無知の代償

ギデオン・レーヴィ
ZNet原文
2004年1月8日


ゲハ・ジャンクションで自爆したシェハド・ハナニはベイト・フリック出身だった。ベイト・フリックは、パレスチナ領でも最も閉じ込められた村の一つであり、周囲全てを道路ブロックで囲まれている。分娩期の女性や病人は、隣接するナブルスの病院に行くために、危険な地帯を歩いていかなくてはならない。分娩期の女性の少なくとも一人---ルラ・アシャティヤ---が、ベイト・フリックの検問所で出産せざるを得なくなり、その子供を失った。ベイト・フリックの生活がどのようなものであるか想像できるイスラエル人はほとんどいない。ほとんど全面的な失業、貧困、終わりのない包囲、監獄の中での屈辱的な生活。ハナニは21歳だった。彼のような若者は、朝起きて、ただ失業と屈辱のもう一日を過ごすことになる。

けれども、イスラエルの人々は、自爆攻撃が発生する土地について何ら知りたいとも思っていない。イスラエルのメディアは、ベイト・フリックの生活についてほとんど何も報じない。同様に、自爆攻撃を行なったシェハド・ハナニの親戚であるファディ・ハナニが、その10日前にナブルスで殺されたことを耳にするイスラエル人はほとんどいない。過去数カ月にどれだけのパレスチナ人が殺されたかイスラエル人が耳にしないのと同様。ベイト・フリックの生活とナブルスにおける殺害が、バス停での自爆攻撃を正当化するわけではない。けれども、テロと戦うことを望む者は誰であれ、何よりもまず、ベイト・フリックのような場所での生活を改善する必要がある。

イスラエルは、テロ攻撃のない「静かな81日」を送っていた。これ以上の大嘘はない。静かだったのはここイスラエルだけでのことで、この「静かな」日々に、何十人ものパレスチナ人が殺されていたのに、誰もそれを報じようとしなかっただけだ。「静かな」日々について語り、それをパレスチナ人が乱したなどと言うことが可能になるのは、このためである。メディアがパレスチナ人の死について語らないという事実は、パレスチナ人が殺されなかったことを意味しない。たとえば、ラファで、先週、たった1日のうちに殺された8人のパレスチナ人---この殺害は中規模のテロ攻撃に相当する---、そしてイスラエルの人々は知りさえしない大規模な破壊は、ここイスラエルでは注目するに値しないとされ、ほとんど言及さえされなかった。国際社会はこの恐ろしい殺害に大きく反応し、国連事務総長はこれを非難する特別声明を発表した。けれども、巨大なブルドーザと戦車が数多くの家を破壊する光景、女性や子供を含む死者と42人の負傷者がラファの病院に運ばれる光景は、イスラエルではほとんど報じられなかった。

例えば、発行部数の多い日刊紙Yedioth Ahronothは、ラファでの殺害を、ガザのニサニット入植地でカッサム・ロケットにより少し怪我をした入植者カップルについての小さな記事で副次的に扱っただけだった。イスラエルのアジェンダはこうして決まっていく。イスラエル軍(IDF)によるこうした致死的な作戦を不面目にもほとんどカバーしていないことを見ると、当局が見せたいことだけを見せられるような体制を思い起こす。

これはメディア批判ではない。我々のイメージに関することだ。自分たちの兵士が引き起こした人命の損失を無視するような社会は、汚れた社会である。市民の目からこうした決定的な情報を隠すような社会は、判断のセンスを失わせる。この状況に、イスラエル社会の犠牲者に対する態度が絡み合う:死にこれほどまで深く浸った社会はあまりない。そうして、我々は二重の道徳を持つことになる:自分たちの死者だけを数え、他の死者は存在しないと。

情報の隠蔽はもう一つの波及効果を持つ:知らなければ、なぜ知らないのかを訊ねさえしない。ラファでトンネルを破壊したことにより8人のパレスチナ人が殺された。この使命がいかにして正当化されるのかという疑問が提起されないままに。

これには計算された目的がある。これにより、唯一罪があるのはパレスチナ人であるとするのである。そして、それを受け入れる土壌がある。イスラエル人の大多数は、IDFが占領地で実際に何をしているのか知りたがらない。そうした中で、メディアは、重大な義務の不履行を行なっていることになる。占領に賛成する人々も反対する人々も、正確に何が犠牲とされているのかについて完全な情報を得る資格がある。殺害をかくも重要でないこととして描き出すことで、イスラエル兵たちに危険なメッセージが送られる:どんなに多くのパレスチナ人を殺しても、それは何らひどいことではない。

木曜日、ガサでイスラム・ジハードの活動家マクレド・ハミッドを狙った殺害で15人の通行人が怪我をした。先週、ナブルス近くのバラタ難民キャンプで、3人の子供が殺された。その一人は5歳だった。その前の週には、土曜日、ジェニンとその近くのブルキンで3人の子供が殺された。ガザのフェンス近くで最近二人のパレスチナ人が殺された。仕事を探しにイスラエルに入ろうとしていたところだった。先月半ば、トンネルの作戦で6人のパレスチナ人がラファで殺された。カランディヤー難民キャンプでは、ますます多くの子供たちが射殺された。これら全ての事件は、イスラエルのメディアではほとんど掲載価値無しとされている。けれども、パレスチナ人犠牲者の一人一人に、家族と友人がいて、犠牲者の墓地から憎しみが生まれ出す。

数カ月前に長男ファレスを失ったカラディヤー出身のイブラヒム・アブド・エル・カドルは、復讐を誓った。14歳半の長男ファレスは、イスラエル兵に頭を撃たれたのだった。彼のことを理解するのは、そんなに難しいことだろうか?

かくして、隠された多くのパレスチナ人死者に対してイスラエルも代価を支払うことになる。パレスチナ人殺害はテロリズムの誘因となる。パレスチナ人犠牲者をイスラエルのアジェンダから排除しても、殺害の結果を消し去ることはできない。もし人間的な環境で育ち、親戚が暗殺されていなかったとしても、ハナニはゲハ・ジャンクションで爆発攻撃を行なっていただろうか?この疑問は我々の心をかき乱す。けれども、今のところ、これさえアジェンダに含まれてはいない。


ギデオン・レーヴィはイスラエルのジャーナリスト。地名・人名については、きちんとチェックしていないので、誤っているかも知れません。お気づきの点はご指摘頂けますと幸いです。イスラエルに「対する」「爆破テロ」というニュースはよく耳にします(この記事でも「テロ攻撃」「テロリズム」といった言葉が使われています)。それよりはるかに日常的に、体系的に、意図的に、不法に占領した場所でパレスチナ人を標的としているイスラエル軍が行なっている、ここで述べたような行為は、あまり大きなニュースにもならず、「テロ」とも呼ばれませんが。

不法占領下で、不法占領を行なっている軍・兵士への攻撃行為は正当な権利を保障されたレジスタンスであり、テロとは全く違うものです。そして、不法占領そのものが、巨大な犯罪です。いかに人道的な装いをプロパガンダで広めようと。パレスチナの地図はこちらにあります。また、1946年当時の地図等がありました(ダウンロードに時間がかかります:「イスラエル」が合法的に購入した土地がわずかなものであったことがわかります)。

パレスチナの状況については、パレスチナ・ナビ及びパレスチナ情報センターをご覧下さい。絶え間ない攻撃に晒されるラファは、ここで紹介した記事がきちんと伝えていない出来事の日時等を伝えています。

この記事は、パレスチナ状況をめぐるイスラエルの様子に関するものですが、現在の日本の様子を考えると非常に示唆的です。メディアはイラクで一体何が起こっているのかをきちんと伝えず、アフガニスタンについてのニュースもほとんどなくなりました。不法侵略の後で不法占領を続け、イラク市民を殺害し人権侵害を繰り返す米英軍に対するイラクの抵抗運動を「テロ」と呼び、侵略に荷担して自衛隊を派遣しようとしています。それは、我々にどんな代償が返ってくるかに無関係に、まず第一に非人間的で犯罪的なものです(実際憲法にも国際法にも違反していますし)。

1月25日、ワールド・ピース・ナウが日比谷野音集会を予定しています。知人からの連絡では、THE NEWSが出演するそうです(「実は 知る人ぞ知る伝説のロックバンドでこのところはずっと 活動休止ということで 大晦日のニューイヤーロックフェスでみかけるぐらいでした」、とのことです)。というわけで、1月25日は、音楽好きな方もどんどんどうぞ。

地球村に簡単にできるアクションの一覧紹介がありました。小泉首相(03-3592-1754; 03-3581-3883)や川口外相(03-6402-2551)、メディアなどに、侵略占領への荷担に反対し自衛隊派遣に反対するファックスを送ったり、おかしな報道に抗議する声を届けましょう。

益岡賢 2004年1月14日 

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