東京ガスエネルギー館(ワンダーシップ)訪問記
 
 
我々湘南高校エコ・クラブの顧問、部員は1999年5月21日の午後、横浜は鶴見の駅に向かっていた。東海道線が遅れ、鶴見駅からのバスに乗り遅れるのが確実になった。タクシーで行くことを決め、鶴見駅に到着すると、そこには同じ目的でここにいて、同じくタクシーに乗ろうとしているある高校の先生と出会った。そう、我々はこれからの環境教育を考える仲間である。その名は「新しい環境教育をつくるネットワーク」といい、学校の先生、市民、県の職員と立場は違えど、同じ思いで今回、鶴見の臨海部にある東京ガス環境エネルギー館「ワンダーシップ」に集まるのである。
1、「ワンダーシップ」とは
それではその「ワンダーシップ」とはどういう所なのか、私達の体験をもとに説明していこう。「ワンダーシップ」は、鶴見駅よりバス、タクシーで10分程走ると京浜工業地帯ど真ん中、こういったことでもなければ足を踏み入れないであろう地区に「シップ」という名の通り、船の形をしたガラス張りの建物が、廻りを大工場に囲まれながら突如姿を現す。中に入れば、広いロビーにカウンターがあり、というかそれしかないのに驚いてしまう。そのカウンターで館内マップをもらい、案内の通り上層階に上がると、そこには環境エネルギー館と聞いてイメージする内容以上の物が拡がっているのだ。
2、屋上にはビオトープ

 この日の我々はタクシーを降り、集合場所の五階から続く屋上ビオトープ(つまりはペントハウス)に向かった。私自身が前回訪れたのはバレンタインデー、つまり真冬であったから、特に目立って生き物が、緑がというわけではなかった。が、今回は違った。そこには生態系が存在していた。環境は人間がつくったが、そこに生きる生物の一部は人間が連れてきたのもではない。ここの環境に惹かれてやってきた生き物なのだ。完成された生態系というわけではないが、70坪ほどのスペースに、生態系が形成されようとしている。その形成に立ち会える場なのである。またこの屋上部には館内のエネルギーの一部となるべく、ソーラーパネル、風車が設置されている。たとえ一部でも構わない、増えていってもらいたいのもである。さてここは屋上である。とすれば廻りに見える風景という物に期待が寄せられる。前回、冬に来たときは富士山がきれいに見えた。また新横浜プリンスのタワーがそびえ立っていたことも印象的だった。今回は主にその反対側、海側に目が行った。灰色に拡がる廻りの工場群の遠くには湾岸線の鶴見つばさ橋がきれいに見える。ほぼ真下には完璧な護岸で守られた鶴見川が、そこで頭をよぎる物が、ここ以外のこの周辺に生態系は存在するのかと。人工的な建築物しかないように思われるこのエリア、もちろんこの建物、このビオトープも人工的、残る自然がないなら、人の手でつくり、守るしかないのであろう。驕りではない、ここにはそれしかないのではないか、と思ってしまう。とりあえず、ビオトープで少しでも身近に感じて、そのわきにある生ゴミの堆肥化バケツで、自然な循環の中へ、我々の世界を戻すために、やるべき事はいくらでもあると思わせる。
3、「ワンダーシップ」の楽しみ方」

 メンバーがほぼ集まり、二階にある会議室へ向かう。館長の森さんがこの館の目指すところについて説明をしてくれる。それは単なる知識を得るための博物館ではなく、来場者が五感を駆使し、自らと環境とのつながりを頭ではなく、体全体を使って理解し、行動につなげるための何かを学んでいってもらいたい。この館にいるスタッフ(以下インタープリター)はそのつなぎ役に徹する、それは教えるのではなく、来館者を動かすことが目標なのだ。このことはこの館以外の所でも今後重要なイメージであろう。
幾つかの質問があったあと、我々は三階の放送スタジオに向かう。三階はこの館のメインフロアである。その一部に放送スタジオはある。ここでの番組は公開番組として行われる。ただし、ただ目の前で番組が進行するのではなく、ギャラリーが番組に参加するのである。そのプログラムは幾つかのパターンがあるのだろうが、当然環境に関するプログラムであるようだ。今回はゴミに関するプログラムである。平日の昼であるにも関わらず五組ほどの親子連れでそこそこの賑わいがある。もっとも10人ほどの集団である我々がいなければ、40人は座れるであろう椅子席は落ち着いた平日を演出するのであろう。そんな賑わいの中、番組が始まる、司会のインタープリターが現れ、目の前のモニターにはパソコンを使って狼のキャラクターが登場する。その掛け合い、さらにクイズによる進行で子供達は引き込まれていく。親子連れはリピーターのようで手慣れた受け答えをこなしていく。今日の番組は小学校低学年には丁度良い内容であるらしい。我々も含めそこそこの正解率で番組は佳境に入る。ゴミの発生、その処理等を基本に、子供達がするべき事、等をテーマに番組は終了した。その日その時間によりプログラムは違うであろうが、対象は小学生前後である。ただし環境問題にいままで全く興味がなく、これから知っていきたい、という人には丁度良いという事も付け加えておく。
かなり広い三階の展示フロアには、エコ買い物ゲームができるコンビニショップの他に様々なコーナーがあった。それぞれのコーナーは説明型の展示ではなく、来館者が何らかのアクションをすると何らかのレスポンスが返ってきたり、インタープリターといっしょに何かを体験したりするというように、頭ではなく、体全体を使って理解し、行動につなげるための工夫がされている。
 展示コーナーのいくつかの例を、パンフレットより引用します。
 
●排泄物の循環
 排泄物を型どったドームに並ぶ動物たちのおしりとうんこ。排泄物を通して、食物連鎖、生態系をとらえ、生物が互いに関わりながら、調和を保っていることを展示している。
●大気の循環
 巨大な葉に息を吹き込むと、映像の中に現れる光合成工場。そこで二酸化炭素が酸素とエネルギーに交換されて、やがて風となって吐き出される。植物の光合成を通して大気の循環が実感できる。
●水の循環
 海や陸から蒸発した水分がやがて雲となり、雨となって再び地表に降り注ぐ。さまざまに変化しながら地球上をめぐる水の姿を、実際に立ち上る霧や造形、映像などで再現。
●都市生活の光と影
 廃棄物のリアルな造形とともに、都市生活が大量消費、大量廃棄を繰り返していることを紹介。都市生活は、地球の持つ循環とはつながらないものを生み出していることを表現。
●省エネ発見! スイッチだらけの家
 部屋のなかに並ぶ巨大化した家電製品。大きな計算機のボタンを押すと、これらの省エネの工夫や削減できるCO2排出量が表示。横浜市、神奈川県、日本の規模に換算されたデータの紹介も。
●ゴミって何? ジャイアントゴミ箱
 家庭から出る多彩なゴミ、ゴミが減らない現実と処理にかかる費用、分別によって資源としてよみがえる可能性などを表現
●地球を考える! ファミリーレストラン
 旬の食べ物カレンダー、日本の食糧輸入マップとともに、エネルギー効率のよい調理のコツや食材を無駄にしない料理のヒントなど、楽しい発見がいっぱい。エコクッキングの紹介もある。
●買い物達人! コンビニエンスストア
 買い物ゲームを通して、商品ラベルを確認する大切さや選ぶポイントを伝える。エコマークやリターナブル商品、アイデア商品なども紹介。
●水の旅を知る! 発見の川
 山から湧き出た源流が、いくつもの支流となって街を通り、やがてまたひとつの川に流れ込む。そんな水の旅を描いた壁画と川の造形により、川に流されるゴミ、自然の浄化能力、きれいにするための人間の技術などを紹介。
●青空のエコレース
 自転車、天然ガス自動車、ガソリン車、ディーゼル車によるドライブゲーム。エコロジカルポイントを競いながら、地球にやさしいドライブ方法が体験できる。
●みどりのエネルギージム
 ポンプを動かして、2つの街にエネルギーを供給し、従来型のエネルギーシステムとコージェネレーションシステムの効率の違いが実感できる。
続いて四階に向かう。なかなかのスケジュールだ。この四階にはこの館のお楽しみ、ワークショップがある。自らの手を使い、環境に関する原料で、環境を考えた物をつくる。この楽しい工作教室もインタープリターがサポートしてくれる。今回の原料は東京ガスで使用したプラスチックで出来た廃ガス管である。一度利用し、寿命が来たものは同じ物には再生できない。それならば、プラスチック樹脂製の他の物に再生しようと東京ガスではボールペン、ハンガー等、幾つかの製品化に成功している。その原料の端材である小さなチップを使い、コースターを作るのである。10色からあるチップを自分のイメージに沿って並べ、最後にアイロンで加熱させ、完成させる。手を使い作るのはどうしてか楽しい。出来上がりがイメージ通りでなくともだ。今回のワークショップは特別に開いてもらった物で、本来ワークショップは主に休日に設定されている。人数の制限もあり、大変な人気なので、確実に並ぶことをおすすめする。
さて、館の閉館まで残り一時間ほどである。その一時間は自由時間であり、我々はまだ全く見ていない三階のメインフロアの体験に使うことにする。ここでもう一度この館の階層ごとの説明をしておこう。一階はロビーとインフォメーションカウンター、二階は環境図書館と会議室、三階は体感できる展示が中心のメインフロア、四階はワークショップ、五階はフリースペースとビオトープである。話は戻って、メインフロアであるが、私は環境グッズの置いてあるエコンビニに入り浸ってしまい、他の展示物はほとんど把握していないのである。電卓、レースもの、たくさんT−シャツ、環境映像が流れるワンダーシアター等、気になるものは沢山あったのだが、その辺り、詳しくは実際体感した方にお願いしたい。
4、終わりに

 一時間はあっという間に過ぎてしまい、最後のお話のため会議室に向かい、簡単に締めた後、裏口から館外へ出る。閉館時間を過ぎてしまったためエントランスが閉まってしまったのである。しかしその裏口の側には燃料電池システムが置いてあり、幾人かの視線を集めていた。さらにこの館の裏側には道路のアスファルトを再利用している工場もあるそうで、なおかつこの先にはゴミ発電で出たエネルギーでお湯を沸かしスパとプールに活用している施設もある。つまりはこのエリアには、見るべき施設が多いということである。もっともこの様な施設はある程度あるだろうし、増えてもいる。わざわざここに来なくとも、とも言えるのだろうが、環境エネルギー館をメインとして、この一帯を回れたら、随分価値あるコースを作れるだろう。それも体感型の。もちろんそれは関係する者の調整や、いろいろと面倒な事が多発するのであろう。ならばせめて鶴見区の小学生達が区内見学などで、この館を基本にして回ってもらいたいものだ。同様にある程度近所の子供会であるとか、そういった団体が環境教育の一環として活用してもらいたい。中学生レベルまでは楽しめるであろう。しかしそれ以上となると少々厳しいといわざるを得ない、もっとも10代前半までが対象の館なのだろうし、それ以上の世代にはまた別な何かを提案していくのだろう。そしていずれ近隣の環境配慮型の施設とセットで回れるエココースができたら、現時点でも素晴らしい施設が、国内においても貴重なエリアの中心施設となるのであろう。