【緊急アピール】
 歴史の真実を歪曲することなく、正しい歴史教科書を中学生の手に!
 −「中学校歴史教科書の訂正についての意見書提出に関する陳情」に反対する−

                          1996年12月19日
                          新潟県歴史教育者協議会

 今次、新潟県議会に新潟県高等学校教育正常化促進会議(会長 星野慎一郎)なる
団体から、「中学校歴史教科書の訂正についての意見書提出に関する陳情」が提出さ
れ、総務文教委員会に付託されている。
 私たち、新潟県の小学校・中学校・高等学校・大学の歴史教育に携わるものとして
この陳情の内容をみたときに、到底容認することのできない問題点のあることを指摘
せざるを得ず、この陳情の採択に反対の立場を明らかにするものである。
 この陳情書は、来年度から使用される中学校社会科歴史分野の教科書すべてに「従
軍慰安婦」問題をはじめとして『事実を歪曲し、ことさらに自国の歴史をひぼうする
ような、史実と相違する記述が多く認められる』と述べている。また、『評価がいま
ださだまらず、信頼度の極めて低い記述のあることが、歴史の専門家ほか多くの識者
たちにより、具体的かつ客観的事実を元に数多く指摘されているところである。』と
も述べている。すなわち、従軍慰安婦問題に限らず、中学校の歴史教科書全体の記述
に問題があるとの主張である。
 陳情者はこのような主張の根拠を全く示していないが、察するに、奥野誠亮氏らの
「明るい日本」国会議員連盟や、東京大学教育学部藤岡信勝氏らの主催する「自由主
義史観研究会」などが主張する論調によるものと考えられる。しかしながら、「従軍
慰安婦」を「商行為」であったと言うなど、およそこの間、数々の体験者の証言や防
衛庁所蔵史料などから明らかにされ、1993年の官房長官談話によっても認められ
た歴史の真実とは大きくかけ離れたものである。陳情者の言う『評価がいまだに定ま
らず、信頼度の信頼度のきわめて低い記述』というのも、彼らの論調を受けてのこと
と思われるが、これらの主張については歴史学者や現場の教師から徹底的批判を受け
て、既に歴史の論争としては決着済みのことである。
 また、従軍慰安婦問題を、中学生の発達段階からしてその教科書に取り上げること
がふさわしいかという疑義についても、中学生のしなやかな感性であるからこそ、事
実を真正面から受け止めることが可能なのであって、しっかりとした自国の歴史に対
する認識を育成し、国際的素養を正しく身につけることができるのである。
 この陳情の目的は歴史の真実を歪曲、隠蔽するために文部省の教科書検定のあり方
に圧力をかけ、すでに各方面から強い批判の起こっている検定について、さらにその
強化をはかろうとするものにほかならない。私たちは、中学生に正しい歴史の真実を
伝えていくためにも今回の陳情の趣旨には到底賛意を表することはできない。「従軍
慰安婦」の記述削除を要求する動きは、歴史研究の成果にたった教育内容に対して、
きわめて乱暴な政治的介入をしようとするたくらみだと言わざるを得ないのである。
 このような陳情がかりにも採択されるならば、新潟県民の歴史感覚、国際感覚が疑
われ、今後のアジアをはじめとする国際交流、友好親善の推進にとって大きな汚点を
残すことになるであろう。
 私たちは、新潟県の小学校・中学校・高等学校・大学の歴史教育に責任を持つ教師
の集まりとして、今回の陳情が不採択となるよう強く求めるものである。