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西陣分校スタート
2000年末から始めた京都ものづくり塾西陣プロジェクトは2003年、新しい展開を見せる。
西陣の機屋に生まれ育ちながら、製織工程以外の西陣織に関してはなにも知らなかった私。文献を調べようにも、その全容を説明する資料はほとんどなかった。一部のホームページで概観は書かれているが、それを生業とする人たちの思いも息づかいも聞こえてくるものではなかった。なぜ、西陣が栄華の時代を築き、現在低迷し続けているのかを知ることはできなかった。

説明する本がないなら、自分でそれをつくろう!と意気込み、自分で西陣織の各工程の工房を訪れ、生の情報を収集したのが2001年のことである。心ある職人さん方のおかげで、さまざまな工程を勉強をさせていただくことができた。見学先件数は10件近くに及び、それらのすべてを職人列伝のホームページで掲載してきた。そこには、糸に関わる仕事「それしか知らない」職人さんたちの誇りと思いと暮らしを表現することができた。自分が勉強するとともに、Web に掲載することで、その足跡を残すことができた。

職人さんが高齢化し、機械化や中国に押され、元気のない職人さんの姿が目立ったように感じらられた。
「わしがなんとか食っていければそれで...」
西陣が低迷するのも無理はない。その工程をすることしか知らなかったわけだから、今更新しいことをする元気もない。先行きは細る一方、これでは妻子供を食べさせることもできないので、自分の子供つがせようともしない。これでは、10年後の西陣はあるのか?不安で仕方がない。

今、この街を元気にするためにできることはないだろうか?多くの人の知恵を借りて、議論する場がほしかった。そこで、2002年にかけて取り組んだのはものづくり西陣会議だ。西陣に住みながら、西陣のことを知らない人は私だけではい。学生さん、その他の仕事をしている方も多い。他にも文化を求めてくる他の地域の人などが集まり、西陣の職人さんとともに、西陣の現状認識と、その低迷の原因を改めて分析した。それで初めて見えてくることもあった。それぞれの人たちに思いを語っていただいた。意見交換することで、参加者のみなさんに深く西陣を理解していただけた。

そして迎えた2003年。
西陣で新しいビジネスを立ち上げるほどの器量もない。自分が淡々と織ることもできない。自分には、生業としてそれを受け継ぐ環境が用意できない。でも、西陣の職人さんがかけがえのない技術と文化を担っていきたい。それを今のうちに形に残さなければ、消えてなくなってしまう。どうやって受け継ぐか。自分の立場で何ができるかを考え、できた企画が西陣の四季を味わう2003だ。西陣が長年にわたって蓄積してきた知と文化を少しでも多くの人と学ぶリアルの場を設けることにした。幸い、元小学校という昭和中期のたたずまいの格好の場で、学校形式で勉強することができる。ビジネスはできないが、西陣の暮らしぶりを受け継ぐことはできる。そこには、今にも通ずる精神性が宿っているはず。

西陣に培われた季節感とそれに根ざしたものづくりは、職住一体となって産業を支えてきた西陣の精神性そのものであると思う。そこで実際に職人さんをお招きし、ものづくりを通した生き方をじかに伝えていただくことで、文化の継承の一翼を担えればと思う。今年の企画は、私にとっては、「こうやって生きていく」ことをプレゼンテーションすることと等価である。こうして人に自分の姿をさらし、自分を試すとともに、自分を形作っていく。

まず、1回目には早春の季節に、北野天満宮の梅で梅染めをされてる山本晃氏(梅染研究所)をお招きした。山本氏が梅染めに至ったストーリー、ならびにそれを通じた自然観をお話しいただいた。最後に、北野天満宮の梅苑にお店をだされている有職菓子「老松」さんの「梅酒羹」と梅のお茶をみなさんに味わっていただいた。リアルの場でお話と作品と食とで、五感を使って西陣の早春を味わっていただくことができた。第1回終了後、多くの方からのお礼のメールをいただいた。今までにものづくり塾の企画で経験したことのない反響だった。綿密に準備を進め、参加者のみなさまを心を込めてもてなすことで、その思いが伝えられたように感じた。手は抜けない。

そして、次回、春の節へと歩みを進める。 次回のゲストは写真家の松尾弘子氏だ。西陣に彼女のことを知らない人はいない。西陣織工業組合の広報誌「西陣グラフ」の写真を35年間撮り続け、退職後、1999年にはその集大成ともいうべき写真集「京・西陣」を出版。現在はフリーとして活躍中である。先だって、松尾氏とお会いする機会を持てた。ファインダー越しに西陣を見ることを生業としてきた彼女も、壊れていく西陣を憂えている人のひとりであることがよくわかった。まち全体でものづくりをしていた頃の西陣見てきた彼女の言葉は誰よりも重く、説得力がある。どのような講演になるか、期待は膨らむ。
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2003.3.21.