ブリヂストンタイヤ・インドネシア

残業拒否闘争に組合トップ四名の解雇!

              2005.3.12 

吉田 稔一(全造船関東地協反戦プロジェクト)

 

ブリジストンタイヤ・インドネシア労組は全員組合で、各事業所単位で作られ、インドネシア最大のナショナルセンター全インドネシア労働組合総連合(KSPSI)の産別「化学・エネルギー・鉱山労働組合連合」に属している。

2002年3月3日この3事業所の組合は共同で賃金交渉を始め、計10回の交渉を持ったが合意に達しなかった。それで3月27日組合は会議を持ったが、一般組合員の多くは強くストライキを主張した。しかし組合執行部は、ストライキは行政の許可がいること、また「ストライキを避けるように努力する」との労使間の協約を考慮し、ストライキは避け、残業拒否闘争を行うこと提案し、決定した。

ただ以前からの協約で組合の全発行物は会社の許可を受けることが義務づけられていたため、組合執行部は総務マネジャーにこの残業拒否闘争の指示文書の許可を求めた。しかし会社側はこれを拒否し、指示文書にサインしなかった。そして組合はそのまま3月28日残業拒否闘争に突入した。

その後、賃金交渉は行政の2度の調停によって4月26日妥結した。しかしその約1ヶ月後5月21日会社側は、ブカシ工場の委員長と書記長、カラワン工場とジャカルタ本社の委員長を事実上解雇した。正確には行政的な解雇手続きを開始すると共に停職処分にした。

それに対して組合は5月22日からストライキに突入し、工場の生産は全面的にストップしたが、5月25日労働移住大臣が介入し、ストライキは中止させられた。それ以来停職処分にされた4人は会社と会社敷地内にある組合事務所への立ち入りを禁止され、賃金支払いを停止されている。

また、組合は各事業所単位で地方労働紛争調停委員会、次いで中央労働紛争調停委員会ヘ解雇不当を申し立てたが、地方・中央労働紛争調停委員会は、残業拒否の指示文書の会社許可を得なかったことを理由に、次々と組合役員の解雇を是認する判決を出している。

これに対し組合は現在、これらを更に行政高等裁判所に控訴すると共に、会社側の不当労働行為を告訴している。しかしこの告訴に対し、検事は当時のブリジストンタイヤ・インドネシア社長の「KAWANO」が帰国し、事情聴取できないことを理由にいまだ立件していない。行政は金銭解決を促している。

ジャカルタの目抜道路には超近代的ビルが−大蔵省
千名から一万名に及ぶ労働集約的輸出産業が多数-電子部品

ILOも解雇撤回を勧告

むろんILO条約などの労使関係の国際標準から見るとこの残業拒否闘争は完全に合法的である。したがってILOは2004年11月労働組合側を全面的に擁護する勧告を出した。また、これはインドネシア労働法に照らしても完全に合法的である。

したがって紛争調停委員会の解雇有効の決定は先に指摘した労働協約への違反のみを根拠としたものである。しかし、スハルト軍事独裁政権下の労働組合はスハルト政権と資本による労働者支配のための道具であった。そのためこのブリジストンタイヤ・インドネシアの労働協約も労働組合の活動を会社の監視下におき、かつその行動を拘束する性格を持つものであり、この協約自体が不当労働行為を構成するものである。したがってこの労働組合の自主性を全面的に否定する労働協約に依拠して、組合執行部を解雇した会社とそれを擁護している紛争調停委員会こそが、労働組合法に違反する不当労働行為を働いていることは明らかである。

それゆえ、ブリジストンタイヤ・インドネシア労組はまず会社の不当労働行為が裁かれる必要があると主張している。しかし、検察はブリジストンタイヤ・インドネシア元社長KAWANOが日本へ帰任して不在であることを理由に立件しようとしない。検察はブリジストンタイヤを有罪にすることを恐れ、それを避けるための口実としてKAWANOの不在をいいたてている。

ジュネーブの湖のほとりにILOのある国連ビルがあった
ごく最近までインドネシアの国会議事堂は誰でも入れた

インドネシアの労働情勢

インドネシアの労働運動は今大きな転換点にある。1997-98年東アジアの通貨-金融危機の中で学生を中心とした民衆の力によってスハルト政権は打倒され、インドネシアの政治は大きく民主化された。それは労働運動においても同様であった。スハルト時代は全インドネシア労働組合連合(FSPSI)が唯一の合法的な労働組合であったが、スハルトの退陣以後、かって非合法化されていた組合が合法化され、全く新たな労働組合が作られ、FSPSIから多くの組合が分裂し、FSPSIも全インドネシア労働組合総連合(KSPSI)へ再編されて、ストライキ闘争や政治デモも行う普通の組合に脱皮し始めている。2003年の時点でインドネシアには実に74の労働組合全国組織がある。

一方、それと並行して、インドネシア労働法も2000年から2004年にかけて全面的に改正され、現在施行規則が随時制定されていっている。これらの労働法は法文上明らかに以前のものと比較すれば民主化されている。しかしその運用において、行政は今だスハルト時代のやり方を引き摺っており、この点で資本と労働運動の攻めぎあいが続いている。(*1)また上に指摘したように現在のインドネシアには74の労働組合全国組織あり、その数が異常に多いのは組合指導者のボス的体質が影響しており、労働組合運動内部も大きな問題を抱えている。

経済危機の後あらゆる空き地に青空市場が出来た
排気ガスを撒き散らす壊れそうなバス

他の日系企業争議との比較

スハルト政権下では、合法組合は単なる支配の道具であったので、ストライキは非合法な山猫ストが一般的であった。現在も山猫ストは相変らず起きているが、労働組合の労働条件の改善を目的とした公然たるスト、また合法的なストも広汎に行われるようになってきている。

しかしこのストライキなどの闘争をめぐって会社側の大量解雇が頻発し、幾つも大きな争議が起きている。日本の企業はNIES諸国や民族系大企業と比較すると相対的に労働条件がよく、争議も相対的に少ない。しかしその日系企業においても幾つも大きい争議が起きている。2001年トヨタ系列の座席シート子会社カデラ社の「賃金」争議での労働組合への暴力団襲撃・爆弾投擲事件、2002年ホンダの「賃金」争議での368名の解雇、ソニーの「立ち作業」、「工場撤退」をめぐる争議、また2004年にも昭和電工系列の成形会社HYMOLD・インドネシア社での産休開け従業員への「配置転換」をめぐる243人の解雇事件などなどである。

ブリジストンタイヤ・インドネシアの争議の解雇者は4名であり、ホンダやソニーの争議と比較すると極めて少数である。しかし、この4名の解雇者は3000人を超える労働者に支えられて、金銭解決を拒否して闘い続けている。この点が他の争議と決定的に異なっている。

人伝に聞いたところでは、ソニーの争議は全員が金銭を受けとって終了した。ホンダの争議は委員長ともう1人だけが金銭解決を拒否し続けたとのことである。このホンダの2人、HYMOLDの243名の解雇が現在どうなっているか定かでないが、ブリジストンタイヤの被解雇者4人と組合は今も金銭解決を拒否し職場復帰を要求して闘い続けており、ILOやOECD等の国際機関に訴え、また世界の労働者に支援を要請している。この点が非常に重要な点である。

解雇されたHYMOLD組合執行部
ソニー労働者達は工場横に泊まり込んで闘った

経済格差と支配

私はフィリピントヨタ労組(TMPCWA)を支援する会に属している。このTMPCWAがトヨタの団体交渉拒否と233人の組合員解雇をILOに提訴していることに関係して、私はILOの結社の自由委員会を通じてブリジストンタイヤ・インドネシアの争議を知ることが出来た。

インドネシアとフィリピンの私が知っている情報の範囲内でも、解雇事件は日系企業に限らず、次ぎから次ぎと起きている。というよりも、労使紛争はすぐに解雇争議になってしまうといったほうが正確である。つまり、東アジアでは解雇争議のほとんどが企業と政府の弾圧によって金銭で無理やり決着しており、そのため企業は金銭解決を期待して組合破壊のため安易に解雇を乱発している。その最大の理由はあまりにも安い賃金、労働者の地位の劣悪さにある。

実際のインドネシアの平均的な生活水準は日本の10分の1弱である。だが、変動相場制の下で円のインドネシア通貨ルピアとの為替交換レートは物価水準と比較して6倍程度強くなっている。そのため、インドネシア国民のの平均的収入は円に換算して比較すると日本の平均的収入の約60分の1程度になっている。(*2)逆に日本国民の平均的収入はインドネシアではインドネシア平均の約60倍になり、日本企業のインドネシアへの出向者はインドネシアでは超特権階級になる。この計算からは、日本の企業はインドネシアでは労働者を日本の60分の1の賃金で雇うことが出来るはずだが、日本の企業は普通インフラの整った地域で平均より高学歴の人々を雇い、またインドネシア政府が地域最低賃金制をかなり高いところで定めているため、実際は一般労働者を20分の1程度の賃金で雇用している。

そして、この20分の1賃金の安さ、60分の1という一般労働者農民の生活条件の劣悪さは、労働災害や交通事故に於ける保証、労働者の解雇時の費用を含めて労働者農民の社会的権利全体の劣悪さに繋がっている。労働者、農民はこの賃金の安さを含む劣悪な労働条件、生活条件を改善するため、今やっと労働組合や農民組合を作って闘い始めた。だが、多国籍企業とそこの特権的な経済的な地位にある外国人からは、こうした劣悪な労働・生活条件の下にある労働者や住民はあたかも簡単に取替え可能なスペアであり、消耗品にすぎない様に見えてしまう。これが多国籍企業のインドネシアなど低・中所得国の労働者を差別し、労働組合を敵視する態度を生み出している。

また、日本はGNPの規模で世界GNPの14.4%(購買力平価GNPでは7.7%)を占め、世界の2,3位の経済大国である。それに対してインドネシアは世界GNPの0.4%(同1.3%)世界第32位の国である。日本はGNPでインドネシアの38倍(同6倍)の規模であり(*3)、そしてインドネシアへの最大の投資国である。インドネシアが海外から受け入れた直接投資残高は1997年時点で683億ドル、GDP比32%になる。低・中所得国全体の海外直接投資受け入れ残高の対GDP比は21%で、東アジアのそれは28%であるから、インドネシアの直接投資入れ比率は平均よりもかなり高い。(*4)

この海外直接投資のうち日本はその約20%弱を占め第1位、2位はイギリスであるが、シンガポール、香港、台湾、韓国のNIES諸国全体では30%強を占めている。(*5)またインドネシアの1997年債務残高は対GDP比63%で、低・中所得全体では38%である。このようにインドネシア経済は通常の低・中所得国と比較しても高所得国とその企業への経済的依存の強い国であり、この高所得国と多国籍企業への経済的依存は1997−8年の経済危機以後更に強化されている。そして高所得国の中でも日本はインドネシアへの最大の投資国である。

この日本と日系多国籍企業のインドネシアと東アジアにおける経済的な支配的地位、インドネシア等の労働者農民の劣悪な労働条件、生活条件が、日系多国籍企業の御用組合以外の組合を認めず、強い円を背景に札束で労働者の面を叩くようなやり方、政府や議会に対しても資本撤退の圧力をかけて自分の不当な要求を無理やり通そうとする態度を生み出している。フィリピンやインドネシアにおける多国籍企業、とりわけ日本のやり方は旧植民地支配の感覚と何ら変わらないものになっている。

フィリピンでは、トヨタは労働雇用省、最高裁判所の決定にも従わず、かつトヨタの不当労働行為を調査する国会の事情聴取にも応じようとしない。インドネシアでは、ブリジストンタイヤ・インドネシアは不当労働行為を行ったとされる「KAWANO」を日本に逃亡させている。多国籍企業は経済的な力で戦前の帝国主義者のように振舞い、労働者と労働組合の権利を蹂躙している。そしてフィリピン政府もインドネシア政府もこうした多国籍企業の横暴な行動を事実上容認している。

断食明け青空祝賀集会で公園から溢れる人びと
インドネシア式脱穀

具体的な支援を

そして、劣悪な生活条件の下にある東アジアでは、労働者が資本の解雇攻撃とその金銭解決攻撃に屈せず闘い続けるのは日本以上に困難である。私達はこうした困難な中で闘っている東アジアの労働者を支援しようではないか。

フィリピントヨタ労組が233人の解雇者の内150人を越える解雇者を組合員として維持し闘い続けているのは、非常に稀な例である。むろん彼等を支えているのは執行部と組合員の強固な団結の力である。しかしフィリピントヨタ労組結成直後からの全造船関東地協が核となった神奈川地域労働運動交流やフィリピントヨタ労組を支援する会など多くの労働者、市民の支援も疑いなく一定の役割を果たしてきた。こうした支援をもう少し広げようではないか。

私達は今東アジア労働運動で起きているこの解雇攻撃と金銭解雇の悪循環を絶つための闘いの一環を担おうではないか。そのために、日本の労働者である私達は、最低日系多国籍企業と金銭解決を拒否して闘っている労働者に対してそれを支援していこうではないか。今ブリジストンタイヤ・インドネシアの労働組合は4人の解雇者を3000人で支え、金銭解決を拒否して、私たちに具体的な支援要請をしてきている。私達はこれに答えようではないか。

ブリジストン本社とブリジストンタイヤインドネシアへ抗議を!!

 ブリジストンタイヤ被解雇者と組合は私達日本の労働者に具体的な要請をしてきています。かれらは、ブリジストン日本本社とブリジストンタイヤ・インドネシアに対して、ブリジストンタイヤ・インドネシア労働組合執行委員四人の解雇について抗議し、彼らが冒頭文章で具体的に書いている要請を行うよう、私達に求めています。インドネシアへの抗議も日本文でかまいませんから、ブリジストン日本本社とブリジストンタイヤ・インドネシアへ抗議のFAXを送ろう。
  以下抗議先と簡単な文例を示した。抗議のFAXまたはEメールを集中しよう。抗議先と抗議文の例は以下の通り。

文例

ブリジストンとブリジストンタイヤ・インドネシアのブリジストンタイヤ・インドネシア労組執行委員4名の解雇に抗議し、以下を要請します。 

1 直ちにブリジストンタイヤ・インドネシア労働組合執行委員4名を復職させ、未払いの賃金を支払うようブリジストンタイヤ・インドネシア社長YOSHINOIKUOに指示せよ。

2 今日本にいる元ブリジストンタイヤ・インドネシア社長KAWANOHISASHIに対してジャカルタにおける司法プロセスを進めるためインドネシア警察と労働基準監督所の呼び出しに応ずるようにすぐに指示せよ

3 ブリジストンの日本と全世界の子会社で再び組合攻撃を起こさないよう保障せよ。

(2)Bridgestone Tire IndonesiaPresident Director :Mr. IKUO YOSHINO

Address : NusantaraBuilding 18 th floor, Jalan MH Thamrin No. 59, Jakarta
Pusat,Indonesia
Tel ****-010- 62-21-336591 Fax ****-010-62-21-336345

We protest against the dismissal of four Bridgestone tire Indonesian labor union execution committee in Bridgestone and Bridgestone tire Indonesia, and request the following.

A:Make four Bridgestone tire labor union execution committee at once and pay their salaries during the process

B:Be sure to call Mr Hisashi KAWANO ( Ex - President Director of Bridgestone Tire Indonesia ) which nowadays reside in Japan to come to Indonesia utilize to attend call of the Director of Employment Norms Inspection-MOMT and Police of Republic of IndonesiaI for further judicial process in the Attorney Office DKI Jakarta .

C-Secure not taking the action of the union attack to 3200 Workers in Bekasi Plant, Karawang Plan and Jakarta Head Office.

 

* 抗議FAXを送った場合、吉田かAPWSL日本へFAXまたはEメールで連絡していただきたい。日本サイドで集約して、ブリジストンタイヤ・インドネシア労働組合に連絡したいと考えています。
   全造船関東地協 反戦プロジェクト 吉田  FAX 045−575−1948 APWSL日本委員会 apwsljp@jca.apc.org

     ILO結社の自由委員会報告