裂しているのでしょう。ゲイレズビアンの結婚や権利、中絶の合法・非合法をめぐる闘い、人種差別と反人種差別の闘いを見ていると、運動の側も強いけれど、日本などとは比べようもないくらい草の根保守の運動(そしてキリスト教原理主義でもある)もまた根強く存在しているのでしょう。分裂するアメリカ社会を見ているようです。

[レイバーセンターの予算カットのその後]

 シュワルツネッカー知事(そういえばレーガンもカリフォルニアの知事だった)の予算カット問題の決着はまだついていません。7月1日へ向けて攻防戦が続いています。残念ながらレイバーセンターでは10名のスタッフのうち、自主的な申し出も含めて結局4名が6月末で去ることとなりました。ただ残る6名分の人件費が確保されるわけではなく、センターとしては財団などに申請を出して、ファンド確保に動いています。州予算カット問題は、在宅介護労働者の賃下げをはじめ、福祉・教育の広範囲にわたっているようで、深刻な問題です。もう少ししっかり調査する必要があるなあと思っているところです。

[東京労働安全センターの飯田さんがロサンゼルスへ]


  自宅近くのバス停で。飯田勝泰さんと青野

 さて、6月12日から20日まで、東京労働安全衛生センターの飯田勝泰さんがロサンゼルスに来られました。私のアパートに宿泊して、いっしょにロサンゼルスを歩き、毎日夜遅くまで飲みながら、アメリカと日本の労働運動について話をしました。ご本人の感想は、1週間ぐらいのうちに書いてもらうこととなっているので、できましたらこのメールで流します。結構過密なスケジュールでいろんなところをまわり、ケント・ウォンさんが、ロサンゼルスやロングビーチ(ロサンゼルス港)を案内してくれましたから、普段見られないところが見ることができました。少し集中的に動きましたので、詳しく報告します。

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 6月12日、ケント・ウォンさんと空港まで出迎えに行く。到着早々、ベニスビーチに行ってみようということになり、アメリカらしい、イベントばかりをやって騒々しいビーチの雰囲気を味わう。

 午後、ダウンタウンレイバーセンターで開催されたUNITE(縫製繊維産業労組)の組合員集会へ参加する。集会のテーマは7月に予定されているHERE(ホテルレストラン労組)との組織統合問題で、70-80名くらいの参加者。私たちは日本から来て組合活動家として紹介される。会場は、UNITEの組合の色である「赤」をつかった風船、横断幕などで飾られ、赤いTシャツが全員に配布され、開会までラテン音楽が流される。参加者のほとんどがラテン系の労働者。

 UNITE やHEREの全国大会のビデオを見せた後、副委員長で西部地区の責任者であるクリスチーナ・バスゲスさん(真っ赤のワンピースを着て。戸塚さんらの翻訳『アメリカ労働運動のニューボイス?立ち上がるマイノリィティー女性たち』とその紹介ビデオにも出てくる)が組織統合の意義を説明する。UNITEの組織する縫製繊維産業や洗濯産業とHEREの組織するホテル・レストラン産業は、制服やシーツ、タオルの製造し、それを利用し、洗濯するという関係にあり、産業的にもつながっている、西部地域のUNITEは組合員数も少ないが、HEREは多数の組合員を抱えているので、統合すれば支援を受けられる、西部地域の組合員の多くが同じラテン系やアジア系、組合の色も赤とHEREの青で似ている、などと説明していた。


  UNITEの組合員集会で報告するクリスチーナ・バスゲス

 発言はすべて、英語とスペイン語の完全なバイリンガル。最後に、7月の統合大会に送り出す代議員を紹介して、拍手で確認。その後はテーマ別のワークショップ。残念ながらスペイン語ばかりよくわからず。

 6月13日、この日はゆっくりロサンゼルス見物。ダウンタウン近くの左翼系の書店、オベラストリート、リトル東京をまわる。

 6月14日、バスゲスさん(UNITE)の案内で、「ラッキーブランド」というGパンの企画製造販売会社を見学し、団体交渉に出席した。訪問した事業所には250名の労働者がいるが、組合に組織されているのは倉庫で働く労働者66名だけ。倉庫にはGパンが相当高く積み上げられており、落下や崩落事故の危険性が高いのではないかと感じながら見て歩く。荷の上げ下ろしのときはテープを張って一定区画を立ち入り禁止にして作業するとのこと。腰痛が多いという。


  ラッキーブランドの団体交渉のあとで、UNITEと職場交渉委員と共に

 アメリカではじめて団体交渉に参加をするので、わくわくしながら臨む。6月末に2001年に締結した労働協約が切れるので、それに向けた改定交渉。争点は、賃上げ(現在の7ドル50セントを8ドルに要求、回答は7ドル75セント)、組合休暇(現在1年に1名1週間だけを4ヶ月に延長要求、会社側は3ヶ月回答。この日の交渉の結果、最終的には条件をつけて4ヶ月回答)、健康保険の改善など。期限切れが迫っていたが、比較的静かな交渉で、安定した労使関係のように見えた。

 会社側は、20代から40歳ぐらいの女性3名(みんなGパンやTシャツにサンダル履き。肩書きは人事部長、プラントマネージャー、福利厚生担当)、UNITEからはバスゲスさん(スーツを着て、きめているのでどっちが会社側なのかわからない雰囲気)と彼女のアシスタント、ビジネスエージェント(新規の組織化ではなく既存組織の面倒を見るオルグ)の女性3名、職場の交渉委員は男女2名ずつ。女性ばかり。こんな風に企業別の交渉をやるのかと、じっくり観察してきた。でも、やりかたは日本の地域労組の交渉と変わらないなと実感。しかし、フルタイムの現場労働者の賃金が7ドル50セントとは安い。バスゲスさんは、アリゾナ州とカリフォルニア州南部を担当していて、100くらいの職場の交渉に出ているそうだ。

 6月15日、UCLA-LOSH(労働安全衛生プログラム)を訪ねた。飯田さんから日本の安全衛生の状況と安全センターの取り組みを話し、UCLA-LOSHの取り組みを聞き、議論をする。午後はケント・ウォンさんのロサンゼルスツアーで、ビバリーヒルズ、ハリウッド、グリフィスパークを見て歩く。


  ビバリーヒルズの豪邸街

 6月16日、午前中、UCLA-LOSHの研修会を傍聴。午後はSoCalCOSHという南カリフォルニア労働安全衛生連合(日本の安全センターと同じような組織)との交流に参加。ここでも飯田さんが英語でプレゼンテイション。(これらについて詳しくは飯田さんから報告があると思うので詳しく書かない)

 6月17日、午前中、労働者センターのひとつKIWA(コリアン移民労働者支援組織)を訪ねた。すでに、私は何度も訪ねているので、主に日本の地域一般労組-コミュニティユニオンの状況を紹介して交流した。労働者センターの活動と地域ユニオンの活動がよく似ている点を相互に確認。ただ唯一、アメリカでは過半数を組織しないと団交権が発生しない点だけが違う。KIWAでも個別労働相談を行っているけれど、解決方法は、裁判や州の労働監督署への申し立てによっているようだ(この点は正確に調査してまた報告する)。


  KIWAの韓国領事館抗議・要請行動

 この日は、ちょうど、韓国系企業がメキシコから従業員を全員解雇して、違法にも予告手当ても払わず、撤退した事案についての韓国領事館申し入れ行動があって参加した。領事館前で記者会見をやって、プラカードを持って、シュプレヒコールをあげながらぐるぐる回るアメリカ式の抗議行動。飯田さんにとってははじめてのデモ参加。領事館側はただちにメキシコの韓国大使館と本国政府に連絡を取って、調査をするので、デモはやめてほしいとの事。領事館職員との交渉も含めて、一部始終をビデオで撮影。

 午後、HEREローカル11のスタッフダイレクターのスーザン・ミナトさんを訪ねる(同じく戸塚さんらの翻訳本、ビデオにも出てくる)。ホテル関係の労働協約が4月15日に切れ、6月1日まで暫定的に延長したが、それも終了し、現在、無協約状態で、交渉が継続しているとのこと。

 主な争点は、協約期間を2年間とする(HEREは、2006年を主要都市の協約改定時期を設定して、全国的な協約キャンペーンを準備しようとしているので、その期限にあわせる)、健康保険の扶養家族分の保険料会社負担、賃上げ[現在、ハウスキーパー(客室清掃員)が11ドル、ニューヨークは18ドル]、カードチェック方式の拡大など。

 ロサンゼルスでは、組織化されたホテルが17あって、そのうち9つのホテルがCouncil(協議会)を作っていて、交渉当事者となっている。残る8つのホテルは個別に協約締結となるが、協議会が締結した内容に従うとのこと。

 すでに、4月15日と5月27日に、2000名規模のデモを行っているが、今後、大口顧客(法人、組合)、旅行代理店、コミュニティなどへの働きかけ、政治家、株主へのアプローチ、7月以降は、大手ホテル前での情宣ピケットなどを行いながら、ストライキも準備して、経営を追及していくという。

 この日夕方、HEREは、ホテル関係の各職場リーダー430名(リーダー1名と組合員5名をひとつの単位として、組織体制をつくっている)を集めて、ダウンタウンのカソリック教会で、集会を開催、私たちも参加する。最初に、デュラゾ委員長のあいさつの後、組合員が出てきて決意表明。ちょうどHEREはカナダと全米からホテル関係のローカルの委員長をロサンゼルスに集めて会議中で、HEREの全国委員長をはじめ、各ローカルの委員長全員が激励のあいさつにたつ(必ずしも白人男性ばかりではなく、女性、ラテン系、黒人もいた)。参加者のほとんどがラテン系で、アジア系、黒人が少し、スペイン語がメインで、英語については同時通訳で聞く。最後に、財務書記長がパワーポイント(写真や図の入った)を使いながら、闘い方について説明して、集会を終わった。


  飯田さんのプレゼン。南カリフォルニア労働安全衛生連合で

 全体として元気の良い集会だったけれど、少し気になったのは、この集会もUNITEの集会も資料をまったく配布しないこと。経営にもれては困るものもあるだろうが、パワーポイントで見せた資料ぐらいはコピーして配布してもいいのではないかと思った。
それとも職場で配布しているのか? 

 6月18日、ケント・ウォンさんのロサンゼルスツアー。ロングビーチまで行き、ロサンゼルス港を見る。横浜港より大きいのではないかと、規模の大きさに驚く。海岸沿いを走り、サンタ・カタリーナ島を見る。久しぶりに眺める海。

 夜は、エコパーク・フィルムセンターを訪ねる。ここはコミュニティのユニークなスペース。地域メディアについては、この分野について情報収集をしている青野から後日報告する。

 6月19日、日中は、昨年取り組まれた「Immigrant Workers Freedom Ride 2003」(2003移民労働者差別撤廃のためのキャラバン)へ参加した移民労働者たちへのインタビューをまとめた報告を聞く。報告者は南カリフォルニアの社会学の大学院生で、パワーポイントで写真と地図、インタビュー録音を流す内容だった。同時開催された写真展をあわせてみる。移民労働者たちと様々な人種の学生たちが参加していた。

 夜は、UCLAレイバーセンターのスタッフ、ラリー・フランクさんの奥さんがゲッティセンター(ロサンゼルス郊外の見晴らしの良い山の上にある個人設立の大きな美術館)の学芸員で、企画展を開催しているとのことで、ウォンさん一家と一緒に訪ねる。彼女から、いかにイスラム美術がイタリアルネッサンスに影響を与えたかを陶器やガラス器具の比較展示で示す内容だ。イスラムというとテロリストのことしか思い浮かべないアメリカ人たちに、イスラム美術の美しさとそれがいかにヨーロッパの美術、とりわけイタリアルネッサンスに影響を与えたかを見せたかったと言っていた。そして、美しいロサンゼルスの夜景をみる。

 翌朝、飯田さんは日本へ帰国。

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 ということで、6月もあっという間に過ぎつつあります。当面、HEREの協約交渉、在宅介護労働者の組織化、労働者センターの活動、労働教育などをテーマに、調査を続けています。課題も関係する資料も山積みで、遅々として進みません。少し焦るときもありますが、ゆっくりじっくりやっています。在留期限の11月13日までにどこまで進むかわかりませんが、頑張ってみようと思っています。

 青野の方は、私と一緒にインタビューや行動の撮影を続ける一方、こちらの様々なレベルのメディアのあり方について調べています。

 7月6日から10日まで、UCLAレイバーセンターで、女性労働組合研修が開催され、日本からも均等アクション21の女性たち5名が来られる予定です。男子禁制で私は出席できませんが、青野は出る予定です。

 労働情報に「ロサンゼルスから」の連載をスタートしました。内容的に重複する部分もありますが、何かの折りに目を通していただけると幸いです。

 では、また

高須裕彦

From: Hirohiko Takasu <h_takasu@jca.apc.org>
Date: Tue, 22 Jun 2004 00:16:34 -0700