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『一坪反戦通信』
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 第150号(2003年10月28日発行)

基地撤去は「経済」的にマイナスか?

来間泰男氏の批判に再び答える

(ま)=丸山和夫

 再び、来間氏への反論を試みる。しばらく間があいてしまったことを来間氏と読者に深くお詫びする。

 さて、来間氏は主要な論点をまとめた部分で、まず次のように書いている(本誌第一四七号)。

……丸山氏は初めには「基地撤去が経済的にマイナスになる」ことを認めた。そのことに「議論の余地はない」と。しかし、基地が撤去されたら、その経済的マイナスを補う「潜在的要素」があるかといえば、「私[丸山氏]はあると思う」として、一定の論証をした上で、「これでも基地を撤去したら・金銭的にはマイナス・になるのであろうか」と結論を逆転させた。(下線丸山)

 きちんと読んでもらえれば誤解の余地はないはずだが、「結論を逆転させ」てはいない。基地撤去に関わるプラス・マイナスを秤にかけるために、論証の前段として、軍用地料・交付金などがなくなるから、その部分は金銭的にマイナスだとした。もちろん結論ではない。次に後段で、プラスとなりうる(潜在的)部分を議論し、差し引きすると基地撤去はプラスという結論を導いたわけである。

 その後段部分の論証は、ごく簡単にまとめると、「基地の占有面積(県全体で一〇%、本島で二〇%)に比べて、そこから得られる収入は不当に低い(県民総所得の五%)、つまり基地の存在は沖縄の経済にとってマイナス要因である。従って、基地撤去は沖縄経済にとって総計ではプラスになる」という論理であった。

 来間氏が「県民所得は土地面積に比例するものではなく、すべての経済活動の結果である」と書くように、右記の論証は大雑把なものだ。それは、一つには、(何度も云うように)、単純な金の動きでは基地撤去がマイナスとしても、基地の「社会的費用」を勘案した全体で考えた場合、経済的効果はプラスになると考えていること。また、土地返還が、即、収入や雇用に繋がらないことは自明であって、それ故、プラスになる潜在的要素ではあるが、やり方を誤れば、マイナスになる可能性も否定できないと考えたこと。さらに、土地の利用形態(山林・農地・都市など)によって、そこから得られる所得は異なるとしても、以下に述べるように、在沖米軍基地の所有形態の特殊性のために結論はあまり変わらないからである。

 面積比と所得比は対応しあうものではない。山林の所得獲得力が、農地より低く、ましてや都市的土地利用と比べて大きく落ちることは自明である。したがって、丸山氏の示す数字は、基地の多くが山林に設定されているにもかかわらず、標準よりはるかに高い所得を獲得できている現実を示すものなのである。これは、基地が返還されたらもっと多くの所得を獲得できることを示しているのではなく、その逆である。

として、来間氏は私の論理は間違いだとした。
 「面積比と所得比は対応しあうものではない」のは確かだ。だから、私の前回の議論では、「潜在的要素」としたのである。所得獲得力において、山林が農地より劣り、都市的利用よりさらに劣ることは自明だろうか。一般的にはそうだろう。しかし、必ずしもそうではない。「基地が返還されたらもっと多くの所得を獲得できることを示しているのではなく、その逆である」かどうか、具体的に検証してみよう。


沖縄の米軍基地の七〇%近くは北部の山林に設定されている。

と来間氏は書く。これは、在沖米軍基地面積(二・四三万ヘクタール)で北部にある米軍基地面積(一・六八万ヘクタール)を除したものと思われる(一・六八/二・四三=六九・一%)。正確には、「在沖米軍基地の七〇%近くが北部に設定されている」、とすべきだろう。北部がすべて山林ではないのだから。

 さて、この検証には、基地の所有形態を考慮に入れる必要がある。沖縄と本土の米軍基地の大きな違いは所有形態であると言われている。つまり、沖縄の米軍基地は本土に比べて民有地の比率が多いと。確かに、本土の米軍基地はその八七%が国有地であり、一方、在沖米軍基地は国有地・民有地・県市町村有地がそれぞれ約三割を占め、民有地の割合が高い。この傾向は中部(七六%)、南部(七三%)においては顕著である。しかし、これは北部には当てはまらない。北部では民有地の割合は一三・五%に過ぎない。

 「やんばる」地域の米軍基地の大部分を占める北部訓練場は、国頭村と東村にまたがる(計七千八百ヘクタール、在沖米軍基地の約三二%)。東村部分はすべて国有地、国頭村部分も民有地はわずか一二・六ヘクタールだ。年間賃貸料は約四・六億円(地主数七十人)。基地従業員はゼロ。両村の基地関連収入を足しても七千万円に満たない。沖縄県全体の基地収入を一八三一億円(九九年)とすると、広大な北部訓練場は、現在、沖縄経済にほとんど寄与していないことがわかる。

 名護市・宜野座村に広がるキャンプ・シュワブは民有地が四分の一で、ほとんどは名護市有地である。年間賃貸料は一六・八億円。キャンプ・ハンセンは民有地が一八%、八割近くは市町村有地である。賃貸料は五六・三億円。

 金武町(三四・七%)、宜野座村(二四・六%)、恩納村(二八・五%)などでは、歳入総額に占める基地関係収入の割合は異常に高いが、沖縄県全体の基地収入、あるいは経済規模を考えると、在沖米軍基地の七割を占めながら北部にある基地の経済的寄与度はきわめて小さいといえる。つまり、北部に関しては(山林が)「標準よりはるかに高い所得を獲得できている現実」があるとしても、それは少数の地主のわずかな土地に対してであって、絶対額としてはきわめて小さい。したがって、沖縄県全体としては、北部にある基地の返還による経済的損失はほとんど無視できるだろう。

 沖縄県は、全国に比べて第二次産業の比重が低く、第三次産業の比重が高い(県内総生産の構成比で八六・一%、二〇〇〇年)という特異な産業構造をもつ。なかでも、観光・リゾート産業を中心とするサービス業の構成比は三三・九%と全国(二四・八%)を大きく上回っている。一方、製造業は構成比五・三%(全国平均=二一・六%)。製造業が飛躍的にのびることはほとんど期待できないことから、今後も観光・リゾート産業の比重は上がることはあっても下がることはないと考えられる。そうすると、現在沖縄経済にほとんど寄与していない北部の基地が返還されることは大きな意味を持つ。特に、「やんばる」は(幸いにも)大規模な開発を免れ、天然林が広く残っている。しかも、人跡未踏の急峻な山地というわけではない。最高峰の与那覇岳でも五〇三メートル。里山のようなものだ。ほとんどが国有地であるから、国立公園として、少ない投資で、海・山の融合した魅力的な観光地となりうる。この場合、土地は最も重要な要素であろう。山林であっても、否、良質な山林であるからこそ、現在よりもはるかに高い収益が上がる可能性がある。

 次に中部の基地を検証する(南部の基地は在沖米軍基地の一%強だから、ここでは割愛)。中部の基地は在沖米軍基地の約三割を占める。県全体の約三%、本島の約六%。ここから県民所得のほぼ五%(北部・南部の基地はほとんど経済的に寄与していないので、ここでは基地収入の全部が中部とした)が基地収入として得られる。ほぼ面積に見合った収入といえるかもしれない。しかし、これは嘉手納町(八二・八%)、北谷町(五六・四%)、宜野湾市(三三・一%)など、異常な高率で都市の主要部分が占拠されている代償に見合う数字であろうか。市町村の歳入総額に占める割合(嘉手納町=二九・一%、北谷町=一三・〇%、宜野湾市=六・〇%)は面積比から考えると、はるかに少ない。「これ以上のショッピングセンターの立地を許す状況にない」のは理解できるが、「公共施設……の必要面積は限られて」おり、「住宅地も供給過剰の時代を迎えている」という部分はそのまま首肯はできない。一人あたりの都市公園面積は全国三六位、公民館数四二位、博物館数四五位、というように必ずしも沖縄県の公共施設が充実しているわけではない。また、一世帯当たりの住宅戸数は一・一三戸で、量的な面においては充足しているものの、持ち家比率は五四・三%で全国四五位、一人あたりの延べ床面積は二六平米で全国四七位、誘導居住水準以上世帯割合は三七・三%で全国四五位と質的には劣悪である。土地の返還がすべてを解決するわけではないが、都市部の土地の供給によって、かなりの改善が期待できよう。

 土地が接収されて困ったのは、戦後初期の農業中心時代のことである。そのときは困ったのであるが、そのうち軍用地料が引き上げられて事情は変わった。いまや、経済的(金銭的には)にペイするどころか、「軍用地に取られておいてよかった」というのが圧倒的多数の地主の気持なのである。

と来間氏と書く。<「軍用地に取られておいてよかった」というのが圧倒的多数の地主の気持(下線丸山)>かどうかははなはだ疑問ではあるが、働かずにある程度の金の入る状況は、多くの人間にとって手放したくないことだろう。土地返還が、即、収入や雇用に繋がらないことは自明である。軍用地料を凌駕するためには、投資や努力も必要となるだろう。もちろん、経済が右肩上がりの状況とはほど遠い現況では、かなりの危険を覚悟する必要もある。だから、若い人ならまだしも、六十歳以上の高齢者が六割を占めるという地主が「潜在的」可能性にかけるよりも、現状をある程度認めるというのは容易に理解できる。前述したように、北部訓練場では、民有地の地主七十人に対し四・六億円の借地料が払われている。平均したら一人六百万円強。毎年山林からこれだけの不労所得が得られるのだから、「取られておいてよかった」と考えても自然のことだ。しかし、個々の地主の利益と、沖縄県全体の経済的利益とは必ずしも一致しない。

 丸山氏は、基地契約を拒否する「反戦地主」が激減している現状をどうみているのか。返してもらった方が「潜在的な収入や雇用」が顕在化して、経済的(金銭的)にプラスになるのなら、多くの地主が「反戦地主」になるはずではないか。

と来間氏は問う。「反戦地主」激減の理由は、税金での不利益、血縁・地縁の圧力、細切れ返還などの嫌がらせなどが挙げられようが、それは主要因ではない。・「潜在的な収入や雇用」が顕在化して、経済的(金銭的)にプラス・にもっていくことは、地主個人の努力だけではまず不可能である。一朝一夕にはいかないのだ。基地汚染の除去に金と時間かかる例は、沖縄でもフィリピンでも米本土でも枚挙にいとまはない。たとえ現時点で基地撤去を開始しても、基地のない自立した新生沖縄ができるのは、十年、二十年先、あるいはもっと先だろう。私がこの間の議論で、「潜在的要因」と何度も繰り返しているのは、逃げ道として使っているわけではない。行政が地主を支え、長期的展望で基地の跡地利用を考えることが不可欠なのだ。戦後半世紀余、復帰後三十年以上、日本政府はもちろん、沖縄県も、基地撤去を本気で視野に入れた行政をしてこなかった。それがない状況では、強固な意志を持つ一握り人々しか「反戦地主」として残り得ないだろう。

 許された字数がつきてきた。来間氏の@〜Dについては残念ながら次の機会にまわすことにする。Eで、来間氏は私(丸山)の<経済論は勘違いの論でしかない。その勘違いをもとにして「楽観」されても、展望は開けない・、・なぜ私がそのように主張したかを、その論拠にそって検証すべきではないか>と書かれた。一応、論拠にそって検証したつもりである。「勘違い」かどうか来間氏及び読者の批判を待ちたい。(ま)



 統計データは左記を参考にした。 
  • 『沖縄の米軍基地』(一九九八年 沖縄県基地対策室)
  • 『沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料集)』(一九九八年 沖縄県基地対策室)
  • 『統計でみる沖縄県のすがた(沖縄県経済の概況 二〇〇二年一月版)』(内閣府沖縄総合事務所)
  • 『沖縄の住宅事情』(沖縄県 一九九八年の統計)