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これでいいのか!? 北朝鮮報道 「北朝鮮報道のあり方」を考える記者会見

核、工作船、難民、過去の強制連行、
在日の社会保障など多角的に報道すべき
                    小田 桐誠(ジャーナリスト)

 放送メディアや教育をテーマにレポートや本を書いたり、週に1回、大学にメディアに関する講義に行っています。このかん、短期間ですが福井と新潟の現場に行きました。帰ってきて、よく行く蕎麦屋さんのご主人が、最近テレビを見ない、拉致関係のニュースは見ないと言う。どうしてですかと聞くと、どのチャンネルを回しても、やれ温泉に行ったとか、免許はどうしたとか、誰が来て本をもらったとか同じ様なことばかり流れている。結局、何が起きているのか、何を伝えたいのかよく分からない、と。ノン・ポリのごくごく普通の蕎麦屋の親父さんですが、非常に的を得ている指摘だと思います。
 政府が認定した拉致被害者は10件、15人。そのなかには家族会に入っていない人もいます。家族会に入っていても、たとえば今回の外務省の調査報告書の内容や5人を戻さないということ、政府に任せるということなどいろいろなテーマについては、温度差があるはずです。少なくとも僕が聞いている限りにおいては、そういう温度差があると認識しています。それがなかなか伝わらない。おかしい点の一つめは、情報が(帰国した)五人に集中して、残りの八人や家族会に入っていない方が何を考えているのか、どういうことで悩んでいるのかということが伝わってこないこと。
 二つめは、メディアスクラムを防止するということで、現場ではいろいろな申し合わせや合意事項によって、代表取材をしています。今まで事件の被害者や加害者、事故の被害者に取材が殺到してトラブルになったことから、メディアスクラムという集団的加熱取材をなくそうという趣旨は非常に理解します。
 ところが、ここまでやるかと思ったのは、北朝鮮の核の開発が分かった、というとき、(拉致被害者)本人にはなかなか聞けないだろうけれども、本人と接触している同窓生や関係者に北の核の問題について何か言っていませんでしたか、と聞きたくなるのは人情ですね。たまたま電話をかけた時間が深夜だったり、朝早くだったりして取材マナーという意味では問題があったかもしれません。でもそれさえもするなということになったり、規制線をちょっと超えて中継車が入っただけで、どうなっているんだということになったり、ある家族の所には、小泉首相の北朝鮮訪問前からずっとそこに入り込んで取材をしているディレクターがいると聞いていましたが、それもゼロからのスタートにしてしまう。
 そういうかたちで手足を縛られる。じゃぁ、どういう多角的な取材ができるのか、ということを考えた方がいいと思います。たまたま、ある被害者が同窓会に出てカラオケで歌った。その映像を流したらメディアスクラム防止の上で問題だから、けしからんという。蕎麦屋の親父さんじゃないけれど、どこのチャンネル回しても似たり寄ったりだ。量はいっぱい出てきているけれど何を伝えたいの? ということになります。そういう普通の感覚を、僕らも取材者である一方で生活者である、ということをきちんと認識した方がいいのではないかと思います。
 先ほど、歴史的な視点という指摘がありましたが、タテとヨコで考えるというのでしょうか。タテは歴史的な視点。ヨコは日朝間の問題というのは、拉致問題は非常に大きな問題ですし、例えば自分の子どもが25年間どこかに行っちゃったという時、自分はどうなるんだろう、発狂するのではないかとも思います。けれども拉致問題だけではなくて、核ミサイル、工作船の問題、金正日体制の下での難民の問題、過去の強制連行、創氏改名、在日の社会保障の無年金の問題などのテーマについて、多角的に報道すべきが、全然そういうことがない。ますます、一点集中、全面突破で全面展開だったらいいのですが、一点集中、全面それだけということになっているのではないでしょうか。
 非常に危惧するのは、取材する側も歴史は本で習ったけれど、現在の拉致とどうつながっているのか、ということがどこまで分かっているのか。僕もたいした勉強はしていませんが、少なくともそういう視点で、自分は何を伝えようとしているのだろう、どう伝えようとしているのかはいろいろ考えているけれど、何を伝えようとしているのかをきちんと考えないととんでもない過ちを犯すのではないかという気がします。特にテレビの場合は、何百万、何千万人が見ているわけですから。
 (『週刊金曜日』による曽我ひとみさんのご家族へのインタビューについては)インタビューした記事さえも読まないで、きっとフジテレビと一緒だろうという電話がかかってくるような話も聞きました。そんなことでいいのだろうか。そういう意味も含めて冷静に多角的にというと、また後ろから矢が飛んできそうですが、ぜひ、皆さんと一緒にそういう報道のあり方を考えていった方がいいのではないか、と思っています。

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