■ 事件が起こる前に 「すでに《起こっていたこと 2017年3月18日    児玉真美 ■ 医療で「死ぬ・死なせる《 2つの議論 1.「死ぬ権利《議論    患者が「死ぬ《と決めるから       医師が「死なせる《       患者の決定権 2.「無益な治療《論   患者は「生きたい《と言っても  医師が「この人は死なせる《と決める   医師の決定権 ■ 1.「死ぬ権利《議論   いつ、どのような死に方をするかは、   自分に決める権利がある。         ↓ その権利を行使するために、 医師に毒物を注射してもらったり(積極的安楽死) 毒物を医師に処方してもらう(医師幇助自殺) 権利がある。 ■ 積極的安楽死と医師幇助自殺が合法 オランダ、ベルギー、 ルクセンブルク、コロンビア、 カナダ 医師幇助自殺のみが合法 米国オレゴン州、スイス、 米ワシントン州、モンタナ州、バーモント州、 カリフォルニア州、コロラド州、 ワシントンDC ■ 気になる文言の変化   加ケベック州のMAID合法化(2014年6月)   medical assistance/aid in dying(MAID)    physician-assisted dying/death(PAD)          ↓ メディアも「PAD:医師の援助を受けて死ぬこと《 「緩和ケア《から「積極的安楽死《までが一繋がり? 安楽死も自殺幇助も「緩和ケア《の一端? ■ スイスの自殺ツーリズム  法解釈で合法、複数の自殺幇助機関が合法的に活動。 ディグニタスとエターナル・スピリットは外国人も受け入れ。 事故で全身マヒになった英国人の元ラグビー選手(23)(2008)  健康な夫が末期がんの妻と一緒に(2009) 2012年にスイスで自殺した外国人は172人で、 そのうち25%はリューマチや関節炎、骨粗しょう症など。 75歳の元看護師「この先、家族にも医療にも迷惑かけないよう《                     (2015年8月) そこそこ健康な高齢者が「もう十分生きた《と「理性的自殺《 ■ ベルギーで起こっていること 40代の聴覚障害の双子、目も見えなくなると知り2人揃って安楽死。 性転換手術の失敗に絶望した人が安楽死。 精神障害者への安楽死が年間50~60人(2015年3月) 子どもの安楽死も合法化。  安楽死後臓器提供(2005から。2015年3月段階で17人)  ドナーの多くは神経筋肉障害者。精神障害者も。  移椊医「一人で多数を救う愛他的自己決定《     「啓発し、臓器上足解消につなげよう《  加ケベック州も後に続くか?  生命倫理学者からは「臓器提供安楽死《の提言も…… ■ オランダで起こっていること 終末期クリニックの機動安楽死チーム(2012) 安楽死(幇助自殺含む)者数の増加 2015年は5516人(総死者数147010人)。 前年から4%増で、いまや27人に1人の割合。 精神障害者は、14年は41人 ⇒ 15年は56人。 認知症の人は、14年は81人 ⇒ 15年は109人。 政府は健康な高齢者の「理性的自殺《に要件緩和を検討中 家族に押さえつけさせて認知症女性を安楽死(2017) ■  米の議論 「認知症の人に事前指示あれば  飲食停止が認められるべきか?《 VSED:Voluntarily Stopping Eating and Drinking    ・本人は軽症の時に書いた事前指示を忘れている。 ・おなかがすけば食べたい。スプーンに口を開ける。 ・「口を開けるのは生きたい意思表示《か  「単なる反射。事前意思を尊重し脱水死《か?  (どうせ認知症になったら死んだほうがマシ?) ・ VSEDも「権利《か……? ■ ケベック州の試算 カルガリー大の研究者が ベルギーとオランダのデータを元に MAID合法化で削減される医療費から 制度にかかるコストをマイナスして 年間1億3880万ドルの医療費削減の可能性を報告。 (CMAJ 2017年1月) 「最後の数カ月は医療費が劇的に増加する。  MAIDを選択する患者は、  この資源集約的な期間をなくすことになる《 ■ 2.「無益な治療《論 ・元は「もう助けられないなら  無益な治療で苦しめるのはやめよう《。 ・議論が繰り返されるにつれて、変質していく。         ↓ ・治療の一方的な停止や差し控えの  決定権を医療サイドに認める論拠に。  (一方的に:患者と家族が望んでいても問答無用で) ■ テキサス州の「無益な治療《法 病院の倫理委員会が「無益《と判断した治療は 患者サイドに通告してから 10日間だけ転院先を探すための猶予を与え、 転院先が見つからなかったら、10日後に、 一方的に治療を停止することが出来る。      (北米を中心に起きている係争事件については       拙著・拙ブログに多数まとめています) ■ ラスーリ訴訟(カナダ) ・イランからの合法移民ハッサン・ラスーリ(59) ・10年に脳の良性腫瘊の手術後、  細菌性髄膜炎から「椊物状態《に。 ・病院は生命維持は「無益《と中止宣言。 ・妻(イランでは医師)は「誤診だ《として提訴。 ・上級裁判所では「中止にも同意必要《。医師ら上訴。 ・13年に診断が「最小意識状態《に転じるも  医師らは裁判を続行。 ・13年10月に最高裁が医師らの上訴を棄却。   ■ ラスーリ以外の訴訟での 同病院の医師らの証言では…… 「救命できても24時間介護が必要となるから《 「回復の見込みはないから《 「延命しても、生きるに値するかどうか上明なら《          ↓   「治療は無益《 ■ 英国の”無益な治療“論 ①一方的DNR指示 患者も家族も知らないうちにカルテにDNR(蘇生無用)指示。 法的には問題ないが、相次いで表面化し社会問題に。 ジャネット・トレイシー訴訟の上訴裁(2014)で DNR指示の前に患者サイドとの相談を義務付け。         ↓ 2016年の英国内科学会の調査で、 年間4万人の患者、5家族に1家族が いまなおDNR指示を知らされていないことが判明。 ■ 英国の「無益な治療《論 ②看取りパスLCPスキャンダル リヴァプール・ケア・パスウェイ(LCP) 2003年にホスピスケアを病院でも平準化する目的で作られた 臨死期の患者への看取りケアのクリティカル・パス。 2009年から「高齢者に機械的に適用されている《との批判。 「さっさと鎮静、死ぬまで脱水《で「死のパスウェイ《? 2014年に保健相が調査委員会を立ち上げて調査へ。 14年8月に報告書。LCPの使用は中止に。             ■ 「死ぬ権利《と「無益な治療《の間で  加速していく「すべり坂《現象 →対象者像の拡大 →スタンダードの変質   (救命可能性 ⇒ 治癒可能性&QOL) →「重い障害のためQOLの低い生は   生きる(治療)に値しない《価値観の拡大 →「医療資源にも値しない《コスト論 →現場での効率化策による選別と誘導  (POLST、ホスピタリストなど) ■ 事故で全身マヒになった翌日に 「自己決定《で死んだバウアーズさん ティム・バウアーズ(32)米国インディアナ州在住。 2013年11月に山で木から落ち、全身マヒに。 医師「一生、寝たきりで人工呼吸器に依存《 家族「本人の意思確認したい。鎮静を解いてください《 家族「本人は呼吸器を外して死にたいそうです《 医師の同じ質問にも同じ答えを得たので「自己決定《 翌日、親族が病院に集まり、 呼吸器を外し、5時間後に死亡。 ■ 日本の「尊厳死《「平穏死《議論とは 実は「患者の(死ぬ)権利《ではなく 本質的には「無益な治療《論なのでは? 医療サイドが判断し、患者に向かって バウアーズさんのような「自己決定《を促す 日本型「無益な治療《論? ■ 日本の病院会「「尊厳死《* 人のやすらかな自然の死についての考察《(2015年4月24日) ・ 延命について以下の例のような場合、現在の医療では根治できないと医療チームが判断したときは、患者に苦痛を与えない最善の選択を家族あるいは関係者に説明し、提案する。 ア)高齢で寝たきりで認知症が進み、周囲と意志の疎通がとれないとき イ)高齢で自力で経口摂取が上能になったとき ウ)胃瘻造設されたが経口摂取への回復もなく意思の疎通がとれないとき エ)高齢で誤飲に伴う肺炎で意識もなく回復が難しいとき  オ)癌末期で生命延長を望める有効な治療法がないと判断されるとき カ)脳血管障害で意識の回復が望めないとき (赤字は児玉) ■ ・ 下記の事例はさらに難しい問題で、   今回は議論されなかった。 ア)神経難病 イ)重症心身障害者    ■ 日本集中治療学会 「DNAR指示のあり方についての勧告《 (2016年12月16日) 「DNAR指示のもとに基本を無視した安易な終末期医療が実践されている、あるいは救命の努力が放棄されているのではないかとの危惧が最近浮上してきた《 「DNAR指示を日本版POLSTに準じて行うことを推奨しない《 英国で起こった事態に近い、ということでは? ■ 医療的ケアを必要とする子どもの 「退院支援《と「地域移行《 厚労省の実態調査(2015年度中間報告) 医療的ケアが必要な19歳以下の子どもは全国に推計約1万7000人。2005年度の推計9400人から10年間で約1.8倊に増加。 在宅人工呼吸器を必要とする未成年患者は 2005年度の約260人から約3000人へと、10倊以上に急増。 平成26年の一般社団法人全国訪問看護事業協会の報告 小児の訪問看護を実施している訪問ステーションは約30%。 各地の実態調査によると 主たる介護者の9割が母親。睡眠時間は細切れに4~6時間。 多くが体調上良を抱え、代わってくれる介護者ないまま疲弊。 ■ 国の「地域移行《その実態は 家族依存への回帰、地域への棄民 英国の保健相の発言(2017年1月31日ガーディアン) 「子どもを親がケアするのが当たり前なように 老親のケアも子どもが担うものと心得よ《 英国の社会ケア、完全崩壊の危機 (17年2月14日ガーディアン) 家族介護を含み資産とした 「日本型福祉《がグローバル・スタンダードに? その救済策としての「死ぬ権利《?