2・15「マウン・ミンスイさん裁判」報告

不当判決くだる!!

◇  判決要旨

 日本国内に生活基盤が形成されたことを理由として在留特別許可を求めたものの、法務大臣により許可を認めないとされた在特一斉行動第一次グループのビルマ人家族ミンスイさん一家は、法務大臣裁決の取消を求めて東京地方裁判所に訴えていました。

 裁判は昨年12月に結審し、去る2月15日に判決をむかえましたが、結果としてマウン・ミンスイさんの訴えは却下され、裁決の取消も認められませんでした。人道的配慮のかけらもない全く許しがたい不当判決としか言いようがありません。以下がその要旨です。

1 法務大臣の裁量権の濫用・逸脱という原告主張について

2 裁決書不作成の手続き違反という原告主張について
 裁決を行うにあたり法令上行うべきとされた裁決書の作成を省略することは、本来許されない。この点、法務大臣裁決には瑕疵がある。

 しかし、裁決書において記載される事項は容疑者の異議の申出に理由があるか否かに関するものであるから、退去強制事由該当性に争いのない本件については、裁決書不作成が法務大臣の判断の適正確保に影響があったとはいえない。

これに対し、弁護団所見は次のとおりです。

 判決後、記者会見と報告集会が行われました。その席上でマウン・ミンスイさんは不当判決に屈することなく控訴する決意を明らかにしました。マウン・ミンスイさん裁判の行方が他の在特一斉行動出頭者や非正規滞在外国人に多大な影響を与えるのは確実です。私たちAPFSも弁護団も、引き続きミンスイさん一家を支援していきます。皆様もどうか暖かいご支援をお願いいたします。

ASIAN PEOPLE'S FRIENDSHIP SOCIETY(APFS)
TEL03−3964−8739/FAX03−3579−0197


◇ 弁護団声明

在留特別許可一斉行動弁護団声明

2002年2月15日
在留特別許可一斉行動弁護団

 本日、東京地方裁判所民事2部は、ミンスイさん一家に対して法務大臣が在留特別許可を認めず、それにしたがって東京入国管理局が退去強制令書を発付したことの取消を求めていた訴訟につき、主張を全面的に排斥し、請求を棄却する判決を言い渡した。

 この判決は、法務大臣が在留特別許可を認めなかったことについて、憲法・条約上の人権は、在留資格という制度の枠内で認められるという論法で、ミンスイさん一家の人権をことごとく無視している。憲法や国際条約で保障される人権は、人である以上はその国籍や在留資格とは全く無関係に、誰でも生まれながらに有しているものであるという、近代立憲国家の人権思想とはおよそかけ離れた論法で、到底容認できない。この判決の理屈を敷衍すれば、オーバーステイの外国人には人権がないのだから、生命を奪っても良いということになる。暴論である。

 さらに、本判決は、ミンスイさん一家を帰国させることは、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約違反であるという主張に対し、社会権規約の保障する権利は努力目標を定めるものであって、具体的な権利ではないなどと述べている。

 2001年8月31日に、国連の社会権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)委員会が日本政府に対して、「委員会はさらに、規約のいずれの規定も直接の効力を有しないという誤った根拠により、司法決定において一般的に規約が参照されないことに懸念を表明する。」と述べたことを全く無視している。

 そして、本判決は在留資格制度が出入国管理の法制度の根幹をなしているものであるから、このような法制度の下における不法残留者による不法就労は、その根幹に係わる重大な問題であり、公正な出入国管理の秩序を乱すものというべきであり、原告らが主張した種々の不利益を考慮しても、法務大臣がこのような公益を考慮した上で、在留特別許可を認めなかったことが裁量権の逸脱または濫用に当たるものではない、としている。安全な日本で、親子3人、ささやかに暮らしたいというMさん達の願いを、「公正な出入国管理の秩序」という得体の知れないものによって奪い去ることを是認しているのである。

 全体を通じて、血の通った人間が書いたものとは感じられない、冷たい判決である。
 当弁護団は、上訴審においてその是正を図るため、一層努力する所存である。

以  上


◇ APFS緊急声明

ビルマ国籍のマウン・ミンスイさん家族への不当判決に抗議!!

 去る2月15日、東京地方裁判所民事2部の市村陽典裁判長は、1999年9月1日に在留特別許可を求めて東京入国管理局に出頭したものの、法務大臣の裁決で在留特別許可が認められなかったビルマ国籍のマウン・ミンスイさんが、裁決の取り消しを求めた訴訟で、これを棄却するとの判決を言い渡した。この判決は外国人の人権は在留制度の枠内で考慮されればよいという、きわめて許しがたいものであり、その他の点でも意図的に事実関係を歪曲しているものといわざるを得ない。非正規滞在外国人の合法化を求める一貫として、当初から支援をしてきたAPFSは、この判決に対して心のそこから憤りと悲しみを表明するものである。

 1999年9月1日、マウン・ミンスイさんらは、10年以上にわたる日本での暮らしの中で強固な生活基盤が形成されたこと、その間に子どもたちが成長し、帰国しても文化や習慣、言語などの面で順応できないと訴えてきた。法務大臣は、これらの主張を認め、ミンスイさん家族とともに出頭をした4家族・16名に対しては在留特別許可を認めている。また第二陣として同年12月に出頭したうち1家族・4名について在留特別許可を認めた。20数万人の非正規滞在外国人の存在を法務省―入国管理局も無視することができなくなったのである。そして2000年3月、法務省は第二次出入国管理基本計画を公表し、「我が国社会とのつながりが強く、退去強制をさせることが非人道的と考えられる不法滞在者については適切に対応する」と定住化が進む非正規滞在外国人の「救済」にふれている。

 市村裁判長の判決は、法務大臣の大幅な裁量権を容認した上で、子どもの権利条約の「子どもの最善の利益が考慮されなければならない」という国際的な合意事項に、在留の枠内で考慮されればよい、と独自の解釈をし、国際条約をいとも簡単に無視している。社会権規約の保障についても「努力目標であり」、「具体的な権利ではない」と断定し、国際社会が営々として築き上げてきた人権こそがすべてに優先するという考えを否定している。

 法務省―入国管理局は、内外の状況を判断し、定住する非正規滞在外国人の人権を考慮せざるを得なくなり、1999年9月1日以降に開始された一斉出頭行動のなかで5家族・20名に対して在留特別許可を認めざるを得なくなったいたのである。同じに第二次基本計画においても非正規滞在外国人の処遇についても方針の転換をしたのである。今回の市村判決は、法務省―入国管理局が推し進めようとしている非正規滞在外国人に対する政策に逆行するものといわざるを得ない。本来、国家の暴走をチェックし、あらゆる人々の人権を守るべき司法が、国家に追従することは絶対に許されない。三次にわたる一斉出頭者を支援してきたAPFSは、非正規滞在外国人の実状を無視する市村陽典判決に猛烈に抗議をするものである。同時に、この不当な判決を社会的に糾弾し、真に人権が尊重される社会を心有る人たちとともに築き上げていくことを、あらためて決意するものである。

2002年2月20日

ASIAN PEOPLE'S FRIENDSHIP SOCIETY
(A.P.F.S.)
代 表 吉  成  勝  男



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