27. 　9月3日の藤本義一さんのワイン会の報告　（1999.9.5.掲載）　

　「ニュース」No.26でお知らせした藤本義一さん主催の8〜9月ワイン会の4回目に、一昨日（3日）参加しました。金曜日は、私の入っている「市民の意見３０の会・東京」の定例会議と重なってしまい、どうしても、ワイン会の終わった後、そちらにも顔を出したかったので、移動のことを考えて、車で行きました。つまり、ワイン会に出た事は出たのですが、次々とサーヴされるワインは、ほんの一なめ、味見をするだけで、ほとんどワインは飲めないという、実に妙な参加の仕方になってしまいました。つがれたワインは、もっぱら、隣の席の高橋武智さんのほうにまわってしまうことになりました。

　さて、開会時刻の大分前から、会場の新高輪プリンスホテルのイタリア料理「イル・レオーネ」では、受付のテーブルに藤本さん自身が座って、登録やら、胸に着ける名札くばりなど。
  店内は、約90名参加でほぼ満席。参加者の中には、芥川賞作家の三田誠広夫妻、評論家の辛叔玉さん、作家の吉岡忍夫妻、名古屋大学理学部教授の黒田光太郎さん、浦和シタデルの東一邦さん、古藤事務所の古藤彰さん、阪本京子さん、�潟vロテックの山田健司さん、画家の中村鈴子さんらの顔もありました。
　
　定刻6時半ジャストに、長い挨拶も何もなくすぐワインが注がれ始めるのは、いつもと同じ。7種のワインが次々とサーヴされ、メイン ・ディッシュも終わって西洋梨のシャーベット、コーヒーが配られるころ、藤本さんが中央に立って、僅かに残っている秘蔵のワインのオークションを始めました。(大部分は、今年2月の大パーティのときのオークションで処分されてしまいましたから……）。藤本さんは、そこでの売り上げは、すべて市民運動の「市民の意見30の会・東京」に贈リたい、と言われ、市販では手に入らないブルゴーニュのコルトン 89年、ボルドーのシャトー・バレスタール・ラ・トネル82年、そして貴腐ワインのシャトー・クリマン83年（ボルドー・ソーテルネ）などの逸品がつぎつぎと披露され、総売上は21万2千円、その全額がその場に出席していた私に手渡されました。(これらのワインは、一般市場には回らないもので、元気なら、私が全部買い取りたいくらいだ、と藤本さん自身が言われるようなワインが、ずいぶん安い値で落札したようです。）
　

  挨拶の中で、藤本さんは、つぎのような話を淡々とされました。――かつては私は死をおそれていた。いつまでも生きたい、目玉だけでも生き残ってこの世の動きを見ていたいなどとも思っていた。だが、ガンという病気をしたおかげで、いろいろなことが判ってきたし、考えも変わった。心臓や脳出血などで急死したのでは、私が集めていた版画の処分など、興味を持たぬ価値を知らぬ息子たちなどによってあっさり処分されてしまったかもしれないのだが、ガンと共存して暮らしていて、そういう準備も思うようにできたし、淡々と生を送ることができるようになっている。(この席には、藤本さんの長男、良平さん、次男の朝也さんも参加されており、朝也さんは、オークションのお手伝いなどをされていました。）
　――体力は落ちていて、最初の日、品川駅からの、ゆるい坂を登ってこのホテルへつくまでに3回も腰をおろして休まねばならす、そのあとは守屋和子さん、それに斎藤浩司、佐藤彰さんらに車での送迎のお世話になっている。タクシーを使えばいいのだろうが、私は元来ケチで、あのメーターがカチッ、カチッとあがるたびに、身が縮む思いで……。でも、あまり皆さんのご迷惑を掛けないように、これからはタクシーに乗る修行もしてみます。
　今日また、封筒をお配りするが、これに参加者それぞれが自分の宛名を記入しておいていってほしい。もし自分にまだ余力と時間があり、次のワイン会が開催できるとなったら、その案内状をお送りするためだ。また、お会いできればとても嬉しいが……。

　声は相変わらず大きいのですが、最初は立ってワインを高く掲げながら始めたオークションも、途中からは椅子に掛けて続けましたから、やはり、体力はかなり落ちておられる様子でした。

　藤本さん自身、テーブルでの会話の中で、食欲はほとんどなく、毎回の食事では、しばらく睨めっこしているんだ、と話しておられ、実質的な食事はほとんどとられていない感じでした。欲しいものは？と聞いたら、(1)金山寺みそ，(2)奈良漬、(3)川エビの佃煮、(4)ラスク、(5)缶入りの「佐久間ドロップス」……これらは病院の売店にはないし、近くにスーパーもないんでね、と言われました。これらのリストからも、藤本さんの今の好みのものが推察できます。お見舞いに行く方は、適宜お選びください。もっとも、みんなが金山寺ミソばかりを持って行っても困りますが……。