教科書関係者への「脅迫状」から【抜粋】

【中学歴史教科書の出版元、会社社長、教科書執筆者に送付された「脅迫状」
と同封されていたビラ類からの抜粋】

 手紙は全文。ほかに、教科書会社社長、教科書執筆者の自宅写真9枚(表札
の拡大写真も)のコピーが同封されていたほか、「草莽論壇」「日本國憲法粉
碎同盟月報 第七十二號」というタイトルのビラ、およびビラあるいは機関誌
からの転載と思われる記事を切り張りしたコピーが入っていた。ビラ類はいず
れも出所・出典は明記されていない。

●手紙

 拝啓 偏向自虐的教科書の出版は 国家転覆陰謀罪を構成致します。勿論、
六法全書には書いて有りませんが、民族の血の中には書いて有ります。敬具。

                関西日本原理主義劇団 冥土の飛脚

   新作歌舞伎 「維新あけぼの 矢来のをたけび」 脚本完成。
   東京公演企画中。

●切り張りされたビラからの抜粋

「亡国教育者思想家を殲滅」(見出し)

「敵の偏向売国勢力が、偏向自虐的教科書を作り続けて来た挙げ句に、従軍慰
安婦問題を、事もあろうに、中学の教科書に一斉に掲載しました。これは、彼
らにとって、勢い余っての勇み脚であり、我々にとっては、反撃に転ずる天与
の機会であり、神風であります」

「これを突破口として、南京事件や、更に偏向史観全体を粉砕することです。
竹は、第一の節を割れば、第二第三の節も簡単に割れるものです」

「もし、ここで首相や文相が、外国の干渉を恐れてか、選挙に浮き足立ってか、
職権を発動して、訂正を命じられないなら、もはや合法的手段の見込みは絶た
れます。彼らの『不作為』を含めて、非常の決意をもって粉砕しなければなり
ません。民族の血が、それを要求します。それをしなければ永久に来ないでし
ょう。皇国の興廃まさにこの一戦にありです。単なる教科書だけの問題ではあ
りません。時代の流れを変える旗揚げです」

「さて、そのターゲットはと言いますと、執筆者は当然ですが、出鱈目の検定
を許した文部官僚は言うに及ばず、出版会社の社長も忘れてはなりません。そ
してその家族も。草の根分けても探し出し……です。赤報隊精神も想起しまし
ょう」

「それから『民主党』など、戦後教育を受けた青二才が、政策に歴史認識を持
ち出しているようですが、女子供の票でも集めれば猶更危険です。もともと、
偏向教育を今まで黙認して来たのは、我々世代の無気力です。もはや問答無用、
立上るべき秋が来たと観ずべきです」

●「草莽論壇 『一人(いちにん)の至誠』」

 このビラは1960年の浅沼稲次郎・社会党委員長刺殺事件の犯人を賛美す
る文面になっている。

「山口二矢烈士が蹶起したのは昭和三十五年十月十二日。日比谷公會堂で演説
中の社會黨委員長淺沼稻次郎氏を斃した」

「一人至誠に死んで動亂を抑へたのである。國の動向を決するのは諤諤の言論
ではない。通神一人の至誠である。至誠は死。一人の死、よく國を救ふ。二矢
烈士逝きて三十六年。なべておいて純烈二矢烈士の志を繼承すべきの秋である。
粒々辛苦、鍛冶の上にのみ、至誠の行は拓開される」

【参考・教科書問題が発生してからの右翼団体の特徴的な動き】

 96年7月11日 「大日本生産党本部」「新生日本協議会総本部」など7団体
が文部省前で街宣活動。文部省と面談し、教科書記述中の問題点を指摘。「盧
溝橋事件は日本がおこしたものではなく、日本が一方的に悪いように書くべき
だはない」「南京事件の被害者の人数は諸説があって定説がないのに、30万人、
20万人と被害者数を断定することはできない」「従軍慰安婦は強制ではなく商
行為である」などと主張。文部省はこれに対して「検定の許容範囲である」と
返答。この回答に右翼団体は「それなら次は教科書会社に行く」と通告する。

 7月下旬から8月上旬にかけて 大阪の「偏向教科書を正す会」が中学歴史
教科書を出版する教科書会社全7社(日本書籍、東京書籍、大阪書籍、教育出
版、清水書院、帝国書院、日本文教出版)に対して公開質問状を届ける。大阪
に事業所(本社・支社)のある5社には持参し、東京の2社には郵送。街宣車
が乗り付けた社もあった。

 9月7日 「日本を守る国民会議」が「中学校教科書から『従軍慰安婦』の
削除を求める全国民の声を盛り上げよう!」と訴える「国民運動に関する緊急
提言」を発表。文部大臣のほか、教科書会社7社の住所・社長名・電話番号・
ファックス番号が記載されていた。同会議は9月20日から従軍慰安婦記述の削
除を求める「全国キャラバン」を開始する。

 10月29日 全日本愛国者団体会議・関東協議会などの団体が大型バスを含む
40台の街宣車を繰り出し、東京に本社・支社のある6社を訪問。教育出版や帝
国書院の社前では「○○は悪い会社だ」「教育界から出ていけ」「日本から出
ていけ」「代表者は出てこい」「間違った教科書はつくるな」「社員出てこい。
ぶっ殺してやる」などと叫び、「教科書が直るまで何度もくる」と宣言。以後、
右翼の街宣活動がエスカレート。毎月最終週の火曜日の街宣活動が定例化する。

 12月中旬 藤岡氏と公開討論会で同席した教科書執筆者に「脅迫状」まがい
の手紙が届く。送り主のひとりは本島等長崎市長(当時)に実弾入りの脅迫状
を送りつけて実刑判決を受けた病院院長。ちなみに、この人物は日本PTA協
議会の幹部らで構成する政治団体「社団法人全国教育問題協議会」の前副理事
長だという。地方議会への教科書記述削除の請願・陳情運動の主唱者だという
情報もあり。また、フェリス女学院大学の前学長・弓削達氏のもとにも「脅迫
状」が送付され、大学周辺に街宣車が登場。

 12月13日前後 「冥土の飛脚」が教科書会社と一部の執筆者に「脅迫状」を
送付。

 今年に入ってからは1月24日現在、右翼の表だった動きはなし。月の最終火
曜日がいっせい行動日らしいので、次の動きは1月28日か?