アクト
[HOME]

 act@jca.apc.org

[ACT新聞社の紹介]
[最新号]
[バックナンバー]
[記事検索]
[募集]
[お申し込み]
[“緑”のページ]
[リンク集]


貧乏記者のアフガン現地ルポC  (7月8日号/173号)

NGOは何をすべきなのか?

  前回に引き続き、ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)の根木佳織さんの話からNGO活動の実際と課題についてさらに考えてみたい。

一人取り残され事務所を立ち上げ

 なだれ込むドルがアフガン社会を歪めている、と前回書いたが、実は日本のNGOが潤沢な資金を使えるようになったのは今回のアフガニスタンから。ジャパンプラットフォームという政府補助金の受け皿ができたからだ。初動資金として5億円が日本政府から提供された。そしてフレキシブルで大きな金を得ることで緊急援助では日本のNGOも大いに活躍することができた。「国連の関係者が『今回はどうして日本が初動から出てきているのか? 何かあったのか?』と聞くので、ジャパンプラットフォームの枠組みを説明すると、『今後もぜひそうすべきだ』と言うんです」(根木さん)
 欧米に「10年遅れている」といわれていた日本のNGOも、やっとその経済力に見合うほどに成長した、と喜ぶべきなのだろうか。
 根木さんは昨年末、援助物資を積んだトラック10台を率いて一人トルクメニスタンからアフガン北部へ向かった。すでに国連関係者はクリスマスホリデーで全員帰国していた。「国境まで来たとき、私はロジ担(補給担当)だったので、これで帰れるものと思い、衛星電話でマザリシャリフにいたPWJの責任者に連絡を取ると、『そこまで来たんなら入ってこい』と言われました。忘れもしないクリスマスイブの日です」
 国境で荷物を積み替え、轍がついているだけで道とは呼べない砂漠を横切って、人が歩くくらいの早さでマザリシャリフへ向かった。しかしマザリへ着いてホッとしたのも束の間、責任者は根木さんに事務所を立ち上げるように指示し、カブールへ引き上げてしまった。
 「後にも先にもあのときだけは本気で、ピースウィンズをやめてやるって思いましたね」。電気もガスも水道もない凍てつく街に残された根木さんは、1人で家探しから始めて事務所を立ち上げた。そして2ヵ月後、北部での事業が円滑になり始めたころ、カブールへ着任した。

真新しい机に書かれた落書き


 カブール市第6区は、60万人近いハザラ人が住む市内でもっとも貧しい地域で、10年に及ぶ内戦で街並みの大半が破壊された。PWJはここを中心に学校の修復と再建を手がけている。現在4校が立ち上がり、7000人近い子供たちが学んでいる。しかし2000人ほどのキャパシティーしかないところに3倍以上が登校してくるので、授業は3部制(1日に3回入れ替わる)で、それでも教室に入りきれずに、子どもたちは青空教室、廊下、コンテナを利用した仮教室で学習している。
 修復・再建工事ではなるべく地元校区の労働者や業者を使うようにしている。「日本のNGOがやるのだからもっといいものを建てろ」といった声もあるが、これから先、地域の人びとの手でメンテや修復できなければならないと思うからだ。それでも最低限、口を出さなければならないこともある。それがドナー(寄金提供者)や受益者への責任なのだ。「工事現場で学校側や施工業者とガンガンやりあったこともあります。それを女生徒たちが見ていたので、すこし自重した方がいいかなと思って、後でスタッフに意見を求めたら、子どもたちが『女が校長や現場監督と互角に渡り合っている。私たちもああなれるかも』って言ったというの。なんだか嬉しかった」(根木さん)
 机が搬入されたばかりの教室を見て回っていたときのこと。あちらこちらの真新しい机にもう落書きされている。根木さんが顔が曇った。「もう少し大事に使うように子どもたちに注意してもらえませんか」
 すこしだけ口調がきつくなり、案内役の校長はすまなさそうにしている。この机は、盤面に緩やかな傾斜をつけ、鉛筆が転げないような溝や机の下に道具を置く棚をつけるなど、スタッフや学校側と相談しながらデザインに工夫を凝らし、地域の木工所で作ってもらったものだ。がっかりする気持ちもわかる。
 私は、そのペルシャ語が気になって、なんと書かれているのか通訳にひとつひとつ訳してもらった。すると、「私の名前はアティファ(女の子の名)」、「この机は私のもの」などと書かれている。それを聞いて、根木さんの顔が輝いた。「可愛いいっ!」。
 ここは小学校1年生が使っているクラス。真新しい机、覚えたばかりの字、子どもたちの浮き立つ気持ちが伝わってくるようだ。

 
[青空学校で元気に学ぶ子どもたち]
                     
                    

社会事業・女性支援を“急ぐ必要はない”


  イスラムの教えやイスラム社会の習慣をよく知ることがここでのプロジェクトにとって重要だ、と根木さんは強調する。「世界の人口の1/3、14億人ものイスラム教徒がいるのはなぜでしょう。コーランを読んでいて思うのは、イスラム教ほど明解でわかりやすく納得でき、かつ生活に密着している宗教はないということです。私たちはイスラムを怖いと思ったり、女性を抑圧しているというイメージで見がちですが、実際はそんな単純なことではないのです。だからイスラムをよく理解せず拙速に事を進めると後で必ず歪みがでてきます」
 インフラ整備はともかく、社会事業、女性支援事業は「急ぐ必要はない」と彼女は言い切る。人びとに寄り添いながらニーズを探り、地域の力を活かして事業を進め、彼女、彼ら自身の手で社会を変えていけばよいという立場だ。
 そうは言っても彼女の身にはさまざまな難問が日々降りかかる。たとえばローカルNGOなどの場合、品質の落ちるものや中古を使って節約した分を自分たちの利益にしようとするところも多い。そうしたNGOがカブールでは雨後の筍のように出てきている。「計画提案だけ請け負う会社もあって、完璧な英文で非の打ち所のない書面を出してきたNGOと会ってみたらまともに英語がしゃべれる人が1人もいなかったということもありました」
 PWJカブール事務所のスタッフ15人は根木さんをのぞいて全員年上の男性でほとんどが妻帯者。スタッフを動かすことにも結構気を使う。
 よくやるなあ、よく勉強しているなあ、よく考えているなあ――彼女の話を聞きながら、プロジェクトを実際に見せてもらいながら、私は心から感心していた。そして彼女は別れ際にこう言った。「こんなにつらくてこんなに楽しい仕事はありません。一番難しいのはモチベーションを維持することです。モチベーションが落ちたときは身を引くしかありません。次に大事なことはいろんな感覚が狂わないようにすること。それは金銭感覚であり、モラル感であり、その国のスタンダードを理解する感覚です」

貧乏記者のアフガン現地ルポ・TOPページ  


アクト
[HOME]

 act@jca.apc.org

[ACT新聞社の紹介]
[最新号]
[バックナンバー]
[記事検索]
[募集]
[お申し込み]
[“緑”のページ]
[リンク集]