土地使用裁決取消請求事件 訴状(一坪反戦地主)


 原 告 別紙原告目録記載のとおり。

  右原告ら訴訟代理人 別紙代理人目録記載のとおり。

 被 告 沖縄県那覇市泉崎一丁目二番二号 沖縄県収用委員会 

     右代表 会 長 当山尚幸

 土地使用裁決取消請求事件

 訴訟物の価格 金        円

 手数料    金        円


 請 求 の 趣 旨

一 被告沖縄県収用委員会が平成一〇年五月一九日、別紙物件目録記載の土地についてなした土地使用裁決はこれを取り消す。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

  との判決を求める。

 請 求 の 理 由

 第一 土地所有関係

 一 原告らは、米軍普天間飛行場として使用されている、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の所有者(共有者)である。

 原告らの本件土地についての個別的共有関係は別紙所有者目録記載のとおりである。

 第二 原告らと一坪反戦地主

 一 原告らは、いずれも本件土地を共有して、一坪反戦地主会に所属している。

 一坪反戦地主会は、自らの土地を軍用地に提供することを拒否し、返還を求める闘いを続けている「権利と財産を守る軍用地主会」(反戦地主会)と連帯し、軍事基地を生産と生活の場に取り戻すことを目的として一九八二年一二月一二日に締結された軍用地共有者の組織である。

 労働者、女性、宗教人、大学人、女性、ジャーナリスト、弁護士等々様々な階層、年令の人々を結集して、イデオロギーにとらわれず、日本国憲法の理念に徹して、反戦平和の実現を目指して、草の根運動を展開している。

 第三 本件使用裁決の取消原因

 一 審理手続きの違法

 1 沖縄県収用委員会の本件審理の受理および裁決権限の不存在

 (一)日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力および安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(以下「駐留軍用地特措法」という。)一四条は、土地収用法中、収用委員会の組織および権限を定めた第五章第一節の適用を除外することを明記している。

 駐留軍用地特措法に基づく土地収用申請については、同法自体が土地収用法に基づく現行収用委員会における審理を否定しており、特別の機関の設置を予定しているものである。

 従って、被告県収用委員会には、本件裁決申請について受理、審理する権限は存在しない。

 (二)また、土地収用法に規定する収用委員会は、駐留軍特措法に基づく収用を予定していない。

 現行土地収用法は、旧憲法下における収用法とはことなり、軍事目的のための収用を排除しており、駐留軍特措法による収用の受理、審理、裁決を予定するものではない。

 (三)従って、本裁決は、権限を有しない者によってなされた裁決であって、裁決それ自体が不存在であり、仮に外形的に存したとしても、権限なくなされたものであって無効である。

 二 裁決申請の違法

 1 任意交渉を経ないでなした裁決申請の違法

 (一)強制使用裁決は、任意交渉が不可能な場合、補充的な制度として認められるものにすぎない。憲法第二九条の保障する財産権に対する制限であるから、同法の適用にあたっては、任意交渉による契約の締結が不可能であることが必要であるというべきである。

 起業者(防衛施設局)は、原告らに対しては、一度の任意交渉もすることなく本件裁決申請をおこなっている。

 起業者(防衛施設局)は、原告らが一坪反戦地主であり、その設立趣旨からして合意が得られる見込みがないものとして、任意交渉は一切していないことを認めている。

 (二)本件裁決申請は、一坪反戦地主であることを理由として、任意交渉を経ないままなされたものであって、本件裁決は、その手続において、思想信条による違法な差別取り扱いに基づいてなされた違法な申請に基づくものとして違法無効である。

2 使用目的の違法

 (一)本件裁決申請は、駐留軍用地特措法に基づき、米軍隊の用に供する目的とされているが、本件基地は、国連軍の使用もなされている。

 基地には「日の丸」星条旗のほか、国連旗が掲揚されている。

 (二)同施設が申請理由である「米軍の用に供する目的」以外の目的をもって使用されていることは明白であり、本申請は、駐留軍用地特措法に基づく使用目的以外の目的をもってなされたものであって裁決は違法である。

 三 「適正かつ合理的」の要件の不存在

 1 米軍用地特措法は、土地収用法の定める土地強制使用の要件を大幅に緩和し、且つ権利者保護の手続も大幅に切り捨てて米軍用地の強制使用をはかろうとするものであるが、全く無制限な土地収用を認めるものではない。

 同法三条は「駐留軍の用に供するための土地等を必要とする場合において、その土地等を駐留軍の用に供することが、適正かつ合理的である時はこの法律に定めるところにより、これを使用し、または収用することができる」と定め、同法による収用は、「駐留軍の用に供するための土地を必要とする」外に「米軍用地として供することが適正且つ合理的」であることを必要としている。

2 米軍による土地の長期使用の歴史

(一)米軍は、沖縄占領と同時に沖縄本島在住の住民を島内一〇数箇所の捕虜収容所に抑留し、その間土地所有権等の権利の行使を停止し、軍事上必要とされる地域全てを囲い込んで軍用地にした。

 土地所有者の意思を無視して土地を強奪したのである。

 米軍による土地の強制使用は、ヘーグ陸戦法規によるものだといわれるが、これは、同法の定める「私有財産の尊重」「没収・掠奪の禁止」の原則に反するものであるばかりでなく、右の如き基地形態は、日本の民主化と平和の確立という駐留の目的を定めたポツダム宣言にも反するものである。

 (二)日本国政府は、沖縄において米軍が国際法規に反して、沖縄の住民の土地を強奪し、為に住民生活が破壊されたことを知りながら、講和条約を結んで沖縄の施政権を米国に委ね、米軍による軍事支配に法的根拠を与えた。

 講和条約により土地強奪の法的根拠を求めえなくなった米軍は、布令、布告を乱発して土地強奪の法的体裁を整えたが、いずれも土地所有者の権利と意思を無視した強制的かつ恣意的なものであった。

 (三)日本政府は、復帰後国際法に違反してなされた土地強奪を「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律」を強行制定し、これを容認し、自らの手で県民の広大な土地を強制使用した。

 米軍による違法な土地強奪を法的に承継したのである。

(四)その後繰り返された、強制使用手続による、違法かつ長期にわたる本件土地強奪はいかなる意味においても適法性を有するものではない。

 3 県土利用の障害たる米軍基地

 沖縄は、全国との比較で人口一パーセント弱、県土面積〇・六六パーセント弱にすぎない。この沖縄に全国の七五パーセント以上の米軍基地がおかれている。

 沖縄全県の一一・三パーセント、沖縄本島ではその二〇パーセント以上が基地として強奪されているのである。

 本件基地は宜野湾市の中心部に位置し、総面積四八一万八〇〇〇平方メートルにのぼる。

 日常的な離発着訓練が行われ、市部を訓練空域とする騒音公害と墜落の危険をまきちらしている。

 人口約六万五〇〇〇の宜野湾市は、基地をドーナツ型に囲んで市街地が形成され約三万人は基地に隣接しての生活を余儀なくされている。騒音地獄の中に市民生活が営まれているのである。

 4 県民生活を破壊し、人権を侵害する米軍基地

 沖縄県民は、広大な基地故に、日常生活の上で言い知れぬ多大の人権侵害を被っている。

 基地ある故の刑事事件、演習場からの赤土汚染、演習場からの流弾、騒音被害等基地に伴う人権破壊は日常化しているのである。

 軍事基地こそ、沖縄県民にとって諸悪の根源というべきである。

 かような人権侵害の現況である基地を維持するためになされた本件強制使用裁決は明らかに憲法に反するものというべきである。

 5 不当に長期にわたる強制使用

 本件強制使用期間は四年となっているが、本件土地の強奪が開始されてからすでに半世紀をこえる間地主は所有者でありながら、自らの土地に立ち入ることすら出来ない状況が続いている。

 少なくとも復帰時からしても二七年を経過している。民法六〇四条は、賃貸借の期間について「二〇年ヲ越ユルコトヲ得ス」としている。憲法の保障する所有権絶対の原則からして二〇年を越える賃貸借は公序に反するとしたものと考えられる。

 本件土地をさらに継続的に強制使用することは違憲であるというべきである。 

 四 普天間基地の実態

 1 普天間基地は、周辺の密集地に囲まれて市の中央部に位置することから、   基地から生ずる様々な被害や調和のとれた計画的な町づくりの面でも大きな障害となっている。

 2 普天間基地の危険性について、使用認定申請を行った那覇防衛施設局長 嶋口武彦は、

「私は七年前東京から出張しまして、あの嘉数高台から普天間基地を見ました。われわれはこの基地は絶対だめだと思いました。と言いますのは私はもともと出身は防衛庁でございまして、航空自衛隊の作戦運用をしてきました。その際、半年間徹底的に航空事故の調査をしました。その後施設庁で防音対策に取り組んできました。その経験から照らして、これは、とんでもない飛行場だと思いました。同時にあの町の中を広大な飛行場がしめ、ひしめくように人家がある。同じ日本人として許し難いと思いました。そういうこともあって、私は普天間基地の返還というのは七年前からずっと追求してきたテーマでした。」と述べている。

 使用認定申請をした那覇防衛施設局長自身が、「とんでもない飛行場」「この基地は絶対だめだ」と自認する基地に提供する目的をもって本件土地の提供を認めることは、住民に犠牲と危険を強いることは明確であって、到底認めることはできない。

 3 普天間基地に所属する航空機が起こした事故は、一九七二年から一九九四年間での間に五七件発生している。

 年間平均二・五件の割合で事故が生じており、その間の死亡者八四名、負傷者二五名に上っている。

 普天間基地は人口密集地に隣接し、危険と常に隣接しての生活を余儀なくされているのである。

 4 普天間基地は、宜野湾市の中央部に位置し、人口密集地に隣接するため、住民に対する基地被害は絶えない。

 又、基地が比較的高台に位置しており、施設内の排水施設の整備が不十分なため、大雨の際には施設内の排水溝から雨水、汚水があふれ、周辺住宅、道路、農作物が冠水する事もたびたびである。

 5 また、日常的に繰り返されているのは、基地を離発着する航空機騒音である。

 現地司令官に対して市民上空での訓練の中止を求めても、一向に改善されることがなく、市民が基地被害から解放されるには基地返還以外にはないのである。

一九九五年(平成七年)六月の騒音被害は、

      一九時から二二時(夜間)   四五六回発生
      二二時から二四時(深夜)   一三九回
        七時から一九時(日中)  一六四二回
        〇時から  七時(深夜)        七回
              合計              二二四四回
              秒数        三九,八五三・一秒
              最高値          九四・六db

 騒音被害は、日中、夜間、深夜を問わず繰り返され、市民の頭上で繰り返される訓練は危険と騒音をまき散らしている。

 6 以上の通り、本件基地は住民の生命身体の安全を侵害し、健康で文化的生活を営むことすら不可能としているのである。

  そのような基地機能を維持するためになされた使用裁決は適正且つ合理性の要件を欠き、違法である。

 7 又、日米安全保障条約は、第六条において、「アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍、及び海軍が日本において施設及び区域を使用することを許される」と定めている。

 普天間基地には、世界で唯一海外に駐留する海兵隊である第三海兵遠征軍が駐留している。

 海外を拠点として駐留する海兵隊は、沖縄をおいて他にはないのである。

 沖縄に駐留する米軍人の六〇パーセント一万六〇〇〇人が海兵隊員である。

 海兵隊の組織構成について、那覇防衛施設局は、「海兵隊は、陸海空軍に並ぶ軍隊の一部である。」と説明しており、陸海空軍とは異なるとの認識を示している。

 前述の通り日米安保条約は、陸、海、空軍に対する基地提供を定めているのであって、海兵隊は、基地提供の対象とはなっていないのである。

 五 沖縄に関する特別行動委員会(SACO)合意

 1 沖縄に関する特別行動委員会(SACO)は、普天間基地の返還を前提としており、継続使用の目的そのものが存在しないのであって、使用期間四年間とする本件使用認定は、違法である。

 第四 結語

 以上の通り、本件使用裁決は、米軍用地特措法が定める「適正且つ合理的」の要件を欠くものであるとともに、平和主義を定めた憲法前文、九条、および私有財産の尊重を定めた憲法二九条、権利制限の適正手続を定めた憲法三一条、平等権を定めた憲法一四条に反する違法な裁決である。また、沖縄に関する特別行動委員会(SACO)合意による、返還合意施設であり、その施設提供のために四年の長期にわたる本件使用裁決は違法でありその取消を免れないというべきである。

 よって、本件訴えに及ぶ次第である。


添付書類

 一 訴訟委任状    通

 一 登記簿謄本   一通

 一九九八年八年一四日

 那覇地方裁判所 御中

 右原告ら訴訟代理人

  弁護士  金   城       睦

   同   池 宮 城   紀   夫

   同   島   袋   勝   也

   同   島   袋       隆

   同   松   永   和   宏

   同   三   宅   俊   司

 代 理 人 目 録

 右訴訟代理人

 弁護士 金   城       睦

 同  池 宮 城   紀   夫 

 同  島   袋   勝   也

 同  島   袋       隆

 同  松   永   和   宏

 同  三   宅   俊   司

 原 告

新   崎   盛   暉    外 一七四名

 物 件 目 録

一、土 地

 所 在 沖縄県宜野湾市字大謝名 東原

 地 番 九九四番二

 地 目 雑種地

 地 積  六七平方メートル


 出典:三宅法律事務所



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