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小田急線高架事業認可取消訴訟
崩された公共事業の壁
   〜住民側勝訴の意義とこれから


A 建設省の身から出たサビ

 今回の判決後に、東京都の運輸省OBで1963年当時都市交通課長だった高橋寿夫氏(その後、運輸省航空局長)は『交通新聞』に「政策の賞味期限」という一文を掲載している。
 これによると、オリンピックを前にした63年の都市交通審議会では代々木八幡から喜多見間の輸送力増強策として世田谷通りの地下を喜多見駅へ接続する地下鉄建設が予定されていた。ところが、小田急が企業防衛的不安を表明し、代案として代々木上原・喜多見間の高架を基本とする4線化による連続立体交差化が唱導され、これに呼応し64年に最初の都市計画が決定し、地下事業が暗礁に乗り上げるきっかけをつくったというのである。
 その後、沿線住民の地下化を求める運動の高まりのなかで70年、73年と世田谷区議会は小田急線の地下化を求める決議を全会派一致で決議。美濃部都政の出現もあってその後十数年にわたり、計画は凍結されていた。

細川政権への必死の交渉も…

 ところが、鈴木都政となり、中曽根内閣出現でのアーバンルネッサンス提唱で、再び高架事業が頭をもたげてきた。このとき、高架事業は既存市街地高層再開発の切り札として使われようとしていた。
 90年夏、首都の私鉄を全部組み入れた既存市街地高層開発に向けて第3セクター「東京鉄道立体整備株式会社」(歴代の東京都建設局長が社長)が設立、当時のNTT株の売却益10兆円の一部を種銭に民間資金を導入して駅周辺超高層再開発や道路整備を一挙に行おうとしていた。周辺の高度利用を連鎖的に引き起こすためには鉄道の高架計画は必須条件だった。この事業はまさにバブルとともにあり、また、バブルの引き金ともなった。
 ここから、私たちの闘いは始まった。
 90年9月にこの東京鉄道立体整備への行政の出資金返還と、同社の解散を求めて監査請求を行い、訴えが却下されると住民訴訟に持ち込んだ。以後、複数の情報開示訴訟、種々調査への違法支出の返還住民訴訟、特特法(特定都市鉄道整備促進特別措置法)がらみの小田急運賃値上げの認可取消し訴訟、騒音被害の損害賠償訴訟と、提訴した裁判は10を超える。これら裁判を闘うなかで、専門家の学際的協力を得つつ、地域における高架計画の不当・違法性を追及し、騒音振動などの環境負荷の少ない代替案としての地下化推進案を求め続けてきた。
 93年に転機が訪れる。公共事業見直しを引っさげた細川政権の登場である。
 私たちは「細川総理に小田急高架見直しを求める実行委員会」を組織し、2万名の署名を添え政府交渉に臨んだ。当時の五十嵐広三建設大臣は高架・地下の費用比較を基礎調査情報を公開して検証作業をすることを東京都に提言。このこともあり、基礎調査の情報公開訴訟では東京地裁が和解を勧告、結果、基礎調査の骨格部分を私たちは手に入れることができた。
 だが、いよいよ検証作業開始という段になって、政権崩壊。その間隙を縫って、都はだまし討ち的に事業認可を申請し、建設省は羽田政権下で認可を強行する。
 この強行が東京都・建設省にとって結局はあだになる。
 複複線化と在来線の立体化を同時に行う線増連続立体交差事業では、複複線部分を仮線として、最初に施設しなければ工事が成り立たない。従って、複複線部分も一体事業として建設大臣の事業認可を取らなければならない筋合いのものでもある。ところが、運輸大臣認可を取ったという屁理屈を使い、この部分の建設大臣の事業認可なしで工事に入ったのだ。

三方一両損提案

 私たちに勝利の展望が開けてきたのは昨年夏、裁判長が口頭で建設省に再三求釈明したにもかかわらず、それを無視し、挙句に裁判長をして、文書で求釈明がなされたころからである。
 高架地下比較の際、在来線跡地の利用を検討しなかったのはなぜか。先行して工事がおこなわれている複複線の高架工事は在来線事業の仮線といえるのではないか。求釈明は核心をついていた。これに対する建設省の答えは支離滅裂だった。
 そして、10月27日、「訴訟の進行に関する求意見」と題した異例の文書が原告被告双方に送られてきた。
 「甲第158号証および甲第161号証等本件処分に関する訴訟外の動きならびに昨今の公共工事一般に関する状況の変化および地下鉄工事に関する技術の進歩等、本件処分以後の事情にかんがみ、現時点において、本件につき話し合いによる解決をめざす意向があるか否かについて、11月7日までに書面により回答されたい」。甲号証158号証は私たち原告に協力してくれている「小田急市民専門家会議」が10月19日に発表した提言であり、甲161号証は山花郁夫代議士(民主党)の小田急高架問題についての質問趣意書である。
 この事実上の和解勧告に被告である建設省は「事業認可の取消に関して、和解はなじまない」として、これを蹴った。これが、今回の歴史的判決につながる。
 小田急市民専門家会議の提言とは、「新宿から多摩川までの緑のコリドーを」というものである。
 これは、「原状回復ではなく、高架構造物は複複線部分工事までは認め、これを仮線として当面通しながら、新宿から成城までの二線二層シールド地下鉄をつくり、完成後は使わなくなった高架構造物をも利用して二層の緑のコリドーをつくれ」という内容で、三方一両損の政策として提起しているところに特徴がある。
 いつまでかかるか分からない新宿までの複々線化を最新のシールド技術で一気に行い、環境の世紀に根ざしたエコロジカルな都市再生政策をいっしょに行えというこの主張。無計画な都市計画で喪失分断されてしまった緑を、線でつなぐことにより都市に生態系を回復しようという画期的な問題提起なのである。
 さて、「解決の方向性」については、判決が示した内容で誤解されている点がある。次回はこれに言及し、あわせて、今後の私たちの闘いについて触れたいと思う。

「緑のコリドー」イメージCG  長谷部了史(横浜国立大学建築学コース)


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