ヘリ基地反対名護市民投票裁判

「海上基地建設問題名護市住民投票(損害賠償請求)訴訟」


 平成一〇年(ワ)第八二号損害賠償請求事件

原 告 興石 正
外五〇三名

被 告 名護市 
被 告 比嘉鉄也

 平成一〇年四月一七日

 被告ら訴訟代理人 
弁護士 小堀啓介
弁護士 竹下勇夫
弁護士 玉城辰彦
弁護士 阿波連光
弁護士 武田昌則
弁護士 宮崎政久

那覇地方裁判所 御中

答 弁 書

第一 本案前の申立て

 一 原告らの訴えは却下する。

 二 訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

理由

 本件は法律上の争訟の要件、訴えの利益の要件を欠く訴訟で不適法である。

 以下、法律上の争訟・権利保護の資格・権利保護の利益・当事者適格などにつき相互の関連のもとに陳述する。

 一 法律上の争訟、当事者適格ないし権利保護の資格など

 1 原告らは、個人個人で自らの法的立場を平成九年一二月二一日実施の「名護市における米軍のヘリポート基地建設の是非を問う市民投票に関する条例」の投票権者と主張し、その権利侵害を

(1)名護市民の基地拒否の思想信条の不当侵害

(2)基地を拒否し平和に生きる権利の実現を困難とした

(3)基地建設を許さないとする原告らの思想信条を不法に侵害した

旨主張する。

 2 しかしまず、一般的「名護市民」の思想信条の不当侵害の主張は、抽象的政治的な主張であり具体的権利義務に関するものではなく、法律を適用することにより終局的に紛争を解決するものを扱う、という「司法」における「事件性」の要件を欠くものであり(裁判所法三条「一切の法律上の争訟」、最判昭和四一年二月八日民集二〇巻二号一九六頁参照)不適法である。

 また訴訟では、当事者は原則として他人の権利主張をなし得ないものであり、この点仮に原告らが真実、平成九年一二月二一日実施の「名護市における米軍のヘリポート基地建設の是非を問う市民投票に関する条例」当日の投票権者であったとしても、原告らのような個人個人が、何故に明らかに他人であってしかも一般的抽象的存在の「名護市民」の「基地拒否の思想信条の不当侵害」を何らの権限無しに認定して主張できる理由は何らない。

 3 また、仮に原告らの皆の主義主張において、「基地を拒否し平和に生きる権利」を有したとしても、「司法」は法を適用して具体的個別的権利についての紛争を解決するものであって、原告らのいう権利は一般的抽象的なものであって裁判上主張しうる具体的個別的権利内容を持った権利ではないものであって、ましてや「その実現を困難とした」などはおよそ法を適用して紛争を解決するという「司法」における「事件性」を欠くものといわざるをえないものである。

 4 さらに、原告らの思想信条を不法にも侵害したなどの主張も、その実体はいわゆる名護市における米軍のヘリポート基地建設の政治判断の当否を主張しているに過ぎないものであり、「法律上の争訟」とはいえない。

 政治的(過程に委ねられた)問題というべきものである。

 参照判例、

(1)最判昭和五六年四月七日民集三五巻四四三頁――板まんだら訴訟(具体的権利義務―不当利得、損害賠償など――ないし法律関係に関する訴訟であっても、宗教上の協議に関する判断が訴訟の帰趨を左右する必要不可欠のものであり、紛争の核心となっている場合には、その訴訟は法律上の争訟とはいえない。)

(2)名古屋高裁昭和四九年ネ第五二七号軍備保有、軍事費支出等禁止(戦争公害差止)請求控訴事件、昭和五〇年七月一六日判決――原審、名古屋地裁昭和四九年ワ第八九〇号軍備保有軍事費支出等禁止(戦争公害差止)請求事件、昭和四九年一〇月三日判決、本書面末尾に添付

 5 本件訴訟では裁判上主張しうる具体的個別的権利内容についての権利侵害はない。

 個別投票を保障したことは個別投票の内容の実現の保障を意味しないものである――多数決民主政治の過程の問題。

 いわゆる多数決民主政治の過程に関する「市民投票」は、投票する者の個人個人の思想信条を不法に侵害しないから「市民投票条例」として成り立つものである。投票行為において賛成反対は当然に予測されるものだからである。

 つまり「秘密投票の方法」により何人がどのような内容の投票をしたか調べるべくもない「名護市における米軍のヘリポート基地建設の是非を問う市民投票に関する条例」は、まさにいわゆる多数決民主政治の過程に関連するものであって、投票の方法による「市民」の自由意思の表明を期したもので、個別的「投票行為」には当然に反対や賛成などの意思表明が混在するのであり、その意思の集積としての「投票結果」に関して、投票した者個人個人の「基地建設を許さないとする思想信条を不法に侵害した」などは問題とする余地もないものである。

 二 その他、政治的、行政的裁量など

 1 本件訴訟は、既に訴状において原告らが本件事件の背景や住民投票条例ないし住民投票などの説明を詳細にするように政治的な争点に関するもので、将来の名護市、沖縄県、日本国の政治的政策に密接に関連するものである。

 2 すなわち、裁判所において本件を審査する場合には、原告らも指摘するように日本国の外交防衛問題をふまえての米国との交渉、間接民主性(ママ)・代議制の限界の有無等あるいは沖縄県や沖縄本島北部地域の振興など、の諸問題をふまえて「地域振興策と普天間基地移設」の当否判断のもとに、「名護市における米軍のヘリポート基地建設の是非を問う市民投票に関する条例」三条の「尊重」の法的拘束性(義務)の有無の結論を導くことになるが、この問題に関して市民総意あるいは県民ないし国民としての判断であればともかく、個人個人で提起した訴訟でその是非を個別的に裁判所において判断を求める権利保護の利益はないものというべきである。

 裁判所はこのような問題に関する審理判断に適合的なしくみを持つ機関ではないからであり、最終的には国民の政治判断(政治的・行政的裁量)に委ねられているものである。

 この点、国民ないし市民とその代表たる内閣・知事・市町村長との法的関係はいわゆる自由委任であって、政治判断(政治的・行政的裁量)は国民ないし市民により拘束されるものではないし、さらに国民ないし市民と別の個々の国民ないし個々の市民との関係はなおさらである。そして、その自由委任を前提として、国民ないし市民はその代表たる内閣・知事・市町村長の責任を追及する場合は、法的に認められたリコールによるべきであるとされているのであって、裁判所の審理判断の枠外にある問題である。

 3 また仮に、個々の投票権利者としての原告らの主張が認められるものとした場合には、原告らは、「名護市における米軍のヘリポート基地建設の是非を問う市民投票に関する条例」の投票行為をしただけのもので(投票の有無内容は秘密投票の性格上(思想信条の自由、プライバシーの権利、表現の自由などから調査証明は不可能である)調査できないし、するべき事項でもない)あるのに、投票行為に関連して、投票の有無すら判明しないまま訴訟を提起しただけで金銭の取得を得るという、まったく条例の本旨にもとる結論に至るものになる。

 4 そして、本件のごとく住民投票の投票行為をしただけの者でも、その当否の司法判断が可能とすることを認めた場合、司法裁判所が政治問題などすべての問題を決定する機関と化する危険があり、他方これを回避しようとして、いわゆる萎縮効果的に地方議会などで住民投票の制定ないし実施が抑制される危険性が考えられることをも配慮する必要がある者と思慮する。

 第二 本件の答弁

 請求の趣旨に対する答弁

一 原告らの請求を棄却する。

二 訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

 請求の原因に対する答弁

 必要に応じて、追って答弁する

  添付書類

  委任状 六通


 出典:三宅俊司法律事務所



 第2回口頭弁論は、6月30日(火)午前11時30分、那覇地裁


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