「日本」ではないこと

    ー鳥を通して見た台湾ー    大分雄城台高校 志賀信幸

 このネットワークの研修も今回で5回目。今年も何とか都合をつけ皆勤を守り通した。この研修は勉強ができるという魅力もあるが、それ以上に全国の仲間に会えるということが一番の魅力であるような気がする。毎年、この研修で元気をもらって帰っているおかげで、この世知辛い学校世界で何とかやって行けてるのだろうと思う。
 今回は特に、初めての海外研修ということで、日本とはまた一歩違ったレベルの環境問題に触れることができた。こんな貴重な体験も、ネットワークの皆さんのおかげだと感謝している。特に、準備からこの5日間、本当に大変だったことだろう台湾大学の宮城さんには心の底から感謝したい。(その証に、間違って買い過ぎたテレフォンカードを送りました。)
 さて、このネットワークのメンバーは皆さん、それぞれ得意分野がありそれぞれの分野で活躍されている。そう考えると私に与えられた立場はやっぱり「生きもの」ということになるのだろうと思う。私自身は、いろんな分野についてこの研修で勉強したいと思って参加しているのだが、逆に皆さんに少しでもお返しできることといえばそんなことくらいである。そこで今回は「生きもの」、特に鳥を通して見た台湾について報告する。

鳥を見たら何がわかる?

 環境を見るための一つの方法として生物指標がある。生きものはみんな独自の生き方を持っているので、その環境の中で一番適した種がその環境に生息する。そのために例えば水生生物では、きれいな水にすむ種と汚れた水にすむ種は違ってくる。だから、逆にその場所にすむ種を調べればたとえ目で見えなくてもそこの環境がわかることになる。それが生物指標といわれるものである。一般的には、生物指標は小さな生きものが利用されることが多いが、それは生態系の下位にいるものの方が直接そこの環境を表現できるからだと思う。それに対して、鳥は生態系のほぼ最上位に位置する。ということは、ある鳥が生きていくためにはそれを支える生態系のピラミッドが成り立っていなければならない。つまり鳥を通して環境を見る場合は、より広い範囲の生態系全体を概観できることになる。
 生態系の具体的な例を、ちょっとおもしろいと思うのであげてみる。1羽のハイタカ(ハト大のタカ)が1年間ある地域にいたとする。ハイタカは、1日におよそ1羽の小鳥を捕まえて食べるとすると1年間でおおよそ400羽の小鳥を捕まえる。そこにいるすべての小鳥を捕まえられるわけはないので、がんばって10分の1の小鳥を捕まえたとするとその地域に住んでいる小鳥は4000羽である。1羽の小鳥が1年間生きていくには、例えばシジュウカラでは125,000匹の虫を捕ることがわかっている。これもぜんぶのむしをとることはできないので、また10倍くらいはいなければならない。するとその地域の虫は、4000×125000×10匹くらいはいることになる。その虫は植物の葉を食べる。1匹の虫がどのくらいの葉っぱを食べるか・・・・と考えていくと、「すげえ量だ」ということになるのである。つまり、1羽のハイタカが生息しているということは、そのバックグラウンドにはものすごい数の生き物がすんでいることの証であるし、その地域はそれだけの生きものを支える環境を持っているということがわかることになる。だから、バードウォッチャーが1羽のハイタカを見て「すげえ!」とはしゃぐその言葉の裏には、それだけの生態系すべてを見て(想像して)感動しているのである。・・・・・というのはウソで、バードウォッチャーはただ単にハイタカはなかなか見られない珍しい鳥なので「すげえ」というだけのことなのだが、しかし、ハイタカがなぜなかなか見られない鳥なのかというさっきの論理を聞いたときに2度目の「すげえ」が出てくるのだ。
 七股(チーグ)の干潟を見たとき、私はぜひ冬に来てみたいと思った。干潟の後背地には広大な湿地(田んぼなども含めて)が広がっていたが、ここには冬にはチュウヒ(英名Marsh:湿地 Harrier) というタカがおそらく越冬にやってくるはずである。日本にこんな感じのところがあれば、おそらく数百のチュウヒをはじめとするタカ類が渡ってくる。だから、冬のタカ類を見て日本と比べることにより、ここの環境がどんな感じなのかはわかるはずだと思ったのである。(ということで、台湾の鳥類図鑑で調べると、見事!冬のチュウヒは、日本、中国の長江より南からマレー半島にかけて、フィリピン北部あたりで越冬するが、以上の地域に囲まれた台湾だけは生息地からすっぽりぬけていた! なぜなんだろう。やっぱり水質なのかもしれない)

台湾の鳥を見る

 世界地図を生き物の分布で分類するといくつかの地域(区)に分けられる。(動物地理区というそうです)これは、大陸の成り立ち(大陸移動)と動物の進化の関係により分けられるのだが、日本のほとんどは旧北区に含まれ、これはヒマラヤ山脈の北側からずっとヨーロッパまで続く。奄美から南は東洋区といい、沖縄から東南アジア、インドにまで広がっており台湾もここに含まれている。つまり、教習や北海道で見られる生き物は、イギリスやフランスには共通種や似た種がたくさんいて、沖縄や台湾の方がめずらしい生き物がいることになる。ただ、鳥の場合には飛ぶことができるので、留鳥と呼ばれるずっと同じ場所で生活する鳥はある程度当てはまるが特に渡り鳥に関してはそれは当てはまらないことになる。つまり台湾の鳥は、渡りをする鳥は日本で見慣れた鳥が多く、渡りをしない鳥は「すげえ」ことになる。だから台湾で鳥を見るときにはめずらしい鳥が見られるという意味ではちょっと期待できるのである。さらに、沖縄本島や八重山の鳥との違いについてもいろんな面で興味を引かれる面もある。(説明をすると長くなるのでやめときます。)

今回の研修で見つけることができた鳥
(しっかり見ていないので間違いもあるかもしれません。特に?をつけている鳥は未確定です。)

@ 九州〜北海道で見られる鳥
 カイツブリ?、ゴイサギ、アマサギ、コサギ、バン、コチドリ、シロチドリ、メダイチドリ、トウネン、アオアシシギ?、タカブシギ、キアシシギ、ソリハシシギ、キョウジョシギ、ウミネコ?、コアジサシ、カワラバト、カワセミ、アマツバメ、ヒメアマツバメ、ツバメ、コシアカツバメ、ハクセキレイ、キセキレイ、コヨシキリ??、セッカ、メジロ、スズメ、ガビチョウ(かごの中で見た・日本では野生化)
A 九州〜北海道で見られるけれどめずらしい鳥
セイタカシギ、アジサシ、カササギ
B 沖縄本島や八重山で見られる鳥
リュウキュウヨシゴイ、エリグロアジサシ、リュウキュウツバメ
C 日本では大変めずらしい鳥
ベニバト、タカサゴモズ、ハッカチョウ、オウチュウ
D 日本でおそらく未記録の鳥(和名は不明)
斑頸鳩(尾の長い鳩)、五色鳥(名前のとおり)、小啄木(コゲラの中間)、白頭翁(シロガシラ?)、紅嘴黒(名前のとおり)、樹鵲(カケスの中間)

鳥見ての雑感

(1)優占種はメジロ、スズメ、シロガシラ、ベニバト、リュウキュウツバメ、アマサギ、カワラバト
(2)トビ、カラス、キジバト、ヒヨドリがいない。九州などで一番当たり前の鳥のうち、この4種は全く見なかった。ヒヨドリの代わりにシロガシラ、キジバトの代わりにベニバトがその生態的地位を占めているが、カラス、トビの代わりは見当たらない。図鑑では、ハシブトガラス、トビはいるようだが、たくさんいないということは生息環境に何らかの不利な点があるのかもしれない。気温が高いので体が大きいと体温の放熱の効率が悪くなることがその一つの原因かもしれない。
(3)スズメ、メジロ、カワラバト(ドバト)の生息の様子は九州と同じ感じ。
(4)サギ類については、北部ではほとんどアマサギ、南部に行くとコサギが増える。ダイサギ、チュウサギ、アオサギは見ていない。
(5)ツバメ類は、リュウキュウツバメがほとんど。南部ではコシアカツバメが目立つようになる。市街地はリュウキュウツバメ、郊外はコシアカツバメが多く、ツバメは少ない。(6)サギ以外の水辺の鳥が大変少ない。バン、カイツブリなどいそうな環境でほとんど見ていない。気温の関係か、水質の影響か?
(7)シギ類は当然九州と同じ種。秋の渡りはすでに始まっていた。Wetlandの重要性が心にしみた。

 やっぱり鳥を見ていると「日本でないこと」を実感する。オウチュウ、ベニバトは大分県ではこれまで一度だけ記録があるが見たことはなかった。タカサゴモズは2年くらい前に福岡県の和白干潟にあらわれたときに見に行った。そんな珍しい鳥がそこいらあたりにたくさんいる。ベニバトなどは電線に300羽くらいまとめてとまっている。そんなものを見ているとやっぱり冷静に物事を考える前に「スゲエ」と思って感動してしまう。台湾は「スゲエ」ところであった。

鳥などの生きものを通してみた台湾の環境
(1)街のゴミ
 街にゴミがあれば当然それを食べる鳥やネズミがいると思うのだが、カラスやそれに代わるものを見ていない。ネズミについては、・・・しまった、聞けばよかった。
(2)田んぼ、河川
 アマサギがたくさんいた。そんなむちゃくちゃな使い方はしていないのだろう。川にはほとんど鳥の姿は見られない。汚染が進んでいることがよくわかる。またこの河川の汚染がヨシゴイの急減の原因の一つかもしれない。
(3)後背湿地の養殖
 水辺の鳥の生息環境として養殖池は見かけ上は水があって生きものによいように見えるが、実は深いのであまり適していない。日本では養殖池で魚を捕るサギの害の問題があるが、台湾ではそんなサギを見ていない。理由はわからない。後背湿地には浅い水辺環境が少ないので水辺の渡り鳥にとっては生息しにくい状況である。特に日本を通過するシギチドリ類はその多くは台湾を通過するはずであり、直接的にその総数にも影響が現れている可能性もある。

クロツラヘラサギについて
(野鳥の会の資料に加筆)
和名:クロツラヘラサギ  コウノトリ目 トキ科
学名:Platalea minor
英名:Black-faced Spoonbill

 クロツラヘラサギは、その名の通り、クチバシがしゃもじのように平べったくて、顔が黒い、全長約70センチメートルのチュウサギより大きい鳥です。見たところはサギに似ていますが、分類上はトキに近く、飛ぶときには首を伸ばしています。日本では、かつては迷鳥でしたが、今は九州北部の博多湾などで、数十羽が毎年越冬するようになりました。
 干潟や、水の貯まった水田などの浅い水域で、平らなクチバシを左右に振りながら小魚などを採食します。現在わかっている営巣地は、朝鮮半島の東海岸のいくつかの島で、崖地に枝で巣を造ってヒナをかえします。
 世界に6種いるヘラサギの仲間の中で、クロツラヘラサギだけが数が少なく、絶滅危惧種となっています。現在知られている個体数は、朝鮮大学校の鄭先生の推定では、たったの約590羽だけです。まさに絶滅寸前の種なのです。そこで、多摩動物公園では、朝鮮民主主義共和国から譲り受けたクロツラヘラサギの飼育下繁殖に取り組み、成功させています。
 約590羽という数は、台湾(ツェンウェン河口で約400羽が越冬)や香港、ベトナムなど主要な越冬地での生息数を合計したものです。(日本では、主に九州で約30羽が越冬しています。)ところが、現在知られている繁殖地である朝鮮半島の島々の生息数は、合計しても数十羽にしかなりません。どこかにまだ知られていない繁殖地があるに違いありません。
 クロツラヘラサギの保護を進めるためには、この未知の繁殖地をつきとめ、越冬地までの渡りルートまで含めて生息地を保全してゆかなければなりません。
 日本野鳥の会では研究センターが中心になり、地球環境基金の助成やNTTの協力により、衛星追跡などの手法を用いてアジア各国の研究者と共同で、クロツラヘラサギの渡りと生息地の環境保全のための調査を行ってゆくことにしています。

<WING開設記念国際ワークショップ「クロツラヘラサギの保護と調査」>

 クロツラヘラサギの保護と調査についての国際ワークショップが、地球環境基金の助成により、1997年6月に実施されました。
 クロツラヘラサギは、世界中で約550羽しか生息が確認されていない国際的な希少種で、トキの二の舞にさせないために国際的な鳥類保護団体であるバードライフ・インターナショナルが最重要課題のひとつとして保護に取り組んでいます。昨年は、北京において第一回のワークショップが開かれ、今回は第二回となります。
 今回のワークショップにはあらゆる国際政治の壁を越えて、関係する総ての国・地域(日本、中国、北朝鮮、韓国、台湾、ベトナム、香港)の代表が一堂に会し、クロツラヘラサギを守るために心を一つにしました。英語、朝鮮語、中国語、日本語が交錯するアジアらしい雰囲気のワークショップで最新の調査結果を報告し、今後行うべき調査保護計画を検討しました。

HPでもたくさん資料が見つかります。
http://www.gt-works.com/yachoo/zukan/tori/toki/kuroturaherasagi.htm