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『一坪反戦通信』
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 第162号(2004年11月28日発行)

米大統領選挙と辺野古


新崎 盛暉


 米大統領選の結果を、『一坪反戦通信』の読者の皆さんは、どう捉えているだろうか。悲憤慷慨、切歯扼腕、といったところだろうか。それとも、どうせこんなもんさ、とシニカルに眺めているのだろうか。わたしはといえば、後者に近いが、できればケリーが当選してくれれば、という思いはあった。ケリーが勝ったからといって、アメリカの軍事外交政策が根本的に代わることはありえないまでも、世界的な(韓国やヨーロッパでは大多数を占める)反ブッシュの世論を勇気付けることにはなったはずだからである。

 だがそうはならなかった。アメリカ国民は、誤りを認めて軌道修正し、国際世論との協調路線を選択するよりも、国家の面子を重んじ、独善的に自らの利益を追求する途を選んだ。かくしてアメリカ(そして超大国の動向の巻き添えをくわざるを得ない人類)は、破滅へ向かってさらに大きく一歩踏み込むことになった。選挙結果を見定めるかのように、米軍は、イラク・ファルージャへの大攻勢を再開した。

 前回の大統領選でブッシュは、獲得投票総数では民主党のゴアに敗れながら、州ごとに多数票獲得者が選挙人すべてを総取りするという奇妙な制度のおかげで、しかもマイノリティーの有権者排除や疑問票の扱いに関する裁判所の判断に助けられて、ようやく大統領の座を獲得した。

 だが今回は、一般投票総数の五一%を得た。もう一つ注目すべきは、前回二・七%の得票を得て、ゴアの票を食ったと批判された左派のラルフ・ネーダーの得票率が〇・三%にとどまったことである。前回、ブッシュが五三七票差で勝ったとされたフロリダで、ネーダーは約十万票を得ていたが、今回はその三分の一で、ブッシュとケリーの差三八万票に影響を与えることはなかった。

 見方を変えれば、これは、韓国の大統領選挙で、民主労働党の支持票が最終段階で盧武鉉を押し上げたといわれる現象に似ている。だがアメリカでは、ネーダー支持者がケリーへ票を投じてもなお、ブッシュに遠く及ばなかった。ここに事態の深刻さがある。

 アメリカ大統領選挙は、テレビを舞台とした巨大なショーである。そこでは政策論争よりも、効果的なテレビ映りを競う演出が重視される。裏では、「結果良ければすべて良し」とばかりに、相手候補への誹謗中傷を交えたネガティヴキャンペーンが繰り広げられる。陰謀・策略の類も飛び交う。投票直前にテレビで放映された「ビンラディンのビデオ声明」もその一つだ。日本のマスメディアが、九・一一を認めたとして、いっせいに「ビンラディン氏」から「ビンラディン容疑者」に呼びかえるようになったこのビデオの登場も謎に包まれている。

 わたしが若い頃、「十二人の怒れる男たち」というアメリカ映画があった。陪審員のほとんどが被告人の有罪を当然視している中で、ただ一人これを疑問視する者がいた。真実を求めて、長時間にわたる議論が続けられる。その討論の過程で、一人また一人と、最初の問題提起者に同調する者が出てくる。ついに陪審員たちは、全員一致で無罪の評決を下す。いわば民主主義にとって大切なものは多数決という結果ではなく、そこに至るプロセスである、という民主主義の理念を描いた映画である。

 皮肉なことにこの映画が作られた頃から、アメリカ大統領選挙は、巨大なショーと化しつつあった。今回の大統領選挙は、アメリカ型民主主義の爛熟・崩壊・衆愚政治化を示すものともいえるだろう。

 ブッシュは選挙の最中、しばしば盟友(といっても対等に扱っているわけではない)小泉に言及し、選挙直後のブレア英首相との会談後の記者会見でもわざわざ小泉を引き合いに出した。ブッシュいわく。
 「民主主義国どうしは戦争をしない」、「最も親密に仕事をする一人が私の友人小泉首相だ」、「彼が味方
なのは、日本に民主主義が定着したからだ」。

 小泉もまたブッシュとの相互信頼関係を誇示している。そして驚いたことに、米大統領選挙後のNHKの世論調査では、小泉内閣の支持率が五四%にまで伸びたという。この国の国民もまた、ブッシュのアメリカに地獄の底までついて行くつもりだろうか。

 ブッシュ政権の継続によって、日米間では、在日米軍再編、言い換えれば日米の軍事的一体化を目指す協議が加速されることになるだろう。九月二十一日の日米首脳会談以後、小泉が急に「沖縄の負担軽減」を口にし始めたことはその前触れである。しかし、米軍再編は、あくまで米軍の戦略的必要性からなされるのであって、「沖縄の負担軽減」のためになされるわけではない。

 十五年先にしか完成しない辺野古の新基地建設は、もはや彼らにとっても、必ずしも最優先の課題ではなくなりつつある。それでも彼らは、阻止闘争に屈するかたちでこれを撤回するわけにはいかない。そうなれば反基地闘争に弾みをつけ、米軍再編の障害になるからである。日米両政府は、新基地建設阻止闘争を挫折させ、反基地闘争を弱体化させるためにも、また、稲嶺知事や岸本市長の支持基盤である基地建設推進派を納得させるためにも、当面、既定方針を推し進めようとするだろう。

 だがそれは逆に、辺野古の新基地建設阻止闘争の重要性を浮き彫りにする。わたしたちは、普天間基地即時閉鎖・早期返還・辺野古新基地建設阻止を一体のものとして要求し続けなければならない。

 世界的にみれば、反米、反ブッシュの世論はますます増大しつつある。ブッシュ政権の支持基盤である宗教右派、ネオコン、財界等富裕層の間の矛盾も深まりつつある。流動化する状況の中で、わたしたちが、ブッシュや小泉の道連れにされることを防ぐ道はまだ残されている。