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『一坪反戦通信』
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 第168号(2005年6月28日発行)

新刊紹介

沖国大がアメリカに占領された日

8・13米軍ヘリ墜落事件から見えてきた沖縄/日本の構図

黒澤亜里子編


 2004年8月13日、沖国大に米軍ヘリが墜落してから10ヶ月が経つ。

 米軍による不当な大学構内の占拠、墜落の物質的証拠隠滅、有毒なストロンチウム90の放射能汚染調査。米軍と協調して現場封鎖・報道規制を行った警察、緊急に上京し面会を求めた県知事に会おうともしない首相、あまりに小さな扱いしかしない沖縄外のマスコミ、補償業務に奔走し事故被害を跡形もなく消し去っていった防衛施設局。そして、墜落現場の「壁」を、「記憶の場」として保存しようという教職員・学生・市民の声を聞こうとせず、「大学機能の回復」に焦って、取り壊しを決定していく大学執行部。

 この本は、米軍を頂点とする沖縄の支配構造が剥き出しとなった今回の一連の事件に、真摯に向き合い、軍事主義・暴力に抗する思考を紡ぎ出そうとしている多くの人々の論考を集約している。

 実に総勢35人の執筆者が、それぞれの視点から事件をとらえ、論じている。内容は、個人的な経験から、心理学・物理学・政治学・経済学・歴史学・文学・思想・哲学などの専門性を活かした事件の分析、と多岐にわたる。

 一つ一つ独創的な考察でありながら、同時に有機的につながり結ばれている。それは各自が、「武力/暴力によってねじ伏せられることへの屈辱と嫌悪」という個人的な「感覚」を、それぞれの場所で内省し、「当事者」として沈思しているためだろう。

 PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状に悩まされながら、「もはや『8月13日以前』の日常には戻れない」、「ヘリの音はもう日常ではない」と言う沖国大の教職員たち。

 編者でもある黒澤氏は、「「危機管理」や「安全保障」という抽象的な言葉やイメージに踊らされているうちに、「管理」され、「統制」されているのは他ならぬ自分の身体だったということにもなりかねない」と述べる。

 「等身大の感覚の大切さ」という指摘は、政治や経済、またメディアによって誤魔化されている沖縄の「政治的見殺し」(新城郁夫氏)が、まさに個人の「身体レベルの問題」、生命体・皮膚感覚から問われている事態であり、そして同時に各自が個としてこの巨大な軍事支配に対峙していることに気づき、その生々しさに耐えて抗っていることを示しているように思う。

 壁を見ると涙や震えを止められないと言いながら、署名活動や共同体の祭りに主体的に関わっていく学生たちの姿は、「現場に居合わせた責任」、「現場」を意識した動きの持つ力を表しているだろう。事件をめぐる人々の体験、事実の検証から、それにつながる思想・政治・経済の分析が続き、沖縄の現在・米軍再編成を考える視点、軍事主義・暴力と向き合うこと、その方法・工夫など、さまざまな思考への展開が導かれるように思う。

 事件後8ヶ月足らずのうちに、このような本として問題を問い続ける形が表されたこと、執筆・編集に関わった人たちへ敬意を表したい。無自覚のうちに私たちが「銃口」のどこに立っているのか、「他者の苦痛への開かれた想像力を失い、無知と無関心という傲慢な共犯性の中に身を横たえる」ことの恐ろしさを、多くの人に知ってほしい。

(MA)