5)国会議事堂

 翌日(8月10日、日曜日)、私はケープタウンの官庁街の中心にある国会議事堂の前に立っていました。極度の寝不足でめまいがしていましたが、青空のまぶしさと、街路樹の美しさに目を奪われていました。議事堂も教会も官庁の建物も中世のもののように古くて白壁がまぶしい。目の前にはテーブルマウンテンの絶壁です。なんとも表現しがたいくらい美しい街です。
 ここで西ケープ州議会議員のジョニー・イッセル氏と待ち合わせるはずでしたが、子の人は遅れるというメッセージを託したまま現れません。その場には、もうひとり私を待っていてくれたANCの議会議員らしい人がいました。この人のことは何も聞いていなかったので、ふたりきりになった20分くらいの時間はとても緊張してしまいました。
東京でアパルトヘイト否!国際美術展のマネージメントをやったことや、ANCの東京事務所と私たちの関わりなどをたどたどしい英語で一生懸命話しました。しかし私の語学力では会話がはずむはずもなく、私たちは次第に黙りこみ、彼は持っていた新聞を読み始めました。しかしこの人が交渉してくれたことが効いたらしく、間もなく国会の通用門は州議会議員の到着を待たずに開いたのでした。
 国会には議会開会中しか見学できないという規則があり、そのうえ日曜日に朝から入れてもらえるというのは、たいへんなことのようです。私にはわからないことですが、この見学を実現するためにかなりの努力を事前にしてくれたはずです。しかも守衛さんたちが私たちの先回りをしながらひとつずつ廊下の照明をつけてくれます。たいへんな好意を感じました。客は私ひとりなのに。
 国会に一歩足を踏み入れた私は立ちすくんでしまいました。真っ先に目に入った壁に私たちが調布の公民館に展示したなつかしい絵がびっしり掛けてあるではありませんか。行けども行けどもどの壁にも見覚えのある絵が飾ってあります。入れなかったマイブエセンターに大部分があり、国会には象徴的な作品が2〜3あるのだろうという予想だったのですが、見事にはずれました。アパルトヘイト撤廃を訴えて世界を巡回してきた現代美術の巨匠たちの絵が、いま新生南アの立法府に掲げてあるのです。感動で足がすくみました。
 絵画については書きだすと長くなるのでやめます。作品のすべてと国会内部の写真を許可を得て撮っていますので、見たい方はみさと屋までお越しください。ひとつずつ作品を見ながら廊下を回った私たちは本会議場の前に出ました。ちょっと見るだけなら怒られないだろうと思って、隠れるように薄暗い傍聴席に入りました。ここでマンデラが演説するんだな、なんて傍聴人みたいに座ってひとりで感動していたら、なんと本会議場の照明がすべて点灯しました。うろたえました。私ひとりために、そこまで・・・
 同行のANCの人がいつのまにか私の傍らに立っていました。そしてホールの中央を指しながらいいました。『あれがプレジデント・マンデラの席です。』

国会議事堂内部

スティーブ・ビコを追悼する作品

本会議場

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