<書 評>

表題:放射能兵器・劣化ウラン−−核の戦場・ウラン汚染地帯
著作:劣化ウラン研究会編
定価:2500円+税(四六版上製・224ページ)
出版:技術と人間
   〒162-0814東京都新宿区新小川町3−16
   TEL:03-3260-9321 FAX:03-3260-9320


東京新聞2003年5月4日(日)読書(10面)

<廃棄物処理でもあった武器の情報操作暴く>

評者・常石敬一
神奈川大学教授・科学史、生物化学兵器軍縮

 本書は、一九九一年の湾岸戦争から使用され始めて先のイラクでの戦争でも使われた、劣化ウラン弾の被害の実態を明らかにするだけでなくそれが核燃料サイクルの廃棄物処理という側面を受け持ち、そのためか二重三重の情報操作・隠蔽が行われていることを暴露している。
 学生が「知らなかった」と驚くたびに、「なんでも知っていると思うのは思い上がりだ」と言っているが今回この本を読んで「知らなかった」と思わずつぶやいていた。思い知らされたのは劣化ウラン弾を使う側による情報の隠蔽・操作だ。
 その代表例は、劣化ウラン弾にはウラン濃縮カスである劣化ウランだけでなく、核燃料として使用した後の、自然界に存在しない危険性の高い各種放射性物質が混入している、回収ウランが使用されていること。この事実はガンや白血病の発症が一年程度という短期間のうちに起こることを説明していること。そして劣化ウラン弾を使った側は、短期間での発症を劣化ウランであれば早過ぎる、もっと別の原因ではないかと主張している事実だ。
 使った側は作り手でもあり、ウラン濃縮で廃棄物(劣化ウラン)を出し、その安全管理責任を買う立場でもある。それらの国々が回収ウランの危険性を知らないはずはない。それにもかかわらず、ガンなどの病状の急激な進行は劣化ウランでは説明がつかない、などと主張するのは、劣化ウラン弾に回収ウランが混入されている事実を隠蔽した結果だ。
 また、劣化ウラン弾による後遺症を、化学兵器によるものとする情報操作・隠蔽の例も指摘している。イラクは一九八八年に自国のクルド族に化学兵器を使った。米国などはそれを利用し、その地域でのさまざまな肉体的異変の原因を、劣化ウランではなく化学兵器に求めるようなことが行われているという。かつて筆者はこの動きに巻き込まれそうになったことがあり、この指摘は苦い思い出と重なる。多くの人が本書を読み、事実を知り、劣化ウラン弾追放に立ち上がることを願っている。


(新聞)ACT;2003.5.12,ACTの本棚(8面)

 アメリカによるイラク攻撃でも劣化ウラン弾が使わているとされています。この事態にかんがみ「劣化ウラン研究会」の活動の集大成として、この本は緊急に出版されました。劣化ウランの本質から廃絶運動まで、複数の著者が幅広く述べています。
「劣化ウラン」という言感から、毒にも薬にもならない役に立たないものとイメージされるのではないでしようか。ところが、劣化ウランは猛毒物質なのです。原子力関連では、このように意図的に誤解を招くような用語が多く使われており、それが原子力の本質を示しているように思えます。
 世界的に「大量破壊兵器」の廃絶が話題となっていますが、劣化ウランを兵器にしようしたならば、「大量殺戮兵器」となります。なぜならば、影響範囲が広範囲におよぶだけではなく、子々孫々にまで、人類の歴史に比べたら永久的ともいえる時間にわたり、その害毒を及ぼすわけだからです。原子爆弾のような一過性の被害がないだけに、かえって悪質といえるでしょう。劣化ウランは史上最悪の大量殺戮兵器といえます。劣化ウラン兵器の廃絶、さらに進んで、劣化ウランそのものの利用を根絶しない限り、人類のみならず地球の未来はないと言っても過言ではありません。
 しかしながら、アメリカをはじめとする、劣化ウラン兵器を製造し使用している当事者は、劣化ウランの放射能がきわめて弱いことから、体外被曝の害のみに焦点をしぼって、「通常兵器」であると強弁して、今後ますます使用を拡大しようと、あらゆる機会をねらっています。
 著作者の「劣化ウラン研究会は、劣化ウラン関連の廃絶に向けて取り組んでいます。極めて微々たる力しかありませんが、劣化ウランの乱用ともいうべき事態を少しずつでもなくすために、この本により現状を把握され、皆様のご協力を切にお願い致します。

野村修身(工学博士)


日本文トップページに戻る
[Go to English Top Page]