hon-small-orange.gif (121 バイト) チョムスキーの新刊 『9・11』はぜひとものお勧め (01/12/03

 「9・11」事件について、積極的に鋭い論評を発表してきたアメリカの言語学者、ノーム・チョムスキーの意見は、そのうちの初期の一つを、以前、本ホームページの「市民運動」欄でも拙訳をご紹介したのだが、このほど、この問題についての彼へのインタビューをまとめた本がアメリカで出版され(左の図)、いちはやく邦訳が出た(右の図)。何と、「緊急出版」と銘打って、よりによって文藝春秋社からの発行とは、いささか驚いたが、これはお勧めの本だ。タイトルは『9.11――アメリカに報復する資格はない!』、訳は山崎惇、定価は税込みでチョムスキー原書 1,200円。原書でも 8.95 ドル(日本のアマゾンで買うと1,041円、ただし現在は在庫切れ)だから、訳書の値段としてはまずまずと言えよう。
 帯にはこうある。――
緊急出版 今回の自爆テロは「文明の衝突」などではない。「テロ国家の親玉」アメリカに対する別のテロ集団の挑戦である! アメリカの知性チョムスキーが、世界のメディアの疑問に答えて、国際政治におけるテロの実態を解き明かしたインタビュー集――。先に「いささか驚いた」と書いたのは、これが文藝春秋社の編集部がつけた帯だからだ。本の中身はまさにこの帯の言うとおりで、それについての異論はまったくない。(この本について、私にメールをくれたある友人は、「今回のテロとその後の米国の反応をめぐっては、西部 邁氏が編集する『発言者』誌などでも、福田和也氏らの『右派』が反米の論議を展開しています。もちろん立ち読みしただけでじっくり読んだわけではありませんが、例によって情緒的で、論理も雑です。かつての赤尾 敏のように『反米愛国』を気取っているのでしょう(赤尾さんのほうが、人間的におもしろいだけマシでした)。文春もその流れにのって、こういう本を出したのかもしれません」と言ってきた。さあ、この観察は深読みかなぁ?)
 ただ、この本の著者はノーム・チョムスキーとなっているのだが、本の最初には、ニューヨーク市のグレッグ・ルジェロという署名入りの「編者ノート」なるものが入っており、9・11事件以後、チョムスキーに対してさまざまなメディアや個人 が行なったインタビューをこの編者がまとめたものだとされている。「まとめた」といっても、単なる編集ではないらしく、「追加、改訂」などの作業も含まれ、その結果、「九月に行われたインタビューが一〇月に起きた事件に触れている可能性がある」などとも書いてある。グレッグ・ルジェロという原書の編者がどういう人か私は知らない(注)。訳書にはかなり長い「訳者あとがき・解説」もついているのだが、この辺の事情はまったく明らかにされていない。
 もっとも、この訳者は、その「訳者あとがき・解説」で、ずいぶん正直に書いているのだが、チョムスキーがどういう人物なのか、この本の訳を頼まれるまで、著名な言語学者だという以外には、まったく知らなかったそうだ。訳者は1968年当時、アメリカの東部のあるで大学で日本語の教師をしていたという。1968年といえば、ベトナム戦争の最も熾烈だった年だ。チョムスキーは現在以上に活発な反戦の発言と行動を行なっていた時で、当時、訳者はアメリカにいながら、戦争にも政治にもまったく関心がなかったということになる。しかし、この本の訳を始めてから、彼はチョムスキーの他の本も手にし、そしてつぎつぎと共感し、開眼してゆく。それが「訳者あとがき」に正直に書かれており、その過程が興味深く、好ましく読めた。訳者はそこで、小泉首相への批判や、日本の政策についても遺憾の念も表明している。
 さて、肝心の中身だが、チョムスキーのこの事件に関する意見は極めて明快である。たとえば、アフガニスタンに対する攻撃は「テロに対する戦争」か?という問いに対し、「アフガニスタンを攻撃すれば、おそらく大勢の無辜の民が殺されるはずだ。何百万人がすでに餓死の瀬戸際にいる国で膨大な数の死者が出る。罪のない民衆をほしいままに殺戮するのはテロリズムであり、テロに対する戦争ではない」と断言する(85〜86ページ)。 チョムスキーは、これまでアメリカ国家が繰り返してきた多くのテロ行為を歴史的に明らかにするが、たとえば、「米国は、国際司法裁判所によって国際テロで有罪を宣告され――裁判所の言い方では、政治的目的のため『力の非合法な行使』に対し――これらの犯罪を中止し、相当額の賠償金を支払うよう命令された唯一の国である」(95ページ)などという事実(ニカラグァに対するテロ戦争)を、私は恥ずかしながら知らなかった。
 テロや暴力の問題にかんするかぎり、チョムスキーの説く論理とアメリカに関する歴史的事実の実証は、この上もなく説得的であり、9・11事件以後の世界と日本の事態を憂えている人びとにぜひともお勧めしたい一書である。全文で157ページの本だから、手に取るのも苦痛ではないはずだ。
 ただ、この地域と石油などの膨大な天然資源、そしてアフガニスタンを通るパイプラインの問題については、チョムスキーはこの本で一箇所だけでしか触れていないが(122〜123ページ)、ブッシュ政権とアメリカ石油資本との関係などからすれば、もう少し、この点の突っ込んだ分析も欲しい気がする。それは、同じころ出た『現代思想』10月臨時増刊の『これは戦争か』(青土社 ¥1,000)についても感じたことだが……。
 なお、アメリカの「アマゾン」で紹介されている読者評はこういっている。訳さずにごめんなさい。
Essential background to current war, November 15, 2001
Reviewer: A reader from Los Angeles, CA United States

The only shortcoming of this book is its brevity. Luckily, however, the facts about American foreign policy that Chomsky alludes to here are thoroughly documented in his other work, spanning four decades (_Deterring Democracy_, _The Fateful Triangle_, and _The Culture of Terrorism_, for example). Thin as it is, this pamphlet provides more relevant background to understanding the crimes committed on September 11, 2001, and the current "war on terrorism" and on Afghanistan, than anything else published so far on these tragic events. As Chomsky persuasively demonstrates, the United States is no more engaged in a war on terrorism now than it was 20 years ago, when a different administration was pioneering today's foreign policy rhetoric. What we are engaged in is a war on those terrorists who oppose American interests, and it is not even clear that the methods chosen are effective to that end. If we are seriously interested in preventing a repetition of the 9-11 attacks, or worse things to come, then it is imperative that we look to the reasons why the United States is almost universally hated in the arab and Islamin world, and this implies certain very concrete changes that we should make in our policy toward the Middle East, such as ceasing our support for Israel's system of apartheid and lifting the genocidal sanctions on Iraq. Noam Chomsky is one of the leading experts on US Middle East Policy and especially the Palestinian question, so it is clear why he has a lot to say on these matters, and why we should listen to what he says carefully.
注) この記事を読んだMKさんから、以下のようなお知らせをいただきました。ありがとうございます。
Chomskyの本の編者、Greg Ruggieroがどんな人物か知らない、と書かれていたので、とりあえずごく簡単な略歴をお送りします(原著の発行元であるSevenStories Pressのページに出ていました)。
 Gregg Ruggieroは、活動家でニューヨークのSeven Stories Pressの編集者。2年にわたり、DJ Thomas Paineという名前でSteal this Radio (88.7FM)という自由ラジオ局を主宰していた。1999年に3カ月のサバティカルをとり、マッカーサー財団の援助を受けて民主的コミュニケーションに関する全米弁護士連合委員会のオーガナイザーとして勤務。(Seven Stories Pressの)Open Media Pamphlet Series (Chomskyの本もこのなかの1冊)の編纂者。この叢書は、湾岸戦争時に(反対)運動のために創られ、Ruggieroも共同提案した1人である。おもな著書にMicroradio and Democracy (Seven Stories Press)、共著に Critical Mass, Voices for a Nuclear Free Future (Open Media 1996), The New American Crisis: Radical Analysis of the Problems Facing America Today (New Press 1995), Open Fire (New Press 1993)がある。 (以上)
 なんとなく分かるけれど、よくは分からない、という気がしないでもありませんが……。ご参考までに。(MK)  
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