■歴史の真実をゆがめ教育に政治的介入をする議会決議に反対する■

                           1997年1月18日
                           京都歴史教育者協議会

 昨年の12月20日、岡山県議会に続き、京都府加茂町議会においても「中学校教
科書から慰安婦についての記述の削除を求める意見書」が議員提案され、8対7とい
う僅差ながら採択されるという事態が起こった。
 その内容は「『反日的』グループの日本の歴史教科書にいわゆる従軍慰安婦の虚構
の記述」と、何の根拠も示さず一方的に断定したものになっている。これは内容上の
問題はもとより、学問的教育的真理にもとづいて執筆されるべき教科書に対し、議会
決議という形で政治的に介入し、圧力をかけるものである。さにに文部省による検定
強化を促して、教科書の内容を変えさせようとすることは、教育への直接的な政治的
介入である。この問題は、学問・教育の自由という憲法・教育基本法の根幹にかかわ
る問題である。学問・教育の自由とは、戦前天皇を頂点とする政治権力が学問や思想
の自由を押さえつけ、教育をコントロールして、子どもたちや多くの人々を戦争へ追
いやったことへの痛恨の反省から生まれた原則であることを再確認しなければならな
い。
 「従軍慰安婦」については、すでに防衛庁所蔵の資料や多くの文献、被害者本人ら
の証言でも明らかになっているもので、1993年の官房長官談話によって、政府も
不十分ながら認めているものである。これらの事実をまったく無視して、事実を歪曲
することは許すことのできない暴挙である。まして、「反日的」という戦前感覚の民
主主義否定の用語を使い、人々を分断しようとするのは、二重三重の誤りである。
 しかも「従軍慰安婦」とされた多くの人々は、そのいまわしい過去のため、筆舌を
尽くしせない苦労を強いられてきた。彼女らにとって自分の過去を語ることは、癒し
がたい過去の傷を疼かせるものである。今回の決議は、そのような人々に対する、許
すことできない冒涜になっていることも知るべきである。
 これまでも、戦争の真実を隠そうとする「教科書問題」が日本で大きな社会問題に
なってきた。それは80年代以降、今日も含め国際問題にまで発展してきた。その背
景には、依然として侵略戦争や植民地支配に対して、無責任な発言や態度をとり続け
る政治家や一部の学者の存在がある。今回もそういう背景のなかで起こされた問題で
ある。
 しかし、このような無責任な態度をとる大人に対して、「そういった事実を今なお
隠そうとする現在の大人たちに対して、情けなさとやりきれなさを感じずにはいられ
ません」(1月11日付「朝日新聞」声の欄)と怒りの声をあげ、「日本人として自
分の国の歴史をしっかりつかんで21世紀の世界にむかっていきたい」(同上)と決
意を固めている高校生も存在するのである。
 今日、残虐な事実を含め、戦争や近現代史の真実をどう学ぶかは、歴史教育上の重
要な課題である。いかし、従軍慰安婦はもちろん、南京事件などの残虐行為、植民地
支配の実態、残留孤児など、今なお未解決の課題について、日本の多くの中学や高校
ではほとんど満足に取りあげられていない。これらの問題でアジアの中高生との間
に、大きな事実認識の差を生み出しているのが現状である。このまま放置すれば、
21世紀に大きな禍根を残しかねない。
 私たち歴史教育者は、歴史の真実をゆがめ教科書をゆがめようとする、あらゆる動
きに強く反対するとともに、真実を見抜く力と勇気を広げていくため、今後とも一層
力を尽くすものである。