沖縄県収用委員会 第10回審理記録

仲山忠克(土地所有者代理人 弁護士)


土地所有者代理人(弁護士 仲山忠克): 

 キャンプハンセンを除く、その他の12の施設の代理人で、弁護士の仲山と申します。

 私は、普天間飛行場の概略とその被害の実情に言及をした上で、今回の強制使用手続きが違法であり、裁決が却下されるべきであるということを申し述べたいと思っております。

 まず、冒頭に一つの発言をご紹介いたします。

 「私は、7年前、東京から出張しまして、あの嘉数台から普天間基地を見ました。 われわれはこの基地は絶対だめだと思いました。と言いますのは、私はもともと出身は防衛庁でございまして、航空自衛隊の作戦運用をしてきました。その際、半年間徹底的に航空事故の調査をしました。その後、施設庁で防音対策に取り組んできました。その経験から照らして、これはとんでもない飛行場だと思いました。同時に、あの街の中を広大な飛行場が占め、ひしめくように人家がある。同じ日本人として許しがたいと思いました。そういうこともあって、私は普天間基地の返還というのは、7年前 からずっと追及してきたテーマでありました」

 皆さん、これはだれの証言だと思いますか。ほかならず今回の強制使用手続きを申請した那覇防衛施設局長の嶋口武彦氏そのものの証言であります。名護市民投票の選挙運動期間中に、宮里公民館で開催された賛成派の集会の中で述べたものであります。このように、嶋口局長自らがとんでもない飛行場、許しがたく、返還すべきであるという普天間飛行場とは一体どのような飛行場でありましょうか。

 普天間飛行場は、皆さんもご存じのように、宜野湾市の中央部に位置し、アメリカ普天間航空基地隊の管理のもとに、海兵隊の飛行場として使用されております。海兵隊の問題については、後ほど松島代理人から発言がありますので、私はそれについては触れませんけれども。

 この普天間飛行場は面積が483万平方メートルで、宜野湾市の25.3%を占めております。普天 間飛行場は第36海兵航空軍のホームベースとなっており、その中に長さ2,800m、幅46mの滑走路のほか、燃料タンク、基地指令部、格納庫など、航空基地として総合的に 整備された基地であります。在沖米海兵隊によりますと、同飛行場には、現在KC130 空輸機12機、CH53大型ヘリ15機、CH46中型ヘリ24機などを含め、70機の航空機が配備されているとのことであります。そのほか、ステインガ一対空ミサイル部隊が配備をされているそうであります。ちなみに、その中心部隊である第36海兵航空軍は、上陸作戦支援対地攻撃、偵察、空輸などの任務にあたる航空部隊として、早朝未明から夜の11時まで離着陸訓練を頻繁に行っているのであります。

 こういう飛行場ですから、当然、いろいろな被害が生ずるのは明らかであります。とりわけ、普天間飛行場は日本一航空機事故の多い基地として存在をしております。普天間飛行場における飛行回数は、土曜日、日曜日、祝祭日を含めても、1日平均で 約136回になります。航空機事故は日本で一番多く、復帰後、95年までに普天間飛行 場所属の軍用機が起こした事故は54回を数え、約60人の死者、行方不明者を出しております。

 日本政府は、ことしの11月5日、普天間飛行場をキャンプ・シュワーブ沖に移設す るための海上ヘリポート政府基本案を発表しましたが、その中に普天間飛行場について言及をしております。私は、政府自らの言葉で、普天間飛行場の実態を述べていきたいと思います。まず、航空機の運用に係る安全性について、政府案はこのように言っております。航空機の常習経路及び飛行場への出入経路を住宅地域上空を避けて設定することができないため、事故発生の危険性は大、このことは、普天間飛行場における事故が、避けることのできない制度的構造的なものであることを政府自身が認めていることの証左であります。

 さらに、米軍用機による騒音の被害は、日常茶飯事であります。先ほど島田さんから具体的なお話がありましたが、1日平均で136回という飛行回数は、10分30秒に1回、軍用機が市民の頭の上を飛ぶ計算になります。住民の安眠を妨げることは言うまでもありません。また、普天間飛行場の周辺には、小学校七つ、中学校4校、高校3校、大学2校という、16も学校があり、この騒音が子供たちの勉強や人格形成に与える影響 は決して無視ができないのであります。この点についての政府の先ほど述べた海上ヘリポート基本案には、次のように述べられております。密集した市街地に囲まれていることから、飛行場周辺の約1万世帯が、航空機騒音に係る環境基準、環境庁告示に 定める基準値を超えるWECPNL(うるささ指数)ですね、その75以上の騒音の影響下にあるというふうに述べております。

 いわゆる受忍限度を越える騒音を1万世帯に及ぼしているということを、政府自身 が認めているのであります。

 さらに、市域の中心部に居座るため、まちづくりの大きな障害となり、生活破壊をもたらしております。この点についても、先ほどの政府の基本案では、次のように述べられております。市民の生活への影響、飛行場が市街地の中央部に位置するため、道路、公園、下水道等の都市基盤施設の適正配置ができず、都市機能が分断され、効率的で均衡のとれたまちづくりに大きな支障、幹線道路の不足による交通渋滞や、大きく迂回することによる市民の負担も大、さらに地域開発等への影響について、飛行場が所在する宜野湾市は、沖縄本島中南部地域の中心部に位置し、地域開発上、重要な位置を占めている。北の宜野湾市中心街、南の住宅街、南東方の学園地域を分断している飛行場は、開発可能な貴重な空間を占めており、県の国際部市形成構想においても、中核的な位置づけというふうに述べているのであります。

 このように申請者である嶋口局長や日本政府自身が、普天間飛行場はその存在自体が許されるべき性質のものではないこと、したがって、撤去されねばならないことを告白しているのであります。

 沖縄において、米軍基地は、諸悪の根源だと言われておりますが、普天間飛行場は、まさにそれを代表するものと言えましょう。普天間飛行場が返還されるべきものであることを、局長や政府が認めているのであれば、その用地に供するための強制使用手続きは、なされるべきではないはずであります。

 嶋口局長自身が、真にとんでもない飛行場、同じ日本人として許しがたいと思うのであれば、直ちに自ら強制使用手続きを取り下げることが、人間としての誠実な態度ではないでしょうか。

 それができないところに国民を犠牲にしてでも米軍基地を確保しようとする我が国の政府の基本姿勢があり、独立国家としての自覚や人間としての誇りをも喪失せしめ安保条約の怖さと本質があるように私には思います。

 さて、今回、那覇防衛施設局長が反戦地主の土地について、強制使用手続きをなした理由に挙げているのが、有機的一体論であります。

 すなわち、反戦地主の土地は、他の普天間飛行場用地と一体となって、有機的に機能しているということであります。このことは、逆に言えば有機的一体性がなければ、強制使用は不要であり、違法であるということであります。

 この点について、代理署名裁判の最高裁判決は、こういうふうに言っております。契約拒否地につき、有効な使用認定がなされていることが、裁決手続きのための適法要件をなすものであって、使用認定にこれを当然に無効とするような瑕疵がある場合、瑕疵とは欠陥のことですが、その瑕疵がある場合には、裁決手続きも違法というべきになる。こういうふうな判示をしております。そして契約拒否土地の使用認定に、これを当然に無効とすべき、重大かつ明白な瑕疵が認められるか否かは、当該土地が駐留軍用地として、提供されるに至った経緯及びその具体的使用状況などを踏まえた上で判断をし、その結果、当該土地が駐留軍施設内の他の多くの土地と一体となって、有機的に機能していることは当該土地にかかる使用認定について、重大かつ明白な瑕疵が存在しないことの重要な理由とされているのであります。

 すなわち、有機的一体性が欠ければ、使用認定にそれを当然と無効とすべき、重大かつ明白な瑕疵が認められるということになるのであります。

 そして、ここで言う有機的一体とは、判決は触れておりませんけれども、多くの土地から構成されている米軍基地について、それを構成している個別の土地間に、緊密な統一性があり、かつ個別の土地と施設全体とが必然的な関係を有することを意味いたします。

 言いかえれば、基地を構成している当該土地が失われれば、施設全体の機能が必然的に喪失状態に陥ることであります。

 したがって、基地内の個別の土地が返還されたとしても、その基地の軍事基地としての機能を必然的に喪失せしめるものでなければ、当該土地は、有機的一体性を有していないということになるのであります。

 それでは、普天間飛行場内の反戦地主の土地が有機的一体をなしているのかどうかについて、その位置や使用状況等をスライドで示しながら検討したいと思います。

 スライドのほうよろしくお願いします。

 これは、宜野湾市全域の航空写真であります。真ん中に映っていますのが、普天間飛行場であります。

 その左のほうに道路がありますが、これが国道58号です。飛行場の右にさらに道路がありますが、これが国道330号、さらにその右の道路が、いわゆる自動車道路ですね、高速道路になっております。この写真からも分かりますように、普天間飛行場は宜野湾市のど真ん中にあり、周辺は住宅密集地であることがよく分かります。ちなみに、こちらが宜野湾市役所になります。

 次、スライドお願いします。

 これが普天間飛行場の拡大写真であります。長さ2,800m、幅46mの滑走路がこれであります。この滑走路を中心として、総合的な基地としての機能を有していることになります。

 スライドを次、お願いします。           

 スライド3、これが今回の強制使用にかかる反戦地主の土地です。この一番上の土地、これが安里義弘さんの土地で、保安緩衝地帯用地に使用されているというふうに言われております。

 次、お願いします。

 これが、宮城正雄さんの土地です。2筆ですね、1、2の土地があります。上のほう、2というふうになかなか読みにくいんですが、それが管理事務所用地として使用され ている土地です。その下が、着陸帯敷地として使用されております。この2と3の宮城正雄さんの土地は、位置境界不明地であります。位置境界不明地が強制使用の対象にすることはできないということは、前回のこれまで述べた嘉手納飛行場等で述べましたので、ここでは特に触れません。

 その次、一番下の土地ですね、これが桃原富徳さんの土地で、これも保安緩衝地帯用地として使用されているという。それにすぐ隣接して、いわゆる一坪反戦地主の土地があります。これも保安緩衝地帯用地であります。その上の土地、これですね、これが天久仁助きんの土地で、これも保安緩衝地帯用地として使用されている土地であります。

 次、スライド4をお願いします。

 これは、安里義弘さんの土地について、宜野湾市役所が作成した地籍併合図であります。この青い部分が基地のフェンスですね、基地内外を区別するフェンスであります。黄色い部分が見えますでしょうか、これが安里義弘さんの土地で、その土地の上に何らの工作物がないことがこれで分かります。

 次、スライド5をお願いします。

 これが安里さんの土地の航空写真です。安里さんの土地は、白いあれがお墓ですが、下に青い建物、これ倉庫ですが、その中間に位置します。この部分に位置しております。その右側のほうに見えますのが、これ基地内道路です。その基地内道路から少し離れて白い薄い線が見えますね。これが基地の内外を区別するフェンスであります。この安里さんの土地は、このフェンスから安里さんの土地まで、約15mぐらいにあり ます。そのフェンスの外側、白い部分、これも元普天間飛行場の一部でありましたが、昭和58年に返還をされております。現在、宜野湾市役所の消防署でしょうか、駐車場として使っている土地であります。この部分も施設局はかつては有機的一体をなしている土地と言っていたものと思われます。

 次、スライドお願いいたします。

 これがその拡大図ですね。次、お願いいたします、スライド。

 これは、普天間飛行場の南のほうになります。このしっぱの状態になった部分がありますね。このしっぽの部分になった部分の先端のほうに黄色いところがありますが、これが先ほど申し上げました桃原さんと一坪反戦地主の土地になります。

 さらにその上のほう、その黄色い部分の土地がありますね、細い土地、これが天久仁助さんの土地です。これらの土地の上にも何らの工作物がないことが、この地籍併合図で分かります。

 次、スライド8をお願いします。

 これが今言った土地の航空写真です。まず、真ん中の上のほう、この部分に天久さんの土地があります。木が生い茂っていることが判明できます。フェンスからわずか10mに位置しております。そして、しっぱ状になったその先端部分に、先ほど言った 桃原さんと一坪反戦地主の土地があります。

 次、スライド9をお願いします。

 これが桃原さんの土地と一坪反戦地主の土地の拡大図です。原野状態になっておりまして、何らの工作物がないことが分かります。フェンスからわずか2mの位置に所在をしております。

 これまで述べました安里さんの土地、桃原さんの土地、天久さんの土地、そして一坪反戦地主の各土地は、それらが返還されたとしても、宜野湾飛行場の機能にははとんど影響なく、基地機能が喪失することはありません。

 その証拠に次のスライドをお見せいたします。

 これは、赤い部分で着色された部分がいくつかありますが、これらの土地もかつては普天間飛行場の一部でありましたが、これまでに返還された土地、それを図示したものであります。この返還された土地も、かつては有機的一体性をなすものとして、普天間飛行場を構成していたものであります。しかし、現在それらが返還されたとしても、基地機能に支障は全く生じておりませんし、そのことから言っても、今回、強制使用の対象となっている土地が返還されても、何ら支障がないことは明らかだというふうに思われます。

 以上でスライドを終わります。

 このように、反戦地主の土地が返還されたとしても、普天間飛行場の基地としての機能が、ほとんど影響はなく、基地全体としての機能が必然的に喪失状態に陥ることはないことは明らかであります。したがって、契約拒否土地に対する強制使用手続きが無効である以上、有機的一体性を欠き、無効である以上、これに対する裁決申請は却下されるべきであることは明白だと言わなければなりません。

 那覇防衛施設局長は、自ら返還されるべきだとする普天間飛行場用地について、違法・不当にも強制使用の手続きをなすという自己矛盾の態度をとり続けています。その違法性、不当性を、施設局自らが是正できない以上、それを是正するのが収用委員会に与えられた責任であるというふうに私は理解いたします。

 収用委員会の皆様が、勇気をもって、この普天間飛行場に係る強制使用裁決を却下し、歴史に誇れるような判断を示されることを期待して、私の陳述を終わります。

 当山会長:

 はい、ご苦労様でした。 では、次に吉田正司さん。


  出典:第10回公開審理の議事録から(テキスト化は仲田

  スライド写真提供:違憲共闘会議


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