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『一坪反戦通信』
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 第145号(2003年4月28日発行)

【連載】 やんばる便り 34
            
浦島悦子(ヘリ基地いらない二見以北十区の会)

  四月八日、那覇防衛施設局は、辺野古(へのこ)沖への新基地建設に向けた「現地技術調査」なるものを抜き打ち的に開始した。この調査がどんなもので、いかに不当であるかを知っていただきたくて、今回もまた「番外篇」を書くことにした。


 同日朝、出かけようとしていた私の横で電話のベルが鳴った。電話機を取ると、友人の切迫した声が聞こえてきた。「今、辺野古漁港にいるの。調査船の前に座っているのよ」

 私は急きょ、予定を変更して辺野古漁港へ急いだ。漁港にはたくさんの報道陣が集まっていた(それに、かなりの数の警察官も)が、地元住民の姿は少ない。急を聞いて駆けつけたという辺野古・命を守る会代表の金城祐治さんは、寝耳に水で、まだ信じられないという表情だった。防衛施設局は前日の夜になって、報道関係だけに調査開始の連絡をしたらしい。

 九時過ぎ、漁港に那覇防衛施設局の職員が現われ、報道陣に調査の説明を行なった。一通り説明したあと、報道関係からのみ質問を受けると告げ、集まりだした地元住民や市民には質問させない、質問しても無視する、という態度を貫いた。「あとで答えるから」と質問をはぐらかされた金城さんは、「騙された」と怒りが納まらない。抗議の声を浴びながら、施設局職員一人、調査会社の職員三人を乗せた調査船は、逃げるように港を出ていった。船を操縦しているのは、漁協の地元支部長だという。港の入口のトングヮと呼ばれる小島には、辺野古の海の神様=竜宮神が祀られている。海の神様はどんな思いで調査船を見ておられるだろうかと、隣にいた金城さんのお連れ合いと話す。彼女は「恥ずかしくないかねぇ。きっとバチが当たるよ」とつぶやいた。

 その前日、名護市議会は、基地の護岸構造の検討のために必要だという現地技術調査について施設局から説明を受けていた。席上、各議員から、海底ボーリング調査を含むこの調査が、辺野古海域を主な生息地とするジュゴンや、その餌である海草藻場、サンゴなどに悪影響を与えるのではないかという懸念が出され、環境省や専門家の助言を受けて慎重に実施するよう求める声が相次いだ、これに対して施設局は「検討したい」と答えている。にもかかわらず、翌日からの調査を強行したこと、説明会の際には翌日の調査開始について一言も触れなかったことから、名護市議会は「背信行為だ」とカンカン。不信感は一挙に高まり、一四日、与野党全会一致で、強い抗議の意を含む意見書を採択した。意見書は「(調査強行は)名護市議会並びに地元住民軽視であり強い憤りを禁じえない」と述べ、「環境影響を監視する仕組みを講じ、市民及び議会に対し充分な説明を行ない理解を得たうえで実施するよう強く求め」ている。


 辺野古のリーフを埋め立てて造る全長二五〇〇メートルの巨大な「軍民共用空港」の基本計画が昨年七月に政府・沖縄県・名護市の間で「合意」されたことになっているが、それは当時、地元・辺野古の基地を容認する人々をさえ「地元の意見や要望がまったく無視された」と激怒させる内容だった。その後、さまざまな圧力や懐柔策によって、それらの声はうやむやにされ、「合意」が既成事実であるかのように独り歩きしてきた。

 そして今また、その基本計画について、環境影響評価法に基づく環境アセスメントの手続きが始まったばかりで、アセスの方法書(どんな項目や方法でアセスを実施するかという計画書)さえ出されていない段階にもかかわらず、環境に多大な影響を及ぼす恐れのある調査を強行したのは、住民無視はもちろん、法をも無視し、既成事実を先行させて環境アセスを空洞化させるものにほかならない。

 環境影響評価法では、事業の三つの段階(調査、工事、供用)において環境にどんな影響があるかを評価し、避けられるものは避けたうえで事業に着手することになっている(事業の規模や場所の変更、どうしても避けられない場合は事業の中止も含むのが本来の法の精神である)。現地技術調査は、総費用なんと九億五千万円をかけて海底の地形、地質、海象、気象を調査するという大がかりなもので、調査及びその取りまとめに約一年を予定しているという。施設局が護岸を造るために必要な調査だと言うように、これは生物調査などとは違う工事のための調査であり、そもそも環境アセスが終わるまで手をつけてはならないものなのだ。

 とりわけ、来月末から始めるという地質調査は、リーフ内外及びリーフ上の六三地点での海底ボーリング調査を含んでおり、沖縄県が自然環境保全の指針でランク1(厳正な保護を図る区域)に指定しているこの海域を大きく攪乱することは疑えない。施設局の説明書を見ると、ボーリングのための足場は、海の深さに応じて四種類が提示されているが、台風時には波高一四メートル以上になるというリーフ外での足場建設は、それだけで大工事になることが予想される。リーフ内における藻場の破壊、リーフ上でのサンゴの破壊、そして足場建設やボーリングそのものから発生する音や振動がジュゴンにどんな影響を与えるのかは計り知れない。『沖縄タイムス』に、いつも事の本質を見事に捉えた鋭い「時事漫評」を書いている砂川友弘さんは九日の紙面で、「環境アセス前に追い出し作戦?」と題して、施設局の旗を立てた船によって藻場を追われるジュゴンを描いた(船から、穴の三つ開いた「ボウリング」の玉が海底に投げられているのも皮肉たっぷりだ)。


 名護のヘリ基地反対協は一〇日、那覇防衛施設局に出向いて調査強行に抗議し、中止を求めるとともに、自分たちも船を出して調査船を監視する行動を続けている。ここしばらく台風二号の影響もあって海は時化(しけ)ており、調査のできない日が多いようだが、海上での行動はどうしても限界がある。やはり、この調査の不当性を多くの人々に知ってもらい、世論を高めることによってしか中止させることはできないだろう。反対協では市民への広報活動や集会、海上デモなどについて話し合っている。関東の皆さんには、ぜひ、防衛施設庁への抗議や中止要請、環境省や文化庁などへの働きかけもやっていただけたらと思う(改正された鳥獣保護法でジュゴンは保護の対象に入れられたし、天然記念物として文化財保護法の対象でもある)。

 私は現在、市民有志が集まった「市民からの環境アセスin名護」実行委員会に参加し、連続講座を通して環境アセスに市民として主体的に向き合っていける態勢を作っていこうとしている。現在の日本の法律や政治の中では、アセスで基地建設が止められるとは思っていないが、環境アセスを形骸化させず、一つひとつのプロセスをきっちりと取り組むことによって、足下の自然が私たちにどんな恵みを与え、人が自然とどれだけ豊かで緊密な関わりを持ってきたのか、この基地建設がそれをどのように損ない、未来に禍根を残すものであるかをていねいに検証していく作業は、それに関わるすべての人々に確実に根付いていくだろう。それを発信していく中で、足下の自然の価値が再認識され、この計画の無謀さについての共通認識が生まれれば、アセスとは別の回路でこれを中止に追い込むことができるのではないかと思う。

 これまでの四回の講座を通じて若い人の参加が増えてきた。現地技術調査については講座参加者約三〇人の連名で那覇防衛施設局に対して公開質問状を出した。二五の質問項目はいずれも参加者の素朴で率直な疑問である。「先にジュゴンを追い出しておいて、環境アセスの時に、この海域にはジュゴンはいません、と言うことが、実はこの調査の目的じゃないの?」という当たり前の疑問も含まれている。実際、講座の中で勉強すればするほど、こんなバカげた計画が実現するはずはないという気がしてくる。護岸一つをとってみても、台風時の海の状況を考えると、外洋側に護岸を造るなど、そもそも不可能だとしか思えない。護岸に当たった高波は護岸を飛び越えて飛行場を水浸しにするだろうし、それを防ぐには飛行場に屋根を造るか、護岸を海底に向けてごく緩やかな角度で延ばしていって波を消すしかないのではないか(リーフの外は一挙に二五〜三〇メートル以上も落ち込む海底でそんな工事をするのは不可能に近い)。

 防衛施設庁から方法書が出るのはこの夏頃と言われているが、それに意見を言うという受け身ではなく、市民の側から方法書の対案を出そうという声も講座の中で出た。竜宮の神様に恥ずかしくないよう、この愚行を止めることに多くの方々の協力を求めたい。