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貧乏記者のアフガン現地ルポB  (6月24日号/172号)

プロジェクト試みる
日本人女性に会う

 今回はカブールで出会った25歳の日本人女性の話です。ピースウィンズジャパン(PWJ)といえばアフガニスタン支援国際会議に出席を拒否された大西健丞氏が統括するNGO。外務省をめぐって繰り広げられた「宗男・真紀子」バトルの局面を変えたことで一躍有名になりました。カブールの日本大使館の近くにあるPWJの事務所に出かけていくと、そこには現地スタッフ14人を指揮して1人奮闘する根木佳織さんがいました。彼女の話からさらにNGOのあり方を考えてみたい。

歪められた人心

 この冬、アフガニスタン北部山岳地帯のナーリンで強い地震があった。「タイミングよく」カブールには世界の名だたるNGOが軒を連ねていたので、「それ!」とばかりにたった1日で救援物資を届けることができた。もちろん根木さんも日本政府に依頼された救援物資をトラックに積んで駆けつけた。
 「行ってみると奥地の奥地のそのまた奥地の自然の美しい村で、そこには自給自足でやってきたたくましい村人たちがいました。そこへシンガポール製の上等のマットレスとか届けたんですが、それがよかったのか。支援が入らなくても彼らは自分たちで何とか立ち直っていけたかもしれません。彼らのそういう力を壊してしまうんじゃないか。開発って何だろう、支援って何だろうって……」
 戦争や災害時の緊急支援は文字通り生きるか死ぬかのところで行なわれるものだから、その後の地域社会がどうなるかというところまでは目配りしにくい。しかしパッときてばらまいてパッと帰った後に残してしまうしこりはたくさんある。
 タリバン政権崩壊後、堰を切ったように入ってきた国連機関、NGO、報道機関。押し寄せる欧米文化と大量のドルで、アフガン社会には歪みが生じつつある。
 たとえば家賃の高騰。PMSがカブール市内一等地にタリバン時代から借りていた事務所の家賃は月約35ドルだったが3000ドルに値上げすると言われこの1月事務所をたたんだ。今は月250ドルの建物に移っている。9・11テロ事件前まで月500ドルで借りていたイギリスのセーブザチルドレンも6000ドルに値上げすると言われ移転した。日本大使館周辺に事務所を持つ日本の主だったNGOやGO(JICA)はいずれも3000ドルから10000ドル近い家賃を払っている。中には地元NGOへのロジスティックス(補給)のためだけに事務所を構えているところさえある。
 生活物資の値段も高い。PMSでは貧しい女性のための職業訓練プロジェクトとして3月から縫製・識字教室をカブールで始めた。しかし服地の仕入れ値がパキスタンの3倍もするのでわざわざペシャワールで買って運んでいる。さらに人件費。じっくりと育ててきたスタッフを引き抜かれて悔しい思いをしているところは多い。
 そして何より問題なのは、援助の垂れ流しを続けることでアフガニスタンの人びとの心を歪めてしまうことだ。ハザラ人の政府関係者からはこんな声すら出ている。「今までハザラ族は社会の最下層にあっても他人にすがることなく、努力して生きてきた。しかし、今や国連などの援助により、われわれはスポイルされている。待っていれば援助が来るとわかり、細々とした田舎での手工業もなくなり、われわれは家畜と同じになっている。われわれが自立していけるための援助を考えてほしい」

本当の支援ってなに?


 根木さんはカブールのハザラ人地区で未亡人を対象にした養鶏プロジェクトと識字教室をこの五月から始めた。当初予算はそれぞれ1800ドル(対象30人)と2400ドル(同60人)。「大向こう受けする」緊急援助や、「絵になる」学校再建プロジェクトなどに比べればささやかだ。しかしアフガンの社会と女性のあり方を考えた末に踏み切った。
 養鶏は比較的リスクが少なく女性が外出しなくても敷地内で飼育できることに注目した。識字は薬の処方箋や食品表示などを「読む」ことに重点を置いた独自のテキストを使う。欧米的な価値観に立って女性の権利意識を説いたり職業訓練を施したりといったものとは違う。「いますぐ変える必要のないこと、無理に変えるとよくないこと、変えようとしても変わらないこともあります。日本でも、たとえば女の私がここにこうしていて誰も驚かなくなるまで五十年かかったんですから」
 避妊が禁じられ、結婚して子供をたくさん産むことが幸せという価値観のなかで、10代後半から生理があがるまで産み続ける女性に「体がしんどい時期には生まないでいられる知識」を授けること。妊娠中は外出できないという慣習のなかで運動不足やストレスをどう解消していくかという知恵。自力出産が原則のなかで難産の時にどう母子の安全をはかるか。
 アフガン社会の伝統のなかに生きる女性たちに寄り添いつつ、女性たちの負担を軽減するようなプロジェクトを考えたい、と彼女は言う。 [この項、次回につづく]


 
[再建された学校で子どもたちと話す根木さん]
                     
                    

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