アクト
[HOME]

 act@jca.apc.org

[ACT新聞社の紹介]
[最新号]
[バックナンバー]
[記事検索]
[募集]
[お申し込み]
[“緑”のページ]
[リンク集]


貧乏記者のアフガン現地ルポA  (6月10日号/171号)

砂漠のなかのトイレ

 編集部から「アフガニスタンに入った最も貧しいジャーナリスト」と紹介されてしまった新島です。しかし私としてはこう自己紹介したかった。「W杯日本代表中もっとも腰の低いミッドフィルダーは森島。アフガンでもっとも腰の低いジャーナリストはオレです」と。それは、カネがないから安宿に泊まり、近いところなら歩く、遠くへは庶民の足の乗合自動車で出かける、その結果いやでも視線が低くなる、という意味。引き続き、庶民の視線からのアフガンルポをお届けします。

利権の残骸

 アフガニスタン東部、ニンガルハル州ソルフロッド郡の砂漠の中にその2つの建物はあった。
 階段を数段のぼって入口から中をのぞくと、それはアフガン風の高床式トイレに違いなかった。誰が何のためにこんなところにトイレをつくったのか? 外壁には「RRD」、「UNICEF」と大書されいる。つまりユニセフから資金提供を受け、アフガニスタンの地方再建局(Rural Rehabilitation Department)がつくったものである。
 村人に聞くと4〜5年前につくられたもので、敷地の一方は現在ジャララバードに住んでいる人の所有で、もう一方の地主は難民としてパキスタンにいるという。2家族とも貧しくて家が建てられなかったのだそうだ。この地域は昨年まで3年続いた干ばつがもっともひどかった地域で、多くの難民、国内避難民が出た。
 ユニセフの担当者は、「トイレは環境衛生プロジェクトとしてつくったものだが、RRDの担当者の衛生知識が乏しいためにそうなったのではないか」と語った。しかし、現地の関係者は「カネを引き出すためにとにかくつくる必要があった」と証言する。ニーズより先にプロジェクトがあり、動き出したら止められず、利権化している。どこかの国の公共事業の話ではない。
[砂漠の中にポツンと建つトイレ]

“自分で直せ”


 この地域には多数の国連機関や各国NGOが事務所を構えている。GAA(ドイツ)、DACAAR(デンマーク)、SCA(スェーデン)といった有名NGO、そしてPMS(ペシャワール会医療サービス)も2年前からこの地で井戸掘りを始めた。
 州内にはNGOが掘った井戸が随所にあり、その多くが涸れている。ほとんどが1990年代半ば以降に掘られ、2〜3年前に涸れた。上部のコンクリート部分に掘った外国NGOの名前や資金を提供したユニセフの名前などが誇らしげに刻まれているが、3年前から始まった未曾有の大干ばつにこれらの井戸は何の役にも立たなかったわけだ。
 ダンド村のナクシバンさんは「何度もGAAの事務所へ行って井戸を深くするようお願いした。それで3回ほど調べにきたが結局『修復できない』と言われた」という。そして、どうしてもというなら資金の負担を要求されたそうだ。見て回ったほとんどすべての涸れ井戸周辺住民からほぼ同じ答えが返ってきた。
 GAAの現地責任者、ステファン・レッカー氏にこの点を質した。「私たちは『オーナーシップ』という考えに基づいており、涸れたら自ら直してもらわねばなりません。私たちはサンタクロースではない。ビッグプレゼントをすればいいとは思いません」
 住民の自己決定・自己責任が原則だというのだ。その「修復不能」の井戸から20メートルほどのところでPMSが掘った井戸が満々と水をたたえている。なぜ外国NGOの井戸は修復できないのか、PMSの井戸掘り事業で陣頭指揮をとってきた蓮岡修さんはこう語る。「外国NGOの井戸は底までリング(円筒形のコンクリート製井戸壁)を入れたり機械掘りだったりするため、涸れたら再掘がきわめて難しい。私たちは『井戸は涸れる』ということを前提にして掘っています」
 別のNGOだが、ポンプを設置してから3ヵ月で涸れた井戸もあったそうだ

国連の下請けとなったNGO

 蓮岡さんは「西洋人の援助は横暴だ」と感じるという。住民の視線に降りることなく、どこまでも「世界基準」を押し通そうとする。合理的で論理的でキレイだが、そこから実際には何が生まれるんだと思う。「多くのNGOの場合、住民のニーズに応えようという姿勢より、自分たちの都合が先にあるんです。私たちは困っている人と顔をつきあわせています。それは自己責任だとかで手際よく解決できるものではありません」
 干ばつで村を捨てるかいなかの瀬戸際の中、1年に600本以上の井戸掘りに着手するには村人を動員した手掘りでないと無理。ある程度まで掘り進んだら掘り出した土を口に含む。くさい臭いがしたらまだまだ、砂が混じりはじめたら水脈に近い証拠、「もう少しだ、がんばれ」と声をかける。そうして住民と一緒に井戸を掘ってきた。「私たちがつくろうとしているのは村のリハビリシステム。人の心のメンテナンスほど難しいものはありません」(蓮岡さん)
 PMSの中村哲医師は「本当のニーズを下から探るのがNGOの仕事」という。しかし多くのNGOが国連の下請けのようになり、真のニーズからかけ離れた活動をしている。世界中から莫大なカネがアフガンになだれ込んでいるが、10年前と同じように再び「アフガンの砂漠に吸い込まれるように消える」(中村医師)のだろうか。
 
[PMSの井戸。塀の間から見えるのはGAAが掘った涸れ井戸]
                     

貧乏記者のアフガン現地ルポ・TOPページ  


アクト
[HOME]

 act@jca.apc.org

[ACT新聞社の紹介]
[最新号]
[バックナンバー]
[記事検索]
[募集]
[お申し込み]
[“緑”のページ]
[リンク集]