第2号  2004年4月8日

 

UCLAダウンタウン・レイバーセンター

みなさん

 イラクで日本人3名が誘拐されたと聞いて大変驚いています。自衛隊派遣のときから、当然こういったことが起こるだろうと思っていましたが、ついにこういう事態になってしまいました。小泉がブッシュのために自衛隊撤退を拒否して、最悪の結末を迎えるのではないかと思うと悲しくなってしまいます。ぜひ、自衛隊撤退の声を日本であげてください。

 こちらでも、イラク情勢の悪化を連日報道しているようです(まだテレビが見られないので、毎日ラジオを聞き、たまに新聞を見るくらいですが)。活動家ではない普通のアメリカ人がどう考えているのかまだ見えてきません。わかってきたら、どこかで報告します。

 さて、LAに来てから1週間がたちました。主観的にはとっても忙しく、あっという間に過ぎた1週間でした。UCLA Downtown Labor Centerの事務スタッフ、Jose Torresさん(ホセ・トーレス、ラテン系、なかなかの好青年です。UCLAで中国文学を専攻。卒業後、北京で1年間英語を教えて、針灸に出会い、いまは針灸学校に夜間通い勉強をしている)に助けてもらって、いろんな準備をしました。

 まずは、銀行に当座預金口座を作ること。アパートの近くの銀行は、Social Security Number(社会保障番号)とカリフォルニア州のIDカード(または運転免許証)がないと、口座開設はできませんでした。そこで、日系の銀行にあたり、Union Bank of California(東京三菱銀行系で、西海岸に多数の支店を持っている)では口座(パスポートだけで可)を作ることができました。こちらは、小切手社会で、家賃や光熱費を払うためにどうしても必要なのです。敷金と最初の家賃を払うために、Cashier's checkと言うものを作りました。


   ダウンタウン・レイバーセンター前 - スタッフのラリー・フランク、ホセ・トーレスと青野恵美子

 それからアパートの契約です。Kent Wongさんが、 Downtown Labor Centerから2キロくらい離れたところに、雰囲気の大変良いアパートを探して予約しておいてくれました。契約書は10ページもあって、細かいことがたくさん書いてあります。サインする場所もたくさんあって、アパートの管理人は早くサインしろとせかします。3階建てのアパートで、5棟500戸もある、ちょっとした団地です。スポーツジム、プール、テニスコートもついています。1LDK(10畳分のベットルームと15畳分ぐらいのLDK)で家具・冷蔵庫付きで1230ドル、ロサンゼルスの中程度のアパートだそうです。敷金は1ヶ月分でした。リビングが広いので、ソファーに一人、さらに寝袋さえ持ってきて頂ければ、ごろ寝で良ければ泊まれます。

 それから、最低限の生活準備。電話の設置(月曜日中に電話工事が終わったはずでしたが、つながっていませんでした。火曜日朝に電話会社に電話したら、「すでに工事は終わっているので、大家と話せ」と言われ、大家に電話すると、「そんなはずはない、電話が壊れているのでは」と言われ、それでも粘って、「新しい電話だからそんなはずはない。調べてくれ」と言って、外出先から戻ってくると、電話がつながっていました。どうなることやらと思いましたが、電話がつながって落ち着きました)、電気の連絡(コンロはガスでなくて電気でした、水道は大家から請求)、買い出しをしました。鍋や最低限の食器は持参したので、食材と調味料を買ってくればすぐ自炊ができました。なんと、巨大なスーパーが3軒もすぐ隣にありました。

 4月2日(金)夕方、はじめて行動に参加しました。コリアンタウンにある「アッシーマーケット」という韓国人経営の大きなスーパーで、 KIWA(Korean Immigrant Workers Advocateコリアン移民労働者支援組織)が、そこで働くラテン系を中心とする労働者を組織化し、Immigrant Workers Unionという独立組合を結成したが、組合承認選挙で過半数をとれず敗北。その後、経営側は、2002年8月1日に、ソーシャルセキュリティナンバー(社会保障番号)が合わないこと(多くの資格外就労労働者なので当然に社会保障番号はない、当該労働者たちが経営者に申告していた番号は違っている)を理由に、56名の労働者を解雇し、現在に至るまで、復職と組合承認を求めて闘いが継続しています。解雇から1年間は毎日ピケットを張り、ちょうど昨年8月に訪問したときが1周年の集会(200名くらいの大きな規模だった)でしたが、その後は毎月第1金曜日に抗議行動をやっているそうです。当該が2?3名参加し、全体で30名くらいの参加でしたが、長期化する中で、この争議自身は大変難しい局面にあるようです。ふと、東京外語争議を思い出しました。ただ、この争議をきっかけに、コリアンタウンの他のスーパーマーケットの条件は少し改善されているようです。他の経営者たちは組織化をおそれているようです。


   KIWAのアッシーマーケット抗議行動

 4月4日(日)に、元全国一般南部の組合員のジョン・マクラフリンさん(現在、ミシガン州のアナーバーに在住。ミシガン大学のESLの講師)と会いました。彼の奥さん(Amy Yamashiro)は、LA出身の日系人で、そのご両親の自宅を訪ねました。LA在住の親戚を集めてパーティだそうで、そこに招待されました。お父さんはLA生まれの沖縄読谷村育ちで、沖縄戦を経験(中学1年生で、いったん徴用されたが米軍上陸直前に、家に帰され助かった)し、1948年にLAに渡ったそうです。LAの日系人の中で沖縄出身者の比重は相当高いようです。仕事は庭師で、今でも現役のようです。ご両親とも優しい方でした。親戚の娘さん(20歳くらい)が、大学の奨学金をとるために陸軍に入ったら、9/11を迎え、昨秋からイラクへ送られ、3月末に戻ってきたそうです。補給基地の物品チェックが仕事だったそうです。同じ基地の仲間で亡くなった人もいるようです。7月に除隊になるそうで、もうイラクへは行かなくて良いとみんな喜んでいました。日本のテレビを毎日見ているそうで、NHKの朝の連続ドラマや大河ドラマ、相撲の話が出てきましたが、ほとんど見てないのでついていけませんでした。親族一同会して、記念写真を撮って、写真を額に入れて飾るのがアメリカ人の作風のようで、いくつかの写真が飾ってありました。そして、パーティ参加者一同の写真を撮ってお別れしました。なお、パーティと言っても誰もお酒を飲みませんでした(車でる人が多いのも理由だと思いますが)。肉料理、まぐろのさしみ、果物、とんでもなく甘いケーキがでてきました。

 4月6日(火)、訪米してはじめてUCLA本校を訪ねる。留学生オフィスを訪ね、手続きを取った後、レイバーセンターのスタッフBeverly Lauさん(中国系2世の女性。娘さんがUCLAの学生。会計担当者)の案内で1日かけて、キャンパス全体を回る。ずっと病院の会計をやってきたそうで、労働組合のことはあまり知らないと言っていましたが、庶民的な感じの親しみやすい女性で、とってもわかりやすい英語を話してくれました。広大なキャンパスは緑が豊富で、20世紀前半にたてられた建物は、なかなかこっていて、一見の価値があります。UCLAは総合大学で、あらゆる学部があり、演劇や映画の上映も頻繁にやっているし、スポーツ施設も広大で、いろんな試合をやっているようです。ここにいてはキャンパスライフを楽しんでいるうちに終わってしまいそうです。バイキングスタイルの学食でおいしい食事ができました。やはり、ビジネススクールの方が充実していて、何棟も校舎を持っているのに、本校のレイバーセンターは、単独で校舎は持っておらず、研究棟の一部をスタッフ分の研究室として確保していました。Kent Wongさんの研究室はとてもきれいで驚きました。

 私たちが常駐しているのは、UCLAダウンタウン・レイバーセンターで、LAのダウンタウンの西側、コリアンタウンの東側にあります。真ん前が、マッカーサーパーク(たぶんあのマッカーサーにちなんだ公園と思います)という公園で、そこでは、おじさんたちが1日中チェスをやっていたり、家族連れが遊んでいます。公園のレイバーセンターの反対側は、「治安が悪い」と言われる地域で、ラテン系マフィアの抗争事件(銃撃)がよく起きるそうです。ドラッグの売人もいるとのことで、「ガイドブック」には「日本人が近づいてはいけない場所」となっています。

 ダウンタウン・レイバーセンターは2002年9月に開設されたばかりです。大家はUNITE(全米縫製繊維産業労組)で、1FがレイバーセンターとAPALA(アジア太平洋系アメリカ人労働者連合)のLA支部事務所、SoCalCOSH(南カリフォルニア労働安全衛生連合)の事務所、2FはUNITE、地下がHERE Local 11(全米ホテルレストラン労組)の事務所になっています。まさに労働組合の会館です。すぐ近くに、LA郡地区労の事務所、様々な組合の事務所が集中しているところで、歩いて回ることができます。しかし、知事になったシュワルツネッカーは労働関係のあらゆる予算カットを提案していて、ダウンタウン・レイバーセンターのスタッフも全員解雇されるかもしれないとのことで、状況は緊迫しています。

 日常的に私たちの相手をしてくれるのが、冒頭に出てきたJose Torresさん(事務スタッフ)、Larry Frankさん(組合関係担当、弁護士資格あり)、Victor Narroさん(移民労働者、Worker Centerなど担当。長年にわたって移民労働者関係の運動組織で活動してきた人。Sweatshop WatchというNGOのスタッフも兼務している。弁護士資格あり)です。ダウンタウン・レイバーセンター内に私たちの席も確保されていて、パソコン、インターネットを始めあらゆる機器を快適に使用できます。ここを拠点に、あちこちの組織や人を紹介してもらいながら、見たり、聞いたり、体験したりの毎日が始まっています。

 昨日は、KIWAのDanny Park事務局長とAsian-Latino American Workers committeeのAehwa Kimさんに会い、KIWAの活動について話を聞き、その後、レイバーセンターのVictorさんから、Workers Centerや移民労働者にかかわる支援組織、労働法制、カリフォルニアの労働行政について話を聞きました。5月1日に、May Day(既存の労働組合がメーデーのようなイベントをやるのは、9月のレイバーデー)として移民労働者たちの権利のための1日キャラバンをやるそうです。今朝は、HERE Local 11が4月15日の労働協約期限切れを前に、地域の諸団体、労働組合を集めて、支援を訴える会議がありました。4月15日以降、行動やストライキを構えて、闘いが始まりそうです。その場で、委員長のマリア・エレナ・デュラゾさんに会いました。96年にホテルニューオオタニの争議で来日された時の東京外語前の抗議集会のことを話したら覚えていました。


  UCLA本校キャンパス。レンガ建て建物が並ぶ

ずいぶん長くなりましたので、これらについては、今日は書きませんが、また別途報告します。

ようやく時差ぼけはとれて、体調もよくなってきました。ただ、毎日、あるいは1日の内で、曇ったり、晴れたり、寒かったり、暑くなったりで、衣服の調整(Tシャツになったり、セータージャンパーを着込んだり)が難しいところです。まあ、少しずつなれるでしょうが。

ということで、ぼちぼちLAでの活動が始まりました。また、次回をご期待ください。来週は、水曜日から日曜日まで、UALE (United Association of Labor Education全米労働教育協会)の総会出席のためにシカゴに行きます。そこでまたジョンマクラフリンさんと合流予定です。

ではまた

高須裕彦

From: Hirohiko Takasu <h_takasu@jca.apc.org>
Date: Thu, 8 Apr 2004 15:07:46 -0700