壁/密室の暴力:パレスチナ
弾圧の秘密研究室

ジュリアナ・フレッドマン
CounterPunch原文
2003年12月20日


まるで世界の終わりのようだった。壁に面したここで、全てが止まってしまう。

ジェニンの難民キャンプが破壊されたとき、当然のことながら、国際的な抗議があった。確かに、イスラエルは国連の公式調査を阻害し、襲撃後5カ月にわたって破壊された瓦礫の山が残され、最近ようやく整理されたジェニンの荒涼たる「グランド・ゼロ」にはほとんど家は残されていなかった。それでも、抵抗が強かったためか、破壊が大規模だったためか、ジェニンの事件は、パレスチナの外の人々の良心に届いた。そして、ジェニンのコミュニティの人々の間では、こうした全てのことにかかわらず、ここで生き延びるという信念がある。

ラマダンの期間、キャンプはお祭りの雰囲気だった。家族は夜出歩いて隣人と挨拶し、お菓子を食べに近所を尋ねた。服飾店から、アイスクリームの移動販売者が流すような「サイレント・ナイト」がなっていた。そして何よりも、家々が再び建てられてきた。以前は毛布で覆われていただけの破壊された建物の穴が、ついに修復された。ジェニンは少しだけ、カブールとは違った感じになってきた。

2002年6月、ジェニン・キャンプを最初に訪れたときの印象は、戦車のうろうろするくすぶり続ける瓦礫の山であった。戦車は、瓦礫と壊れた家の上を踏みならして残骸さえ残らないようにするため、犯罪の場所に戻ってきたものであった。家の壁をはぎ取られたために、隣人や兵士、外国人使節団からは絵のように見える居間のカウチに座った老人の顔は、呆然としているようだった。

「以前、このキャンプは美しかった」とある友人は言った。「今は、美しくない」。けれども、彼女の「以前」の記憶は、取り返しのつかない過去と結びついている。「以前」、母親と弟が家で出血多量で死亡した。「以前」、彼女の家がアパッチ・ロケット2弾を受けた。

この女性の死亡した親類をシャヒードのポスターでだけ知り、彼女の父と兄弟たちがようやく涙を流さなくなったことを目にした私にとって、ジェニン・キャンプは生き生きとして見えた。最近6週間にわたり毎日外出禁止令が発せられ、全ての学校と仕事が停止したことは、侵略と占領の試みが、ニュースにもかかわらず続けられていることを示している。それでも、誰もがジェニンのことを知っている。どう覚えているかは別として。

一方、毎晩ブルドーザがやって来るラファについては、誰も覚えていない。150軒から200軒の家が破壊されたときには、夕方のニュースで言及する価値ありと判断された。日常普通におきる1軒、2軒、8軒といった破壊については注目を浴びない。

世界で最も人口密度の高い地域の一つであるラファには、新たに家を失った2000人を受け入れる場所はどこにもない。ラファは、9万人の登録された難民で溢れている。今、人々は瓦礫の中のテントで暮らしている。隣には監視塔があり、日夜そこから機関銃が乱射される。廃墟の向こうには、昔のエジプトとの国境線より10メートルこちら側に新たに建てられた鉄の壁が見える。イスラエルの拡大軍事ゾーンと果てることのない戦車とブルドーザによるパトロールのために、貴重な土地をさらに盗み取ったものである。人々は、どこにも行くところがないので、ラファにとどまっている。家を建て直すつもりかと聞かれたある男性は、ただ肩をすくめた。彼は、自分の家が建っていたところに戻ることさえできない。そこは自由発砲ゾーンとなっているのである。

コンクリートや鉄筋、靴や皿などが延々と続く向こうには、地中海が蜃気楼のように光っている。何年もの間、ラファの人は行くことができず、イスラエル軍とラフィア・ヤムの入植者が支配している地中海の音は、キャンプの端から聞こえ、そしてその香りが、不十分で戦車に破壊されたパイプから漏れ出す下水の臭いの中でさえ、漂っている。

メディアの注目に関する無限のアイロニーに沿ったように、パレスチナのこの場所について国際的に最もよく知られているイメージは、金髪のアメリカ人レイチェル・コリーである。昨春、イスラエルのブルドーザに轢き殺された人物。彼女の砕けた体を病院に運んだ落下傘医は、今、ハン・ユニスにある病院で寝ている。2発の銃弾が、彼の背中から胸へと入ったのである。

前回イスラエルが侵略してきたとき、彼は射撃塔から撃たれたのであった。ラファでずっと行われている侵略が少し激化したときであった。彼、ラジャ・オマルが最後に覚えているのは、2003年10月10日、子供たちが、ラファ・キャンプの破壊されたイブナ地区にあるUNRWAの施設の中から怪我人を取り出すよう彼を呼んでいるところであった。

彼の兄は、生命維持装置を付けた弟について、ベッドの横にかけられた制服を示しながら、次のように述べた。「誰もが、誰もが皆、この制服は医療関係者のものだと知っている」。

前回の侵略では18人が殺された。ラファには、50床の診療所として作られた病院が一件あるだけである。20分離れたハン・ユニスには、大きくて綺麗で現代的な、多くのサービスを提供している病院があるのだから、それは問題であるはずではなかった。けれども、ラファとハン・ユニスの間の道はイスラエル軍がキャンプの南部を侵略している間、イスラエル軍により閉鎖されていた。小さな病院の院長は、兵士たちは、「砂道」を通ろうとする救急車に対してさえ、発砲すると語った。

そのため、産婦人科がないこの診療所で、その2週間の間に、10件の帝王切開を行い、70件のハイリスクな出産を行なった。130人の怪我人は全員この病院にやってきた。そのうち35人は重体であった。間に合わせの手術室で一人の外科医が13件の大手術を行なった。パルダウド医師は、我々に、イスラエルは「通常の弾丸ではなく重弾丸を用いており、破裂弾とロケットを飛行機から発射する」ので状況は極めて悪いと語った。

ここで行われた手術について述べた彼の声には荒々しいプライドがあった。頭を銃弾で撃たれたサブラ・シャミは、イスラエル軍の妨害でハン・ユニスに運べなかったので、緊急脳外科手術がラファで行われた。彼をハン・ユニスに運ぶ許可が出たのは、20時間たって手術を終えたときだった。18歳の少年が「直接心臓を撃たれた」ため、盲腸と扁桃の手術訓練を受けた一般の外科医が、今回のインティファーダが始まって以来三度目の心臓切開手術を行なった。

「二人とも、今も生きている」とパルダウド医師は述べた。

「今も生きている」人々が、シファのエル・ワファ・リハビリ病院の病棟を埋め尽くしている。概ね若者や少年たちが、首や腰を麻痺させられ、開腹しないまでに昏睡したままぴくぴくし、手足を胎児のように丸めている。15歳の少年が、わずかに動く左足をあげて優しく微笑んだ。医者によると、毎日のように降り注ぐミサイルの破片により、彼の脊髄神経は治療出来ないほど損傷を受けたという。彼は、空からの超法規的処刑の「付随的被害」だというわけである。彼を退院させる段階だが、まず、家族に、彼の世話をするための1週間の訓練を施さなくてはならないという。パレスチナで重い身体障害を抱える人は、2.3パーセントから2.9パーセント(?)に過去3年間で増加した。そのほとんどは、脊髄や脳の損傷である。

これが、ラファの現実である。今回のインティファーダで259人が殺された。そのうち45人は子供である。そして、何千人もが怪我をしている。そのために町/キャンプ全体が、リハビリ病棟に見えるまでに。75%の人々が貧困生活を強いられ、これから事態が改善される見通しが感じられるときはひとときもない。世界のこの果てに作られた弾圧のための密室ラボに住む不幸を背負った人々の生活がどのようなものであるか、外の人々が知ることなど無いように思えるのだから。


イスラエルで「爆破テロ」というニュースはよく耳にします。それよりはるかに日常的に、体系的に、意図的に、不法に占領した場所でパレスチナ人を標的としているイスラエル軍が行なっている、ここで述べたような行為は、あまり大きなニュースにもならず、「テロ」とも呼ばれませんが。

不法占領下で、不法占領を行なっている軍・兵士への攻撃行為は正当な権利を保障されたレジスタンスであり、テロとは全く違うものです。そして、不法占領そのものが、巨大な犯罪です。いかに人道的な装いをプロパガンダで広めようと。

パレスチナの状況については、パレスチナ・ナビ及びパレスチナ情報センターをご覧下さい。絶え間ない攻撃に晒されるラファは、ここで紹介した記事がきちんと伝えていない出来事の日時等を伝えています。

と書いているときに、イスラエルの平和団体から、ニュースと緊急対応要請が入ってきました。以下、紹介します。
パレスチナの西岸ジェニンの南東にある小さなパレスチナ人の村アカバのハジ・サミ・サデクは「イスラエル兵士たちがやってきた。家を破壊している!」と言った。イスラエル軍は12月23日、2軒の家を破壊し、寒い冬のさなか、4人の大人と12人の子供の家を奪いホームレスにした。これから数日のうちに10軒の家がさらに破壊される予定である。クリスマスを家で過ごす人々には、家の破壊が家族にどのような破滅的状況をもたらすか理解できるだろう。

抗議の手紙を書くこと、それは、これまで家の破壊を阻止するために大きく貢献してきた。10月23日、何百人もの人々が手紙を書いたため、アカバでの家の破壊は中断された。今日、みなさんの手紙はパレスチナ人家族の生活に貢献することができる。

この行動は2004年3月1日までの予定で行われている[ができるだけ早くお願い]。

Webページは、http://ga3.org/campaign/stop_demolitions/e5ikn541jjtj3dですが、ここのフォームからの送信では、「地域」に米国内しかないようです。日本から送る場合には、下記の手紙例を適当に変更して、

notice-reply-e5ikn541jjtj3d@ga3.org

に送って下さい。手紙例の最初の行は、

Dear [decision maker name automatically inserted here],

のままで良いようです。以下は手紙例:

[この手紙例の中で、第一段落の真ん中へん、「This village has never caused a security problem = この村はイスラエルの安全を脅かすことはなかった」とある部分は、ややもすると、自爆犯が出たような村は破壊されても仕方ないという印象を与える問題があるとのご指摘をいただきました。私も同感しました。]

Dear [decision maker name automatically inserted here],

I am deeply shocked at the demolition by the Israeli Army of two houses in the occupied village of Akaba southeast of Jenin, on December 23, and even more so by the threat to destroy another ten houses. This village has never caused a security problem. The IDF apparently wants to destroy the whole village (the entire village contains no more that 18 houses) with demolition orders even for the mosque and the kindergarten.

In the much-publicized prime minsterial speech at Herzlia, a pledge was made that Israel would abide by its obligations under the Roadmap for Peace. The destruction of a village days after such a speech would cast grave doubts, to say the least, on whatever international credibility the government of Israeli still has.

I call upon you to act immediately to prevent any further demolitions and to grant the people of Akaba permits to build houses for themselves on their own land.

Sincerely,
[あなたのお名前・ご住所]
イラクについては、日本の三菱商事など9社がイラクへの軍需支援を行っている米国のエネルギーグループのハリバートンの子会社であるKBRと共同でイラクのガス開発事業に参加するとのこと。ハリバートンはブッシュ・ギャングたちの関連会社です。日本からは丸紅、伊藤忠、トーメン、千代田などが参加といいます。一方、石川島播磨などの軍需関係会社からは、人知れず技術者が自衛隊派遣に伴い派遣されているとのこと。

米英軍によるイラク侵略攻撃と不法占領は国際法違反であり、その中での民間人殺害等は、戦争犯罪です。アーミテージ米国国務副長官は、日本が「テロ」攻撃を受けたら、米国は反撃すると述べました。まず日本を不法占領と侵略の相棒として軍事的にも戦争犯罪に荷担させ、その上で、抵抗を受けたらあるいは日本が攻撃を受けたら(論理的にいって、全く何の言われもなく他国の侵略・攻撃に参加するのですから、日本事態が攻撃を受けることは十分あり得る状況を日本政府が自ら作り出していることになります)、それを地球規模のテロ戦争を続けるための道具に使おうというわけです。

アフガニスタンの状況について、ペシャワール会のサイトに国際正義という暴力という記事がありました。是非お読みください。自らが正義であると称する者たちの暴力は、異様に膨れ上がります。日本の「国際貢献という名の暴力荷担」も。

地球村に簡単にできるアクションの一覧紹介がありました。また、戦地イラクへの自衛隊派兵に反対する緊急署名が始まっています。小泉首相(03-3592-1754; 03-3581-3883)や川口外相(03-6402-2551)、メディアなどに、侵略占領への荷担に反対し自衛隊派遣に反対するファックスを送ったり、おかしな報道に抗議する声を届けましょう。特に、不法占領に対する抵抗を「テロテロ」と呼ぶ植民地時代さながらのメディア感性を、変えていくのは大切です。

益岡賢 2003年12月25日 

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