hon-small-orange.gif (121 バイト) 文庫本のご紹介 『市民の反抗』と『草の葉』 (岩波文庫)

 今年(1988年)になって出た文庫本のうち、岩波文庫の『市民の反抗』と『草の葉』の二点はどちらも新訳、改訂版で、おすすめです。『ウォールデン――森の生活』の著者でもあるヘンリー・ディヴィッド・ソロー(1817〜62)の『市民の反抗』は、ガンジーやマーチン・ルーサー・キングなどに決定的な影響を与えた非暴力にかんする古典中の古典と言うべき論文(実際は講演の記録)で、「統治することのもっとも少ない政府こそ最良の政府」という有名な言葉で始まります。戦争のための納税を拒否して投獄されたソローは、「人間を不正に投獄する政府のもとでは、正しい人間が住むのにふさわしい場所もまた牢獄である」と言います。感動的な書物です。
 本邦初訳の論文も含まれています。 『草の葉』は言うまでもなく、アメリカの詩人ホイットマンの代表作。上中下三巻、新訳です。上巻の中の一篇だけをここにご紹介しておきます。

     合州国に
合州国に、あるいはそのいずれの州、いずれの都市にもわたしは訴える、『おおいに抵抗し、服従は少なく」、いったん異議を唱えず服従し、骨の髄まで奴隷になれば、
 いったん骨の髄まで奴隷になれば、地上のどんな国も、州も、都市も、ついぞそののちおのれの自由を取りもどすことはない。
 
 アメリカのことは一般には「合衆国」と書かれ、「合州国」と書くのは小田実さん、本多勝一さんと私ぐらいだと思っていましたが、この詩集の訳者はわざわざ断って、ホイットマンのアメリカに対する理想像からして、敢えて「合州国」という表記を用いるとしているのも嬉しい。

 『市民の反抗 他5篇』 飯田実訳 660円 + 税
 『草の葉』 酒本雅之訳 上 700円+税 中 760円+税 下 760円+税 

 (『市民の意見30の会・東京ニュース』1998年4月1日号に掲載。)

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