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これでいいのか!? 北朝鮮報道 「北朝鮮報道のあり方」を考える記者会見

報道の中身を批判するのはいいが、
「出すな」という議論には強い懸念
                    神保 哲生(ジャーナリスト/ビデオニュース)

 私自身は、環境とか開発といった比較的地味なネタをNHKに出す仕事をしている一方で、非常にささやかながら、インターネットでビデオニュース・ドットコムというサイトを主宰しておりまして、主流派報道とは一線を画した情報発信をやっております。私自身は、北朝鮮問題や朝鮮半島情勢については決して長い取材経験があるわけではなくて、それについて深い洞察があるわけではないということを最初におことわりいたします。
 ただ、私自身はよくビデオジャーナリストという言葉がありますが、おそらく日本で、テレビで一番最初にその名前で出てきた人間ですので、ビデオ、映像とジャーナリズムの接点、あり方についていろいろなところで提言、実践をしてきた立場から、昨今の映像ジャーナリズム、特にテレビについて一言言わせていただきます。
 先ほど似たような言及がありましたが、今回の拉致報道に関しては、9・11テロの時と状況が酷似していると思います。むしろこれは拉致報道に限った問題ではなくて、日々私たちが目撃している映像ジャーナリズムにおけるジャーナリズムの欠如、欠落という問題のくくりのなかで見ることができると思いますが、今回はそのなかでも非常に衝撃度が高いためにそれが収拾がつかないほど大きくなっていると私は捉えています。
 9・11の時は、最初にあの映像があったわけです。ほかに伝えることがなかったので、最初はあの映像が延々と流れた。いろいろなデマはいっぱい出てきましたが、ほかに何も情報がない。あの映像が何百回も流れて、ほとんどの日本の方、世界の方々は、あれは世界的なイベントでしたが、イスラム問題をほとんど何も知らなかった人にとっては、あの瞬間、あの映像がイスラム問題になってしまったんです。
 今回、9・17に何が起きたかというと、どうも今日は歴史的な会談があるらしいというふうに一日が始まった。小泉さんは飛行機に乗ってしまって、ほかに特に流す映像がなかったために、議員会館に集まった拉致家族の皆さんの悲痛な叫びというものが、延々と生で流れた。その会見を流すことは必ずしも問題だとは思いませんが、多くの朝鮮問題、拉致問題その他に詳しくない方にとっては、北朝鮮問題が、拉致されたかわいそうな人たちの問題だったのか、というふうになってしまう。それを象徴するのが、あの日の歴史的な世界が注目するイベントでは、全てのテレビ局で、小泉会見の映像のなかに、拉致家族のお父さんの顔が、会見と同時にスーパーされている。つまりほとんどの視聴者は、最初に拉致家族の視点から北朝鮮問題を見てしまった。その流れは今も続いていると思います。
 途中で冷や水を浴びせるようなことは何度もあった。たとえば、アメリカが北朝鮮は核を持っていると発表した。一瞬立ち止まって考えなきゃと思った人はいたけれど、焼け石に水。あまりにも熱くなっていたので、じゅるじゅると音がして、大したブレーキにはならなかった。キム・ヘギョンさんのインタビュー、『週刊金曜日』の報道など、流れとは違った報道があっても、あまりにもこちらの流れが激しいために飲み込まれてしまう。
 私が今、映像のジャーナリズムで本当にやばいなと思っていることがあります。ある三条件を満たすと、テレビでは何でもありになるようなのです。まず、衝撃的な映像がある。それから、被害者がいる。被害者がいるから、どんどん煽ることが大義名分になる。かわいそうな人たちがいる。それを私たちは代弁しているんだ、どこまでも掘っても何が悪いんだという立場に立てる。これは神戸のときも同じでした。もう一つは、がんがん報道しても相手がほとんど反論できない。反論があっても、それほど心配することはない。その三条件が満たされた瞬間に、何でもありになるという状態で、自らどんどん煽って、その流れで自分が一生懸命ペダルを漕いでいるのに、こんな流れにはもう逆らえませんという状況になっていると私は思います。
 『週刊金曜日』は、火中の栗を拾うような勇気のある行動だと思いますが、キム・ヘギョンさんの情報についてもそうですが、報道の中身について、取材が甘いとか、いろいろなことを言うのはいいと思いますが、あれ自体を出すべきではないという議論が出ていることには強い懸念を持っています。なかでも、特にそうした世論を受けて、福田官房長官や小泉首相が、報道は節度をもってしてほしいとか、家族の感情に配慮した報道が必要とか、ときの最高権力にある人間が、報道に注文をつけているのに、私たちはそれに対してあまりにも危機感が薄い。魚住さんの話にもありましたが、今度、国会で、人権擁護法案や個人情報保護法案を成立させようとするときに、ほらこんな報道があったじゃないかと、出してくる可能性が十分あります。そのとき、私も含めて皆さん一緒に冷や水を浴びせられることになるのではないかと思います。
 今回の提言には入っていませんが、自戒を込めて、私たちがしっかりしないと、スキを与えて、ときの権力者にほら見ろ、だから規制が必要だと言われることを皆さんは日々やっていませんか、と声を大にして言いたいと思います。

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