19 まったく私的なご報告や感想――肺ガンのこと、歯の治療のこと、貯金取り崩し生活のことなど (2006年04月28日 午前2時 掲載)

 この欄に載せようか、それとも「障害者として」の欄にしようか、と少し迷った末、「障害者として」のほうに、延命治療の話や、高齢者・弱者の生活がますます圧迫され、苦しくなっている、という文章を数日前に載せました。そちらも覗いてみてください。今日の以下の話は、もっと私的なことにかかわるので、こっちの「雑感」欄に載せることにました。

 (1)肺ガンかもしれないと思い、検査をした話。
 膀胱や胃がガンにかかり、かなり大規模な手術をしたのですが、もうそれから10数年になります。それでも現在は、半年に1回、膀胱摘出手術をした泌尿器科のほうと、胃の4分の3を切除した外科のほうとで、血液、尿の検査をしたり、腎臓等の超音波検査をしたり、胸のレントゲン写真をとるなどの検査を受けています。
 先月の外科の定期検査の際、血液検査の結果、腫瘍マーカーがかなり高くなっているとのことでした。担当の医師は、時々は高くなることがあっても、しばらくしてもう一度検査をして下がっていれば、心配はない、一月たったら、もう一度血液検査をやりましょう、ということになりました。
 それで、先週血液を採取して分析してもらったのですが、その結果わかったことは、今回の検査では、腫瘍マーカーは先月よりももっと高くなっているということでした。医師は、膀胱のほうにせよ、胃のほうにせよ、もう手術をして10数年たっているのだから、転移や再発ということはまず考えられない。とすると、まだ一度も検査をしたことのない肺ガンかな?などと言いながら、首を傾げました。昨年、自治体の検査で、痰検査などもして、一応肺ガンの恐れなしと言われたのですが……と言うと、いや胸のレントゲンや喀痰検査では、はっきりした診断はできないのですよ、肺のCTスキャンをやって見ましょう、という話でした。
 それで、すぐ検査室へ回され、肺のCTスキャンなるものをやることになりました。これは、寝たままで、電動でドーム上の筒の中を入ったり、出たりしながら、肺の断層写真をとるもので、苦痛などはまったくありません。
 さて、この検査の結果を、今週の水曜日に聞くことになっていました。外科の医師は、肺のCT写真の専門の医師にも見てもらって、所見を聞いたが、古い肺浸潤の痕跡みたいなものはあったが、肺ガンの徴候はまったく見られない、という所見が来ている、よかったですね、これでしばらくは安心で、次回は9月に検査をすることにしましょう、で落着しました。
 さて、確かに「よかった」のですが、欣喜雀躍するほどの喜びというわけでもありませんでした、その辺は、少々複雑な心境なので、以下にポチポチと記してみることにします。

 (2)貯金取り崩し生活とその期限、および歯の根本治療のこと
 昨年の6月まで、つまり、連れ合いが生きているうちは、二人の厚生年金や国民年金収入などの範囲内で、生活はできていました。しかし、彼女が死んで、彼女の分の年金が遺族年金に変わると、私の年金の額はだいぶ減り、その両方をあわせても、かなりの赤字となり、預貯金を取り崩してゆかないと生活できなくなりました。二人暮しのときの支出と、一人になってからの支出をずっと比較しているのですが、確かに支出の総額は減っているものの、収入のほうがずっと減ってしまったので、どうしても赤字になります。
 それで、現在の預貯金から不足分を補って暮らすとすると、あと何年もつだろうか、というシミュレーションの計算をこの1月にしてみました。その結果は10年はどうやらもちそうだということでした。85歳まで暮らせるのだったら、ま、それでいいか。それ以前に寿命が来てしまうかもしれないし、などとも思いました。

 さて、その後、私の歯の状態がかなり悪化し、根本的な治療が必要になってきて、3月から歯科医院に 通い始めました。この歯科医院は、私がすでに30年近く見てもらっている医院で、規模もかなり大きく、医師たちの腕もかなり優れている信用している医院です。上も下も、歯周病がひどく進行し、もう、これ以上は騙しながらもたせるのは無理だというのが、院長の診断でした。それで、奥歯も含めて、もはや治療では不可能という歯は、思い切って抜歯し、よく咀嚼できるような入れ歯を作り直しましょう、ということになったのです。(すでに、これまでも、上下ともブリッジを使った部分入れ歯が入っていたのですが)。
 さて、費用の問題です。もちろん、健康保険の対象となっていて、それを使えば、下だけで2〜3万、上下でも5〜6万円程度でできるとのことでした。ただし、その場合は、やはり何とか残っている歯にブリッジを引っ掛けて装着する部分入れ歯だそうです。これだと、永久的治療とは言えず、何年かたったら、また作り直し、ということにもなるだろうし、見栄えも実際の咀嚼もあまり最善とは言えないとのことでした。
 健保を使わないでやるもっといい治療があるのか、と聞くと、それはあります、ブリッジの方式ではなく、歯茎全体にかぶせるような入れ歯で、これは一度つくってしまうと、あと、残った自分の歯がまただめになって抜歯をするようなことになっても、作り変える必要はなく、それに咀嚼もずっと快適になります、との説明でした。それだと費用はどれくらいでしょう、と尋ねると、そうですね、下だけで150万円前後でしょう、との返事。保険を使う方式との開きはえらくありますね。もちろん、医師は、それを決めるのは患者さんであって、私のほうは、どちらにお決めになっても、最善を尽くします、とも付け加えました。上は?と聞くと、下ほどではないにしてもやはり100万円前後は見ておかねばならないでしょうとの返事。
 友人や、弟妹たちの意見も聞いて見ましたが、ほとんど全員が、歯だけはいい加減でないほうがいい、三度三度の食事のたびにご厄介になるのであり、それが快適な食事になるのか、それとも調子のよくない入れ歯で、そのたびに不愉快な思いをするのかは、えらい違いだ、健康にもかかわる。金はかかっても、思い切って、いい入れ歯を作ってもらったほうがいいよ、という返事でした。私も確かにそうだと思いました。ただし、ウーム。計250万円の支出か! 

 そこで、先に述べた85歳までは、預貯金を取り崩しながら生活できる、という見通しを、3〜4年分繰り下げて、82〜83歳までは現在のような暮らしが何とか可能だ、と変更せざるを得ないことになります。難しいのは、私があと何年生きているのかがさっぱり分からないことにあります。だいぶ以前になくなった畏友、鶴見良行さんとは、それを知ることができたら金の使い方ももっと有効になれるんだが、と酒を飲みながら、よくぼやいたものでした。
 そんなことを考えている最中の、肺ガン検査だったのです。私の知人で、肺ガンに見舞われた人は何人もいます。手術をして、それは成功した、と伝えられるのですが、しかし、そのご3〜5年で再発、あるいは転移して死去します。ほとんどの場合が、発見が初期ではなく、手遅れになっていたのです。
 さて、そういう状況の中での腫瘍マーカーと肺のCTスキャンです。なんでもなかった、という結果が分かってしまってから書くので、本心かよ?などと思われてしまうかもしれないのですが、検査の結果を聞くまでの1週間ほど、肺ガンと診断されたときのことをいろいろと考えました。簡単にいうと、ショックでも、困ったでも、ガックリでもなく、淡々と受け入れられるな、という思いでした。むしろ寿命があと5年だということになれば、ほんとに、その5年間は、金もけちけちせず、温泉に行ったり、コンサートを聴いたり、オペラを見たり、未読の本にとりくんだり、好きなことを好きなだけ続け、最後の痛みだけは、モルヒネでも何でもいいから、なんとか取り除いてもらいさえすれば、あとは連れ合いのところに行けばいいんだ、と思ったのです。
 というわけで、肺ガンではない、という結果が出ても、「よかった、よかった」というほどの喜びでもなかったのです。83歳を過ぎたら、どうしよう?という難問がまた舞い戻ってきています。