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『一坪反戦通信』
毎月1回 28日発行 一部200円 定期購読料 年2,000円
 第172号(2005年10月28日発行)

新刊紹介

高良勉『沖縄生活誌』

岩波書店、2005年8月刊

混沌と矛盾に満ちた現実

 インターネットや携帯電話で、知りたい情報の入手、親しい人達との連絡は簡単になった。那覇・羽田間の空の便は1日20本以上が往復し、夏期には深夜便も登場、8割を越す乗車率と聞く。スーパーでは千葉産のにがうりがゴーヤーチャンプルの作り方と一緒に置かれ、新聞には控えめだが、米軍再編成の協議について記事が載る(沖縄の県内移設に対する強い抗議は十分に伝えられないが)。

 しかし、「まえがき」で著者が書いているように、「癒しの島」「基地問題の島」「日本の古層文化を残す島」等々、沖縄にまとわされたイメージはとても強烈で、東京で暮らしていると、沖縄に暮らす人々の生活感覚・実感を置き去りにしてイメージが乱反射し、それぞれの言説・問題が照射している実態を結びつけることなく、増殖しているような気がする。

 本著は、そうした沖縄イメージや沖縄理解に絶えず違和感を抱いてきた著者が、「沖縄での1年間の日常を通して、沖縄に住む私(たち)が何を体験し、何を考えて生きているのか。そして、何十年、何百年と繰り返してきた生活の中から何が見えてくるのか。記録し対象化してみよう」として生まれた。

 それだけに、項目は多岐にわたる。著者と家族の生活と個人史が重なり合いながら、いろいろな像を結ぶ。正月、鬼餅(*)、浜下り、清明(**)、ハーリー、お盆、観月、カジマヤー、神拝などの家族や親族・共同体を中心とする行事。豚、チャンプルー、スク、サトウキビといった自然の恵みを労働によって加工していく食文化の様子。「をなり神」としての長姉をはじめ、1950年代から今までの女性たちの日常、生活の姿。著者自身の詩の他にも山之口貘(***)はもちろん、多くの作家・詩人が紹介され、琉球舞踏、沖縄芝居についても取り上げられる。

 同時に、沖縄の基地問題が、被害の実態とそれに対する運動の歴史としてまとめられ、沖縄戦とその記録・継承の活動、60年代後半から70年代に著者が経験した日本復帰と学生運動、反CTS闘争、一坪反戦地主会、八重山—白保の海と暮らしを守る運動、アイヌ民族との交流、東アジアの人権と平和のシンポジウムなど、多彩に説明されている。

 こうした幅広い活動と生活全体について、著者自身、「混沌と矛盾に満ちた」と指摘しているが、それは沖縄に生きる著者の置かれている「現実」であり、「目をそらしたり、逃げ出すわけにはいきません」と明言する。

 読み終わって、その強さと向き合おうと、自分自身の生活誌を考えずにはいられない。また、沖縄に関心を持ち始めた人達に、琉球弧の歴史・社会文化の広がりを伝えたい。巷に流布する沖縄イメージに翻弄されずに、もっと深く考え、知り合うきっかけとして、役立てたい本だと思う。

(会員 M)


  *鬼餅(おにもち)=ムーチー。旧暦12月8日に食べる餅。
 **清明(しーみー)=旧暦3月の祖先供養行事。清明祭。
***山之口獏(やまのぐち・ばく)=詩人。1903年〜1963年。