日毎に危険度を増すイラク

マリア・トムチク
ZNet原文
2003年12月2日


イラクの「治安状況」は改善しつつあるのだろうか?その答えを示す最上の鍵は、感謝祭の日にブッシュが行なった、2時間のイラク最高機密訪問に示されている。ブッシュは、重警備下に置かれたバグダット国際空港を出なかったのだ。

最近数週間でイラクを訪れた米国政府関係者はブッシュだけではない。ポール・ウォルフォウィッツは、最近秘密裡に一夜を過ごしたバグダッドのアル・ラシード・ホテルに向けて発射されたミサイルの標的であった。ブッシュ訪問のわずか二日前には、英国外相ジャック・ストローがバグダッドに一夜秘密で滞在していたが、やはり真夜中に、発射されたミサイルで起こされた。

ブッシュの飛行機が着陸したことさえ、奇跡である。援助団体と記者をバグダッドへ出入りさせるヨルダンの商用機は、空港使用を止めた。ブッシュ訪問の数日前には、バグダッドに定期便を送っていた唯一の商用機であるDHLの貨物機が、離陸時にミサイルで攻撃を受け、緊急着陸した。7月には全面的な商用利用の準備が完了していたという空港での出来事である。現在商用機の利用は一つもない。

米国のメディアは、米軍がイラクのゲリラに対して先制攻撃を進めていることを強調している。「鉄槌作戦」と「アイビー・サイクロン作戦I・II」である。空っぽの原野に向けて迫撃砲が発射されたり、木々の陰にゲリラが隠れているかも知れないからということで果樹が爆撃されたり、農家から人が追い出され破壊されたり、ジュネーブ条約で禁止されている集団懲罰の一環として家族を追い立てたりといった米軍の行為について聞き、映像を目にする。米軍兵士たちが、ゲリラはどこにいるのか、武器貯蔵所が見つからないのは何故なのかと考えながら、数日にわたってバグダッドの破棄された染め物工場へ向けて発砲し、困惑した住人たちがそれを眺める。

ペンタゴンの報道官がTV画面に現れ、イラクの治安状況は改善され、米軍兵士に対する攻撃は激減したと語る。けれども、現地の証拠は全く逆であることを示している。

例えば、ジョージ・ブッシュのバグダッド国際空港「ピンポンダッシュ」を例に取ろう。治安が改善されているのならば、何故、バグダッドに行ってポール・ブレマーのところで一晩過ごさなかったのだろうか?道ばたの爆弾やロケット駆動爆弾といった、毎日のように米軍兵士を殺し続けているちょっとした問題があったからであろう。11月だけで、米軍兵士79人が死亡した。9月と10月に殺された人数の合計よりも多い数である。そして、イラク全土で夜間に迫撃砲やミサイルによる米軍施設への攻撃が続いている。ロバもゲリラ運動に徴兵させられたというバグダッドでさえそうである。

それから、自動車爆弾があった。イラクで爆発した車やトラックの数があまりに多くて、メディアはその数を把握しきれなくなっている。毎週、少なくとも2、3の車が爆発する。最近最も好まれる標的はイラクの警察である。先週はバクバとカーン・バニ・サードの警察署外で自動車爆弾が爆発し、18人が死亡し(そのうち2人は小さな子供だった)、50人以上が怪我をした。ブッシュ政権は、米軍兵士のかわりに治安パトロールを行う10万人規模のイラク警察隊を創生しようと考えているが、現在訓練を受けているのはたった1万人であり、暴力のために何百人という新任の警官が仕事を辞めている。イラクの警察は、仕事を行うに十分な装備がない---警察車すらない---と述べ、また、警察署への疑わしい車の進入を防ぐ防壁が全くないと述べている。上級の警官を失っていることも打撃である。先週、ゲリラは、バグダッド近くのラティフィヤの警察署長を暗殺し、モスルでは、イラクの石油インフラを担当する部隊を統制する警察大佐を殺した。

石油に関して言えば、ゲリラは今も定期的に石油とガスのパイプラインを破壊し、イラクの輸出収入に打撃を与え、また、不確実で---けれども必須の---国内消費向け燃料石油の流通に打撃を与えている。先週2カ所に火が付けられた。感謝祭の日、バグダッドは停電した。最近ではしょっちゅうあることである。バグダッド住人がTVをつけてジョージ・ブッシュ訪問を目にすることができたのは、ようやく金曜日のことだった。米国が指名した行政委員会のメンバーの2、3人をイラク人と数えるならば別だが---ほとんどのイラク人はそうは考えない---、ブッシュはイラク人に話しかけてはいなかった。

さらに、スンニ派三角地帯に駐留する米軍部隊は、自分たちへの攻撃が減っているとは見なしていない。ティクリットの町全体を囲む巨大なワイヤー・フェンスを立てること---それにより町が実質的な集中キャンプになる---もまた問題の一環をなすだろう。アラブ世界全体が、これを、イスラエルによるパレスチナ人への攻撃---イスラエルの将軍たちやアリエス・シャロン自身の閣僚からも批判を浴びた失敗プログラム---に比すものとして見ていることは確実である。事態を悪化させることが確実なことをしろ!その意気だ、ジョージ。

100%米国のTV向けに行われたイラク秘密訪問と同様のことを。


マリア・トムチックの文章は、これまで、「薄弱なパウエルの証拠」と「査察官、米国の批判に反証」、「導師たちとイカサマ師たち」、「イラク:戦争は続く」、「イラクのゲリラ戦」を日本語で紹介してきました。

先日(多分12月3日)、たまたま、ある場所でNHKというTV局の番組を見ていたら、イラクの状況について、英語を字幕で流しながら日本語音声訳が流れていた。「suicide bombing」を「自爆テロ」「自爆テロ」「自爆テロ」と言い続ける日本語音声が印象的な報道。事態を明晰に見る意志の欠如。柔らかに自閉した幻想の中で「わかるでしょ!」と叫んでいるだけの報道。

毎日新聞が、自民党国防部会は、「自衛隊のイラク派遣の内容を定めた基本計画を閣議決定する際には、自衛隊の具体的な活動地域を明示せず、「非戦闘地域」に該当するかの判断をしない方針を明らかにした」と報じた。「非戦闘地域かどうかは自衛隊が活動する時に判断すればいい。(基本計画で)判断する必要はない」と。

そして、外交官が死亡したために「その意志を受け継いで」とか「自分の国を守るのは、自分たちではないでしょうか」とか、「だれが守ってくれるというのでしょう」とか、奇妙な発言が跋扈する。「最早、戦争は始まった」とか。ほとんど何も現実性とのつながりを失った、ストーカーの世界。政治的な責任を全く果たそうとしない子供(というと子供に失礼な)の集団が人殺しのために人々を死地へと追いやろうとする状況。

戦争は始まっている? 日本は米国が始めた戦争に参加したと、正確に言おう。国際法を無視し、世界中の人々の声を無視して石油支配のためにイラクの人々を虐殺する戦争に、米国に尻尾をふる日本が参加したと。自分が戦争を始めておいて、「だれが守ってくれるのか?」という奇妙な倒錯(勘違いしたストーカーによくある悲惨な心性)。

「自分の国を守る」という奇妙な発言も多発している(政府と社会の区別さえついていないような・・・・・・)。自分たちで国を守る? それが尊いことならば、一方的に不法に侵略され、占領され、劣化ウランをばらまかれ、生活を破壊された中で「国を自分たちで守ろう」としているイラクの人にエールを送るべきではないだろうか?

中井久夫氏が、戦争中勇ましく威張り腐っていた人々は、戦後最も卑屈な民主主義者になったといったようなことを、どこかに書いていた。1945年1月1日、清沢洌が『暗黒日記』に「日本国民は、今、初めて「戦争」を経験している」と書いている。仮に「満州事変」を起点に考えると15年も侵略戦争を続けながら、自分の頭に爆弾が降りかかり初めて、ようやく「戦争」を経験し始めたと。
戦争は文化の母だとか、「百年戦争」だとかいって戦争を賛美してきたのは長いことだった。・・・・・・戦争は、そんなに遊山に行くようなものなのか。それを今、彼らは味わっているのだ。

「自衛隊のイラク派遣の内容を定めた基本計画を閣議決定する際には、自衛隊の具体的な活動地域を明示せず、「非戦闘地域」に該当するかの判断をしない方針を明らかにした」などという卑劣な責任逃れをする人々は、一方で、外交官の死亡に際し「その意志を継いで」などと、不法な侵略戦争への全面荷担展開に忙しい。

一方、自衛隊の家族からは、心臓をつかまれるような発言がある。自ら米国に尻尾を振り日本を不法な侵略戦争に荷担させようという小泉氏・石破氏・川口氏・安倍氏が、外交官の死亡を自らの意志を推し進めるために活用し、自衛隊員を使い捨てようとしていること(そしてその前提としてイラクの人々については蚊ほどにも考えてすらいないこと)は明らかである。

突然、スーザン・サランドンの言葉を思い出した。

アメリカの若者達が遺体袋に入れられて帰ってくる前に、イラクで女性や子供たちが命を落とす前に、知っておきたいことがあります。イラクは私たちに何をしたでしょうか。

もうすぐ、真珠湾攻撃の日。今回はアメリカ様の庇護のもとでの弱い者攻撃だから安全だと、小泉首相や石破長官、川口外相などは思っているのだろうか。

益岡賢 2003年12月6日 

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