米軍用地特措法の再改悪を阻止するために


・発信者=井上澄夫(一坪反戦地主、つくろう平和!練馬ネットワーク)

・発信時=1999年4月23日


 *本稿は、一坪反戦地主の一人である私(井上澄夫)が、2人の弁護士(松島暁弁 護士・東京と阿波根昌秀弁護士・沖縄)の講演と、講演の際、配布されたメモに基づいて、米軍用地特別措置法・再改悪の狙いを分析したものです。私は、法律の専門家 ではありませんから、再改悪案の解釈が不十分であったり、あるいは誤解を免れていないかもしれません。(それは、いうまでもなく、前記のお二人の弁護士のせいではなく、私の力量不足によるものです。)

 しかし、本稿の末尾に記したように、問題があまりにも重大で、しかもそのことに 多くの人びとが気づかないうちに、再改悪が強行される恐れがありますので、とりあえず、本稿をみなさんに提供します。活用していただければ幸いです。

 全文を使用されるときは、私の名前を入れて下さい。ただし、チラシや反戦市民運動などのメディアで、部分的に引用する場合、あるいは骨子をご自分でまとめて記述 されるような場合は、どうかご自由に。


米軍用地特措法・再改悪の狙うもの 

      今すぐ、阻止活動を広げよう!

 井上澄夫(一坪反戦地主、つくろう平和!練馬ネットワーク)


1997年4月、日本政府は、米軍のために民有地を取り上げる法律、米軍用地特別措置法(以下、米軍用地特措法と略します)を改悪しました。それは、沖縄の反戦地主の抵抗を封じ込め、米軍の土地使用に法的な空白期間が生じないよう、強権的な 「暫定使用」を法制化するものでした。ところが、本年3月26日、政府は、この悪法をさらに改悪することを閣議決定し、その再改悪案を同月29日、国会に上程したのです。

  同改悪案は、地方分権推進委員会の勧告に基づくとして、475本もの「改正」法 案から成る「地方分権一括法案」に潜り込ませて上程されました。このようなやり方は、国会が十分な審議をおこなうことを避けるためにほかなりません。

 政府の考える「地方分権」とは、地方自治体の脆弱な財政状況を顧みることなく、社会福祉などの住民生活に密着する分野を自治体に押しつける一方、「軍事・外交は 国の専権事項」として自治体の関与をまったく許さない、というものです。そのような姿勢は、今回の米軍用地特措法・再改悪案に、露骨にあらわれています。

 同改悪案は非常に難解ですが、それは法案を作成した防衛官僚以外の人びとにわからないように、あえてそうされたのです。それでも法案をよく読めば、日本政府の恐 るべき狙いを見抜くことができます。以下で問題点をえぐりだします。

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同改悪案では、耳慣れない用語が多用されています。以下の説明で、法案の構成を理解するために役立つと思われるので、その意味を説明します。(地方公共団体は自 治体と略します。)

◎法定受託事務

 同改悪案は、現行の機関委任事務(地方自治法148条)を、自治事務、法定受託 事務、国の直接執行事務、廃止に分類します。法定受託事 務は新たに造られた用語で、自治体が処理するとされているが、本来国がやることであるから、自治体がやら ない場合は、国がやるとされる事務のことであるとされています。これまで、限られてはいても重要な役割を果たしてきた収 用委員会は、法定受託事務と位置づけられ ます。

◎認定土地

 米軍がすでに使用している土地で、それには、これまでと同様に、暫定使用制度を適用することができます。現行の特措法により強制使用されているかどうかは、関係ありません。

◎特定土地

 新規接収する土地のことです。防衛施設庁は、特定の新規接収想定していないと説明していますが、それならこのような用語自体が必要ないはずです。

========= 今回の改悪案の要点 =========

  1.  土地所有者が土地引渡調書への署名を拒否した場合であっても、内閣総理大臣の代行によって署名事務が完結させられます。こうして土地は、国によって強引に取り上げられてしまいます。
     (改悪案13条は、土地引渡調書の作成について、土地収用法36条の準用を定めていますが、それによって、たとえば、土地収用法36条4項の「市町村長」は「内 閣総理大臣」に読み替えられ、同項の「市町村長による代行」が「内閣総理大臣による代行」とされるのです。)
    *準用=ある事項に関する規定を、他の類似の事項に必要な変更を加えて当てはめること
  2.  土地の使用・収用にかかわる事務に、市町村長や知事が関与することは、完全に排除され、使用認定から裁決までのすべての事務を、国(内閣総理大臣)が行うことになります。
     (改悪案14条は、米軍用地の使用・収用手続きについて、土地収用法の準用を定め、現行法で適用されていた条項のうち、適用を除外する条項を設けています。1でみたように、土地・物件調書の代行署名は、内閣総理大臣の直接事務とされますから、知事の代行署名を定める条項は、適用されなくなります。また同法42条は、収用委員会による裁決申請書の市町村長への送付、市町村長による公告縦覧を定めていますが、改悪案は、市町村長が公告縦覧を行わない場合、知事がこれを代行するとい同条の規定も除外しています。こうして、自治体の長の関与が排除されるのです。)
  3.  改悪案15条は、すでに使用されている認定土地の「暫定使用」を定めています。この点は、現行の特措法とほとんど同じなのですが、「暫定使用」という言葉にだまされてはなりません。「暫定使用」の実際の意味は、継続的永久使用であって、現状の固定化にほかならないのです。米軍が不要としないかぎり、地主に土地が戻ることはありません。
  4.  土地の新規接収の「緊急裁決」が、改悪案19条に規定されています。この「緊急裁決」は、裁決期限が非常に限定されていて、土地所有者の抵抗の手段は奪われたも同然になります。国(内閣総理大臣)は、新規に求める土地を、自ら裁決することによって、思うがまま取得できます。強権による土地の強奪が正当化されるのです。
     (緊急裁決については、新規に接収される特定土地を対象とし、裁決期限を原則として5カ月としています。ただし裁決申請書の公告縦覧期間満了後の申し立てについては2カ月以内です。これは、収用委員会の裁決の遅れを許さない強権的な規定です。さらに同改悪案22条によれば、緊急裁決事件について収用委員会が期限内に裁決しない場合、防衛施設局長は収用委員会に異議を申し立てますが、収用委員会は判断することなく、事件を内閣総理大臣に送致します。そして同改悪案23条は、緊急裁決事件を内閣総理大臣が自ら裁決できるとしているのです。内閣総理大臣が代行裁決する場合、「防衛施設中央審議会」の議を経なければなりませんが、同審議会は防衛庁に置かれ、その委員は、内閣総理大臣が任命するのです。同審議会が使用認定を拒否することは考えられません。)
  5.  改悪案24条(却下の裁決の取消しの特例)によって、内閣総理大臣は、収用委員会の却下判決を取り消すことができるばかりか、緊急裁決を含めて自ら裁決できます。このようにして、収用委員会の機能はまったく形骸化し、その決定がどのようなものであれ、内閣総理大臣は自らの意志を貫くことができるのです。

以上をまとめると、改悪がもくろまれている米軍用地特措法は、次のような悪法といえます。

======== 日本政府の狙うもの =========

 今回の米軍用地特措法・再改悪は、在日米軍基地の75%が集中する沖縄の過酷な実状に対する関心の低下につけこんで、沖縄の米軍用地の現状を固定するとともに、新ガイドライン関連法案、それに続く有事立法などによって、日米共同戦争体制を完成させるために、新規の民有地強奪をもくろむものです。

 しかもこの動きは、普天間の代替基地などのために、日本政府が米軍に新たに土地を提供することのみを意味するのではありません。去る4月9日、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックのメンバーに対し、防衛施設庁側が明言したように、政府は、土地収用法に基づいて《自衛隊のために新規に土地を接収すること》までたくらんでいるのです。

 それゆえ再改悪される米軍用地特措法が対象とするのは、けっして沖縄だけではなく、日米共同戦争を強行するために、いまや全国の土地が米軍と自衛隊に狙われているのです。なぜなら、いざ「有事(戦争)」となれば、自衛隊基地の日米共用化のみならず、これまでの米軍基地・自衛隊基地の拡張や新設が求められることは目に見えているからです。その意味で、今回の再改悪を阻止するたたかいは、有事立法の先取りを許さないという重要な意味をもっています。

 改悪法案の審議は、4月末、ないし5月の連休明けといわれています。「戦争のできる国家づくり」をめざす、新ガイドライン関連法案を廃案にする運動の中に、米軍用地特措法・再改悪阻止の課題を位置づけ、反撃をはじめなければなりません。署名運動をはじめ、政府への抗議、国会への働きかけなどを、ただちにはじめましょう。


米軍用地特措法 改悪・再改悪 関連資料

沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック